【R18】熊の様な45歳の近衛隊長は、22歳の美貌の皇帝に欲しがられています。

DAKUNちょめ

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想像力が豊か過ぎるのも困りもの。

ズイッと一歩前に進み出た令嬢は前回の顔ぶれには居なかったが、ミーシャを伯爵令嬢だと知って、この態度。

おそらく彼女も伯爵令嬢以上の貴族令嬢なのだろう。



ミーシャをやり込める為に他の令嬢が助っ人として呼んで来たのか…

彼女自身がノーザンを気に入っているのか……



兎にも角にも面倒くさい人間を相手にするなんて時間と労力の無駄だ。

そう思っているミーシャは、上から威圧するように覗き込む令嬢達の顔を見上げ続けるのも首が疲れるのでアホらしくなり、木の根元に座ったまま視線を自分の膝上の昼食の包みにおろした。



ミーシャのその態度が、図星を指されて言い逃れが出来なくなり意気消沈したかの様に見えた令嬢が、ここぞとばかりにミーシャに追い討ちを掛ける。




「ミーシャさん。これ、何かお分かりかしら。

わたくしの侍女が拾いましたの。」




ミーシャは面倒臭そうにヌゥんと亀の様にゆっくり頭を上げて、令嬢が手にした淡いピンク色の封筒を見た。



━━何かお分かり?まったく分からん。━━



ミーシャは無言でハテ?と首を傾げた。



「押し花にしたバラの花びらが封筒の封に使われてますのよ。
中々に情熱的じゃありませんこと?
ミーシャさんは、よほど相手の男性の事がお好きなのですわね。」



「……それが私が書いた恋文だと言いたいのでしょうか?





素性を明かさない謎の青年小説家のガルバンゾーには、時折恋文と見紛うほど情熱的なファンレターが来る事がある。

ミステリアスなイメージから美化される事も多いらしく、恋に焦がれるようなお嬢ちゃんから熱烈ファンレターが届く事もある。



ミーシャはキリアンの許しを得た上で、王城の裏門にて小説出版社の担当者に会って原稿を渡したり原稿料を受け取ったりしている。



その際、ガルバンゾー宛てのファンレターを受け取る事もあるのだが……

その中の一枚が落ち、この令嬢の侍女に拾われたらしいとの事。



確かに、ミーシャと担当者の関係を知らない者が見たら男女の逢瀬に見えなくはないかも知れない。

交換しているのも恋文だと思われるかも知れない。



そんな中で拾われた、熱烈ファンレター。




「…っく!」



━━くっそー!なんつー面倒臭い偶然が重なってんの

こんなの、うまく説明出来ないじゃん!━━




ミーシャは面倒臭さに絶句した。

言葉を詰まらせたそんなミーシャを見た令嬢は勝ち誇った様に、ミーシャに対して糾弾の姿勢に入った。




「そんな方がいらっしゃるのに、ノーザン様と恋仲だと公言なさるなんて!

恥知らずな事をなさっている自覚は御座いませんの!?」




「御座いません。私にはノーザン様の他に親しい男性はおりません。

それに私、恋文を書くなんて事に労力を使うの時間の無駄だと思ってますの。

ですから、その恋文は私が書いたものじゃありません。」




ミーシャはごくごく普通の口調に普通の語調で、だがキッパリと言い放った。

恋文なんか書く暇あるなら口で伝えてしまえ。

その方が早い。

それがミーシャの考え方。



恋文自体を否定するつもりはないが、自分が書いたものだと断言されるのが不快。

かと言って、特に強く令嬢に言い放ったつもりもない。

だがミーシャの物怖じしない物言いは、相手からすれば弱り果てた筈の相手にいきなり噛み付かれた様に思われた様だ。





「ミーシャさん!往生際が悪いですわよ!

そんなに恥ずかしい思いをなさりたいの!?

でしたら皆様がお聞きになれるよう、わたくしが読んで差し上げますわ!

