【R18】熊の様な45歳の近衛隊長は、22歳の美貌の皇帝に欲しがられています。

DAKUNちょめ

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正義を貫く残酷。

「カリーナ王女殿下、王宮から使いの者が来ております。」


夜分に王宮からの使者がカリーナの離宮を訪ねて来るなど、理由は一つしかない。

リスクィートの兵士である離宮の門番は顔見知りの使者に、日を改める様に伝える事もなくカリーナの了承を得る事もなく、王宮からの使者を邸にまで案内した。

エントランスまで呼び出されたカリーナは兵士を一瞥する。


「いいわ。あなたは下がってちょうだい。
わたくしの部屋にて話を聞きます。」


カリーナは離宮の門番を邸から出し、その場に残った使者を連れ私室に向かった。

その使者に対するカリーナの印象は、女を値踏みするようにいやらしい目で見ていた国王の飼い犬……いや、それ以下。

その使者が片膝をつき頭を下げ、神妙なる面持ちで口を開いた。
使者の隣にはセドリックが立つ。


「夜分にご無礼を。カリーナ様……
西の尖塔にて、先ほどケンヴィー様がお亡くなりになりました。」


姿形や声音など全てがあのいけ好かない王宮の使者にしか見えないが、目の前でカリーナに傅くこの使者は女であり、ヴィーヴルの暗部に属する者だという。


女の名はテンソ。
天鼠とはコウモリを指す遠い国の言葉だとカリーナはセドリックから聞いた。

細身で身軽ながら筋力がある彼女は、カリーナが西の尖塔に案内されたあの日、大柄な侍女に扮したセドリックの身体にしがみついた状態で尖塔に侵入した。

螺旋階段でセドリックから離れたテンソは、そのまま王宮に潜んだ。

王宮は広く無駄に華美な調度品や美術品も多く、身を隠すのは簡単だった。

テンソは王宮に潜み使者に成り代わる機をうかがっており、『アレ』と呼ばれた者が処分を言い渡された際に使者と入れ替わった。

西の尖塔に使者だけが入る事を許された際に、使者の行動を把握していたテンソの指示でヴィーヴルの者達で青年を尖塔から連れ出した。


「尖塔には居なくても、そこかしこにリスクィートの兵士は居たでしょうに。
よくバレずに事を運べた事。」


感心する様に言ったカリーナに、セドリックが微笑して答えた。
それがヴィーヴルなのだと。



ケンヴィーの身代わりとなった憐れな使者は濡れた紙で鼻と口を塞がれ、既に絶え絶えであった命の灯火をテンソによって奪われた。

使者になりすましたテンソが、ケンヴィー皇子の処分が済んだとリスクィート国王に報告をした際に遺体を見られたが何も疑われる事は無く、そのまま他の使用人達に遺体を運ばせ焼いてしまえと命じられた。

そして使者の亡骸は、ケンヴィー皇子として荼毘に付された。


「わたくしは、あの者の骨をケンヴィーの遺骨として受け取らねばならないのね。悲しいわ。」


カリーナが暗闇を赤く染める窓の外の炎を眺めて呟いた。


「カリーナ皇妃殿下、西の尖塔に居たあの方は…
ケンヴィー皇子殿下ではないのですよね…?」


治療を施しても完治は出来ない。
どこまで生きながらえるかも分からない。
我が子ではない何者かを、カリーナは母として愛してゆくと言った。
理解出来ないセドリックがカリーナに訊ねた。


「あれは、わたくしの甥よ。
兄上と第一側妃の息子で名はフォアン。
あの子の指に触れた時に気付いたわ。
フォアンは生まれつき左手の小指の関節が一つ少なかったから。」


