【R18】熊の様な45歳の近衛隊長は、22歳の美貌の皇帝に欲しがられています。

DAKUNちょめ

文字の大きさ
75 / 124

リスクィート国に隠された青年。

王宮に向かって王城の敷地内を行くリスクィート王家の紋章入りの豪華な箱馬車には、キリアン皇帝の義母であるカリーナと大柄な侍女の2人だけが乗り込んだ。


カリーナが住まいとしている離宮には、カリーナを護衛する兵士が居るが、カリーナの実兄である国王は外からの武力を王宮に入れる事を拒む。
カリーナが共を許されたのは侍女一人だけだった。


御者の隣に座った王宮からの使者が不躾にも小窓から箱馬車の中を覗き込み、カリーナの連れた侍女を見ては嘲笑を浮かべる。



「……先程から何なのです?
不躾にも、このわたくしを瞥見するなど。
無礼にも程がありますでしょう。」



「あ、いや失敬。
カリーナ王女殿下のお連れの侍女が、我が国の王宮では見ないタイプの女性なものでつい…ハハッ。
ベルゼルトの女性は美しいと聞いておりましたがねぇ。」



カリーナは扇を開き、口元を隠した。
そして目だけで、この不遜極まりない使者を睨み付ける。



「見目麗しい者を兄上の前に連れて行けるとでも?
幾人もの侍女が兄上や父上の慰み者になった挙げ句に憐れな扱いを受けたのを、あの城に居る者ならば誰もが知っている事。
それに彼女はよく働いてくれる。」



「一時でも国王陛下や王太子殿下の寵愛を受けたなら、それは名誉な事じゃないですか?
王家の血を引く子供を身ごもれば、尚さら━━」



「我が国では女も、王家の血を引く子供も使い捨ての効く駒でしかないのを知っているであろう。
国王と正妃の血を引く第一王女のわたくしですら。
ひと時の贅沢と引き換えに待っているのは大きな不幸だけだと。」