ミーシャさんがしたためた恋文を!」




「どーぞ。」




令嬢は淡いピンクの封筒の端をピリッと破る様に切り開いた。




「フフン、そのように涼しい顔をしていられるのも今のうちでしてよ…ミーシャさん。」

 

封筒から取りだした便せんを広げ、令嬢がニイッと勝ち誇った様にほくそ笑んだ。










午前の兵士訓練が終わり、訓練場から兵舎に移動する若い兵士達の賑やかな声が聞こえて来る。



兵士達は訓練を終え、そのまま兵舎食堂に向かっている者が殆どであり、広場には余り顔を出して来ない。



広場に出て来ようとした者も実は居たのだが、令嬢達が木の下にたむろしている異様な光景とドロドロと渦巻く空気の悪さに、くわばらくわばらと皆その場から離れて行った。






「ああ…これは面白い事になっているね。」


訓練場にガインとノーザンを訪ねて来ていたキリアンは二人の手が空くまで兵舎の一部である建物の二階に案内され、窓の脇に立ち階下にある広場を眺めていた。



建物の側に立つ樹木の根元の様子が見えたのはキリアンにとって偶然だったが、下からは自分の姿が見えないのを良い事に、面白半分にことの成り行きを見続けていた。



「面白いだなんて…今、ミーシャ嬢は不義の疑いを掛けられているのでしょう?」



ガインより先にキリアンの元へ来たノーザンが、窓の外を見て表情を曇らせた。



「城の外にお付き合いをしている男性が居ると。

わっ…わたっ…私というこっ婚約者の居る身で……。」




「ノーザンは自分で自分の事をミーシャの婚約者だと言うの、まだ慣れないのか。」




赤くなった顔を隠す様に口元を手で覆うノーザンを仕方ないヤツだと鼻で笑ったキリアンは、ミーシャに目を向けた。


口元を覆う手を外したノーザンは、キリアンと同じ様に階下の木の根元に居るミーシャと令嬢達の様子を窺う。





「ミーシャ嬢が謂れのない罪に問われ、辱めを受けたり辛い思いをするような事があれば…

私は黙って見ていられません。」




「ミーちゃんはさ、あんな上っ面ばっか着飾ってるような生娘ごときに傷付けられるほどヤワじゃないよ。

だからこそ、面白いって言って見てられるんじゃないか。」




階下の木の根元では、くだんの令嬢がまるで罪状を読み上げるかのように便せんを縦に開き、声高らかに読み上げ始めた。





「━━ガルバンゾー様!!

以前、お送りしたお手紙の返事はどうなったのでしょう!!━━



ふふっ…王城の裏門で逢い引きなさってる方のお名前がガルバンゾーなのね?

これは、ミーシャさんがガルバンゾーさんを慕う余りに恋文のお返事を催促しているのだわ。」





ミーシャは無表情なまま、コクリと頷いた。


ミーシャはこの手紙の差出人に心当たりがあった。

1番最初に貰ったファンレターに自己紹介が書かれていた。



確か地方貴族の令嬢で、12歳の少女だったかと…

恋に憧れ過ぎて、ちょっと思い込みの激しいお嬢ちゃんだったはず。



「━━わたしほど、ガルバンゾー様を理解出来る者は居ないでしょう!

わたし、ガルバンゾー様の事を愛しております!

キャッ!言っちゃった!!━━



………???」




「……どうぞ、続けてお読みになって下さい。」




ミーシャは分かっていた。

このお嬢ちゃんの手紙は、手紙と言うよりは自身の未来理想図。

段々ヒートアップすると共に、有り得ない妄想まで混ぜ込まれ色んな意味でカオス状態になってくる。



他にもエロを織り交ぜた末にそんな感じの思考を持つ人物が近くに居るので良く分かっている。



そんな人の描いた世界を皆の前で音読するなんて……

…羞恥プレイ以外の何ものでもないのだと。




「━━ガルバンゾー様とわたし、前世ではメロンマロン王国で夫婦でしたのを覚えてらっしゃいますか?

わたし達の王国は隣国のパインペイン王国に滅ぼされ…!!━━

 

ま、待って!!これは何なの!?

メロンマロン王国ってナニ!?」





令嬢が声高らかに読み上げる陳書は二階部に居るキリアン達の耳にも届いており、ノーザンはミーシャが傷付くような事がなかった事で胸を撫で下ろすように安堵の笑みを浮かべる。

キリアンに至っては腹部を押さえてヒィヒィ言いながらの引き笑いが止まらなくなってしまっていた。




恥ずかしさに声を張った令嬢の質問に、ミーシャが首を傾げる。



「さぁ?その恋文とやらは、私が書いた物じゃないので分かりません。
分からないのですが、続きを読んで下さい。是非。」




「嫌よ!わたくしが恥をかいているみたいじゃないの!