ケンヴィーがキリアンとの戦争に負け、敗走し戦場から姿を消した時

ケンヴィーと共に戦場から姿を消した貴族は、全てがリスクィートの息が掛かった者達だった。

リスクィート国王は、そのままケンヴィーを拉致し、リスクィートに連れ去る様に貴族達に命じていたのかも知れない。

だが、同行した貴族やその私兵は全て遺体となって見つかり、ケンヴィー皇子は死体も見つからずに生死不明となった。


ケンヴィーが必要だったリスクィート国王は、ケンヴィーを作った。
ケンヴィーの凄惨な姿をカリーナに見せる為だけに。


「では城内外問わず噂になっている、少しばかり前に不義の罪で処刑された側妃というのが…フォアン王子の母君ですか。」


「兄上には身内に対する情なんて無いのよ。
役に立つか立たないか。
それが全てよ。」


━━第一側妃の彼女の父は、わたくしの輿入れと共にベルゼルトに来た宰相補佐のマンダン。
兄上はもう、マンダンを見限ったんだわ。
そしてフォアンをケンヴィーに仕立てる為に、邪魔になる側妃を不義の罪を押し付けて先に処分した…
なんて、おぞましい男なの…━━


長く見てきた兄の行動が手に取る様に分かり、カリーナは一瞬だけ強い嫌悪の表情を見せた。

だが、やがて目を伏せて深い溜め息をついた。


「わたくしは自分の意思で人の命を奪う決断をした。
自らは手を汚さずとも、わたくしは人を殺したのよ。
そんなわたくしが兄上を軽蔑するなんて可笑しな話ね」


自嘲する様なカリーナの表情を見たセドリックは、かしずいたまま首を横に振り、カリーナを見上げて微かに笑んだ。


「我が姉セレスティーヌは自らの手で多くの命を葬ってきました。
だが、姉には後悔する事も罪悪感に苛まれる事もありませんでした。」


「セレスは心も強いのね。」


「自分の正義を貫くのが奪った命に対する礼儀だと姉は言っておりました。
カリーナ様が正しいと思う道をお進み下さい。
そして踏み出したならば振り返らない事です。
摘んだ命は戻せません。
でしたら、貴女はそれを無駄になさらぬよう自身の正義を貫くだけです。」


リスクィートに保護されていたケンヴィーが亡くなった事をキリアンに報告すると伝え、セドリックはカリーナの前から闇に溶ける様に姿を消した。

使者の姿をしたテンソも、カリーナに礼をして王宮に戻って行った。


「我が子の弔い合戦と称して、わたくしがベルゼルトに対し宣戦布告をする絵図が調ったのね。
確かに、もう踏みとどまる事は出来ないわ。
ただ…懸念すべきは、ケンヴィーの無事。」


ケンヴィー本人が死亡したとの裏付けが無い以上、偽者を用意したリスクィート側は本物を探し出し消してしまわなければならない。

今も秘密裏にケンヴィーの行く方を探っている事だろう。

だがカリーナ自身もケンヴィーの行く方を知らず、守る事も助ける事も出来ない。

カリーナは子を亡くしたばかりの母を演じる冷たい表情の裏で、ただただ我が子の無事を祈るばかりだ。


━━キリアンならば何か知っているのかも知れないけど…
今は確認のしようもないわね。━━













生死不明なままで行く方知れずとなっていたケンヴィー第二皇子殿下が存命。
しかも庇護された先がガインの実家であるヴィルムバッハの領主邸。
それだけでも驚きなのに、ケンヴィー皇子殿下を守る兵士が、戦乱の中で生死不明となっていた亡国の王子だという。

そんな驚愕の事実を激しい交合の最中に告げられるとは……。


「はぁぁあ…………」


ガインはベッドの上で脱力したかの様にうつ伏せで枕に顔を埋めたまま、深い深い溜め息を吐いた。


「疲れた?
ちょっと無理をさせ過ぎたかな。」


うつ伏せになったガインのムッチリとした臀部の双丘を撫で回しながら、キリアンがガインの背にチュッと吸い付くキスを落とす。


「…無理や無茶は今さらだろうがよ。
驚愕の事実が多過ぎて、驚く事に疲れただけだ。
ケンヴィー皇子殿下の事はもとより……
…まさか、ドナウツェードルンの王子が生きていてヴィルムバッハに居たなんて…
ベルゼルトとの戦、あれからもう20年以上も経ってるんだぞ?」


その戦でのガインは前線で剣を振るっていた皇妃を護る役目を与えられており、常に皇妃と共に居た。

ドナウツェードルン国王は城で討ち取られ、その際に王城に籠城していた貴族や兵士などが降伏し、多くの捕虜が捕らえられたが、その中に王子らしき子どもの姿は無かったと記憶している。