カリーナの声は使者には届かず、馬車は王宮の玄関前に停まった。

御者席から降りた使者がエスコートするようにカリーナに手を差し出したが、カリーナはこれを無視した。

先に身体の大きな侍女が、ハァハァヒィヒイ言いながら馬車を降り、エスコートする男性役の代わりにカリーナに手を差し出す。


使者は軽く舌打ちをしたが王宮の扉を開き、エントランスへとカリーナ達を招き入れた。



「では、国王陛下のいらっしゃる所に案内致します。
コチラです。」



使者が向かった先は、玉座の間に続くエントランス中央の大階段ではなかった。
カリーナは訝しげに眉をひそめる。



「兄上は玉座の間に居るのではなくて?
こちらの道は王の執務室でも無いわね。
何処へ向かうつもり。」



「西の尖塔です。」



リスクィートの王宮には、東西に大きな尖塔がある。

そこは来客を宿泊させる為の部屋が造られており、貴賓室ほど華美では無いが、賓客以外の者の寝所として王宮に設けられた場所となっている。

城内で感染病を患った者を隔離する際にも使われる、この部屋は、尖塔の最上階の4階にある。

尖塔はカリーナがこの王宮で暮らしていた間、行く必要が全く無く、一度も足を運んだ事が無い場所だった。


階段は螺旋状に一段一段が低めに造られており登りやすく配慮してある様だが、実のところは病人を歩かせたり、病人を運ぶ際に都合よくしてあるのだと感じる。



「ハァっハァっ、ま、待って下さい…カリーナ様…。
あたくし、身体が重くて…。」



「わたくしは先に行くから、貴女は、ゆっくり登ってらっしゃい。」



先を行くカリーナと王宮の使者に遅れながら、侍女がヒィヒイ階段を登って来る。

くるりと巻いた螺旋状の階段の途中で、侍女の姿が見えなくなった。

下の方で、相変わらずヒィヒイハァハァと苦しげな声だけが聞こえる。

呆れを含んだ嘲笑を浮かべた使者は侍女を待たず、カリーナだけを連れて尖塔を登って行った。



やがて最上階の大きな扉の前に到着したカリーナと使者には、侍女の声も聞こえなくなっていた。



「あんなブタみたいなんじゃ、ここまで階段を登るのは無理でしょう。
途中で動けなくなってんじゃないですか?
陛下がお待ちですし先に部屋に入りましょう。」



「………そうね。」



不愉快極まりない使者の言葉にカリーナは表情を変えず、部屋に入る事を承諾した。

使者が扉を叩き、中から王宮に仕える侍女が扉を開く。

大きな部屋には天蓋付きのベッドが置かれ、誰かが横たわっているようだ。

ベッドから少し離れた場所には応接室の様にソファとテーブルが置かれており、そのソファにはリスクィート国王が座っていた。



「兄上……いえ、国王陛下。
お待たせ致しました。」



カリーナは国王の前でカーテシーをした。

ベルゼルト皇国に第二皇妃として輿入れしたカリーナであったが、2年前に夫である先代ベルゼルト皇帝グレアムが崩御した際にリスクィートに帰って来ていた。

それからは王城の敷地内の離宮に引きこもり、王宮に姿を見せる事はほぼなかった。



「来たな。
離宮に引きこもる氷の魔女カリーナよ。」



実兄である国王の揶揄めいた言い方に一切の反応を見せないカリーナを見た国王がフッと軽い笑いを漏らした。



「氷の姫君の異名は健在か。嫌味も通じやしない。
お前は昔から血を分けた身内にも興味を持たない、冷めた奴だったな。
何しろ父上が逝去なさった際にも哀悼の意を一切示さずだんまりを決め込む様な薄情な女だからな。」



自分の発言や感情が、この国では全く意味を成さないから表現しないだけだと思っても、カリーナはそれを口にしない。

否定も肯定もせずに、冷めた目で国王を見た。



「兄上と駄弁を弄するつもりはありません。
わたくしを、この様な場所に呼びつけた理由をお聞かせ願えます?」



国王はソファから立ち上がるとカリーナの肩に手を置いた。
実の兄妹ではあるが、家族としての情を互いに持った事は無い。
その兄に触れられ、「情」を演じられるのは気味が悪いのを通り越して不快感しか無い。
だがそれも、カリーナは表情には一切出さなかった。

国王は慰める様にカリーナの肩を抱き、共にベッドに向かった。
ベッドの前には看病をするような行為をする侍女が二人おり、国王とカリーナがベッドに近付くと同時に場所を空けた。


薄い幕の内側に立ち、天蓋付きのベッドに横たわる人物の姿が見えた。

全身に火傷を負い、横たわる人物は両目も聴力も失っている様だった。

呻く声だけでは、年齢も性別も分からない。



「………れ……です……」



蚊の鳴くような声でカリーナが呟いた。



「これでも良くなった方なんだ。
見つけた時には、余命幾ばくも無いと思えるほど悲惨な状態だったのだ。
執拗に追われ命を奪われ掛けた所を………」



「この者は誰かと訊ねているのです!!!」



肩に置かれた手を振り払い、カリーナが国王に詰め寄った。
感情を見せる事が一切無かったカリーナの、初めて見せた剥き出しの憤りの表情に、国王の口端が僅かに上がった。
緩む口元をすぐに隠し、国王が再びカリーナの肩に手を置く。



「俺の大事な甥……お前の息子のケンヴィーだ。
敗走するケンヴィーをキリアン皇帝の手の者が執拗に追っていた。
我が国の軍がケンヴィーを保護しようとした際、ベルゼルトの兵士がケンヴィーに油を掛けて松明を投げつけたのだ。
逃がす位なら殺してしまえ……とな。」



カリーナは髪も肌も焼けただれた青年の、指先に触れた。

両目の上には白い布が置かれており、瞼は残っているが閉じた状態で張り付いてしまい、目を開けないらしい。



「………は……はぅ………ぇ………」



「そうですよ……母が来ましたよ。
……よく頑張りましたわね……。」



「励ましも聞こえちゃいないがな。」



国王の言葉を無視し、カリーナが柔らかな声で答えながら、返事の代わりに青年の焼けた指先にある爪を軽く押した。



「兄上は、ケンヴィーをどうするつもりなの?
わたくしの大切な子よ。」



「俺にとっても大切な甥っ子だ。
このまま泣き寝入りなど出来る筈が無いだろう。
ベルゼルトには報いを受けて貰わねば。」



カリーナは持っていた扇を床に叩き付けた。



「そんな事を言ってるんじゃない!
この子を、ちゃんと治療してくれるの!?
この城で!そのような事をしてくれるの!?
なぜ、侍女だけで治療士も居ないの!
どういうつもりなの!!」