わたくしはただ!ミーシャさんがお城の外の男性と良い仲だと……!!」





「なんだと!?ミーシャがノーザン以外の男と付き合っていると!?
そんな事、あるわけ無いだろうが!!」




地面を揺るがす様な低く、それでいて良く通る大きな声が広場一帯に響く。


建物の二階の窓からキリアンが下を窺った。





「ああ俺の女神が来たよ、ノーザン……。

ミーちゃんを守る為に、颯爽と現れた我が后は何と美しいのだろう。

そう思わないか、ノーザン。」




「わ、私には婚約者のミーシャ嬢が一番美しい女神に見えますので!」




ノーザンは、キリアン皇帝のガイン最強美人説に同意しなくても許される唯一の免罪符を入手していた。



婚約者のミーシャ嬢を美しいと言う事には、キリアンも文句は言わないのだ。





「それにしてもガイン隊長…
よくぞ、ミーシャ嬢の窮地を察しましたね。

さすがです。」




「いや…訓練が終わったら兵舎脇、広場の木の見える談話室に来るようにと伝えたんだけど。
ガインは場所を間違えて記憶したみたいだ。
広場の木しか把握してなかったんだろう。」





ガイン隊長あるある。

話は最後まで聞かない事がある。ノーザンはなるほどなと納得した。

同時に、それを理解しているキリアン皇帝に対してもさすがと言うか…大概だと言うか…。

変な納得をした。




キリアンとノーザンは窓から階下を覗きながら、ミーシャと令嬢達とのやり取りの行く末を案じて見守る。




「ガイン伯爵様、残念ですが本当の事ですのよ。
ご息女のミーシャ様は、ノーザン様とは別に好きな方がいらっしゃいますのよ。
ミーシャ様は、ガルバンゾーがお好きなんですのよ!」





「ガルバンゾーは俺も大好きだ!!
ガルバンゾーが好きで何か悪いのか!!
何なら俺はガルバンゾーを愛してると言っても過言ではない!!」









「…えぇ…?えー……愛してますの?
ガイン様が……ガルバンゾーさんを…えー……」



令嬢達が引きつり笑いを浮かべながら、ゆっくりゆっくり後退りしてゆく。



ガインとミーシャから距離を取りながら、やがてフェードアウトして逃げる様に皆、広場から去って行った。



令嬢達とガインの言い合いの主題となったモノは同じ名前だが互いの中の認識に相違がある。



ガインはガインで、ガルバンゾーという単語が頭の中を占めてしまい、令嬢達が話していたノーザン以外の男の存在とやらは頭から消えてしまっていた。



それに互いが気付いてないという。









「ガインの持つ伯爵領は……まぁ田舎なんだけど。

そこはガルバンゾー、ひよこ豆が特産品なんだ。

彼の領地の民の暮らしを支えるのはガルバンゾーだからね。

まぁ大事にしてるに決まってる。

それはミーシャも同じでね。二人の好物だし。」





「こちらの地域では、ガルバンゾーなんて呼び方は馴染み無いですもんね…。
皆さん、完全にガルバンゾーを人の名前だと思ってるみたいで……

…っへ!陛下!?」





階下のミーシャとガインをニコニコと笑顔で見つめるキリアンは


それはもう、怖い位の笑顔で


ドス黒い怒気を全身に纏っていた。





「ねぇノーザン。

令嬢達の頭の中で、ガインはガルバンゾーとどんな関係だったのかな。

彼女らが思わず引いてしまう位に、激しくやらしく絡んでるトコ想像されたりしたのかな。

…彼女らの脳みその中のガルバンゾーって、ミーちゃんじゃないよね……

アレか、ミーちゃんの担当をしているアイツがガインの相手を……」





「陛下!陛下っ!お気を確かに!!

彼はまったくの無関係です!

勝手な想像と妄想で、彼を恋仇認定しないで下さい!」





「でもな……

ガインはガルバンゾーを愛してると言ったんだぞ」





「それはひよこ豆の事ですから!!好物なんでしょ

正気に戻って下さいよ!!いい加減に!!」





━━くぅっ!ボケの始まった、おじいちゃんを相手にしてるのか、私は!━━




ノーザンはキリアンの怒りの矛先を収めて貰えるよう、強引に取り繕った。




「………そう言えばそうだな。

ガインが言ってるのは、ひよこ豆の事だった。

すまなかったな、ノーザン。」





霧散させるように怒気を消し、フワリと優しい笑みを浮かべたキリアンにノーザンが胸を撫で下ろした。





そのノーザンの表情の変わり具合を見ながらキリアンがほくそ笑んだ。





━━ふふっ真面目でからかい甲斐があって面白いヤツ。

まぁ、ノーザンならミーちゃんの夫…

俺の義息子としても合格だな━━



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