「あの時、王城には入らなかった親父が保護したと何処からか、こ汚いガキを連れて来たのは覚えている。
街で拾った孤児だと聞いたが。」


「それがルンルンみたいだよ。
当時が5歳位だったみたいだから、今は30歳前辺りになるのかな。」


「いやいや…あれは王子って感じでは無かったがな。」


「王子として扱われてなかったらしいから…。
彼が見つかったのは庭園から入る王城から離れた場所に造られた地下牢で、他にも数人の子どもが居たみたい。
皆、折檻の痕がひどく既に事切れていたそうだけど。」


キリアンの言葉に、あの日ヴィルムバッハ将軍が連れて来た、やつれた虚ろな目の小さな少年の姿を思い出せば、あの様な姿をした子ども達が地下牢で亡くなっている光景をガインは容易に想像出来てしまった。

彼━━ルンルンも、その時かろうじて生きている様な状態だった。


「胸糞悪い話だ…我が子だろうがよ…。」


「あの国の王にとって子どもは、自分の地位を脅かす者でしかなかったらしいよ。
何人も妻を娶り、何人も亡くなった。
表向きは病死と言われていたらしいけど。
嗜虐傾向の強い男だったらしいからね。
…カリーナ義母上が輿入れする予定だった国の王は。」


「あの頃のセレスティーヌ皇妃殿下が、あの国は早くぶっ潰さなきゃって言っていたのが今になって分かるわ。
国家間の問題だけじゃなかったんだな。」


セレスティーヌは自身の掲げる正義を貫く為なら、立ちはだかる者に容赦しなかった。

特に、抗う術も無く虐げられている女性や子どもを守る為ならば━━


「……ちょっと、やり過ぎな所もあったけどな……」


実は、ガインがキリアンに稽古をつけていた時、数回殺気を感じた事がある。
キリアンがあまりにも良く出来た弟子だったのでガインの指導にも熱が入り、よく大人顔負けの打ち合い稽古をしたのだが、華奢で儚く美しい少女の様なキリアンにガインが打ち込む姿は、酷い仕打ちにしか見えないと皆に良く言われた。

恐らく同じ様に思ったのだろう、セレスティーヌがガインに向け無意識に殺気を飛ばしたようだ。


「俺は母上の熾烈な面を実際に見た事は無かったけれど…それは俺も何となく感じた。
一瞬、背筋が寒くなったもんな。」


「まぁ、剣士として一流の腕を持つセレスティーヌ皇妃殿下が冷静な目で見れば、それが虐待ではないと、すぐ分かったろうがな。」


何しろ、そんな剣鬼の血がキリアンにも流れている。

見た目にそぐわない程の資質を持つ事も母としては分かっていたのだろう。


「それにしても……」


王の息子として生まれながら、玩具の様に虐げられる為に生かされたビョルン王子達。
戦争が正しい事だとは思わない。

あの戦で、敵も味方も多くの兵士が死んだ。

家族を失い、攻め込んで来たベルゼルトを憎んだ者も多く居ただろう。


「戦を仕掛けられて国が滅び、皮肉にもその戦によって助けられた王子……あの日以降、お会いした事は無いが…
何を思い、この20年を過ごして来たのだろうな。」


枕から顔を上げたガインが、キリアンに尻を撫で回されながらしんみりとした表情を見せる。


「ヴィルムバッハの邸で、2人は何度も会ってるハズなんだけどね。
ミーシャがヴィルムバッハに行く前までは邸に居たんだから。」


キリアンにしてみれば、ガインの記憶に自分以外の男に関する記憶が無い事は喜ばしい。

だからこの時、いらぬ事を思わず呟いてしまった事をキリアンは激しく後悔した。


「邸に…?おお!もしかしてクリクリ頭のあの坊主か!
俺が実家に行った時に、親父が知人に預けられたから、しばらく面倒見るって言ってた!
アイツが戦場で見た、痩せっぽちのあの子どもか!
そういやぁ親父に言われて、体術を教えてやったわ!
中々筋が良くてな!」


「…………………俺以外に弟子が居たって事?
そんで、組んず解れつイチャイチャしたの。」


その時キリアンが飛ばした嫉妬は、セレスティーヌ皇妃の飛ばした殺気以上に、その場を凍り付かせた。


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