激昂したカリーナが国王の服を掴んだ。

氷の姫君と呼ばれたカリーナが初めて見せた人間らしい表情に、最初は面白がっていた国王だったが段々と煩わしくなって来た。



「俺にとっても大切な甥だと言ったろう。
治療士なら、ちゃんと毎日来させている。
いくら妹であろうとも、俺がケンヴィーの治療を疎かにしているような言い方は無礼だぞ。」



「なっっ…!!」



「ハイハイハイ、カリーナ様落ち着いて下さいまし!
お怪我をなさったケンヴィー様の前で、伯父上と母上が喧嘩などしちゃいけません!!」



鬱陶しそうに答えた国王に、食って掛かる勢いのカリーナを身体の大きな侍女が羽交い締めする様に背後から抑えた。



「一度離宮に戻りましょう、カリーナ様。
ケンヴィー様との面会は、また改めて致しましょう。ね!」



「でしたら…!わたくしの離宮で、わたくしがケンヴィーを看病致しますわ!
ケンヴィーを、離宮に運んで下さいまし!」



「それは出来んな。
見ての通り、ケンヴィーは重症だ。
移動など出来る身体ではない。
今日ここにお前を呼んだのは、ケンヴィーが生きている事を報せたかったからだ。
何しろいつ死ぬかも分からぬ容態だからな。
死の淵を彷徨う我が子の所在も知らぬ憐れな母に、俺が慈悲をもたらしてやったのだ。」



飛びかかる勢いで激昂していたカリーナが侍女に諭され、少し冷静さを取り戻した。
慈悲の心など持ち合わせてもいない癖に、どの口が物を言うのだろうと憎悪の念を抱かずにはいられない。



「…後生ですわ兄上…。せめて…。
わたくしが我が子ケンヴィーに会いに、王宮を訪ねて来る事をお許して下さいまし…。」



「気が向いたらな。
俺の同席無しに会う事は許さん。だが俺は忙しい。
お前も母親として、ケンヴィーをこんな目に遇わせたベルゼルトを討つのだと心を決めろ。」



カリーナと侍女は、国王によって部屋から追い出された。

部屋の中から遅れて使者が現れ、再びカリーナと侍女を馬車に乗せて離宮に向かう。

カリーナは馬車の中で、ブツブツと呪言の様な言葉を呟き続けていた。



「許さない……許さないわ……なんて非道い事を……
我が子の、あのような姿を晒されて………
黙っていられると思っているの………
滅びればいい……許さないわ……」

感想 4

あなたにおすすめの小説

嫌われ将軍(おっさん)ですがなぜか年下の美形騎士が離してくれない

天岸 あおい
BL
第12回BL大賞・奨励賞を受賞しました(旧タイトル『嫌われ将軍、実は傾国の愛されおっさんでした』)。そして12月に新タイトルで書籍が発売されます。 「ガイ・デオタード将軍、そなたに邪竜討伐の任を与える。我が命を果たすまで、この国に戻ることは許さぬ」 ――新王から事実上の追放を受けたガイ。 副官を始め、部下たちも冷ややかな態度。 ずっと感じていたが、自分は嫌われていたのだと悟りながらガイは王命を受け、邪竜討伐の旅に出る。 その際、一人の若き青年エリクがガイのお供を申し出る。 兵を辞めてまで英雄を手伝いたいというエリクに野心があるように感じつつ、ガイはエリクを連れて旅立つ。 エリクの野心も、新王の冷遇も、部下たちの冷ややかさも、すべてはガイへの愛だと知らずに―― 筋肉おっさん受け好きに捧げる、実は愛されおっさん冒険譚。 ※12/1ごろから書籍化記念の番外編を連載予定。二人と一匹のハイテンションラブな後日談です。

【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。

村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました! ありがとうございました!! いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い <あらすじ> 魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。 見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。 いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。 ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。 親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。 ※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。 └性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。