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キリアンの調べ事。
ヴィルムバッハ領を発ったミーシャは、ムキムキになった従者2人を従えて約一ヶ月半ぶりに王都に戻って来た。
王都のヴィルムバッハ邸には寄らずに直接王城に向かったミーシャは王城の門の前で従者達と別れ、キリアンとガインに顔を会わせる前に自室にて着替えようと旅装束のまま裏門から王城敷地内に入った。
「ミーシャ殿、おかえりなさい。」
「あら、ノーザン様。」
裏門の近くにある木の下に立っていたノーザンに声を掛けられたミーシャは僅かに驚きの表情を見せ、ノーザンの元に向かった。
「なぜこちらに?
今日帰る事は、誰にも告げてなかったのに。」
目の前に立ちノーザンをジッと見上げるミーシャからバツが悪そうに目を逸らしたノーザンは、動揺しているのか無意識に自身の眼鏡に何度も触れる。
「あの…帰城した貴女を私が一番最初に迎えたいと…
毎日空いてる時間には、こちらに来ておりました。」
「毎日…まぁ…そうでしたの。」
表情を変えないミーシャに見続けられたノーザンは、その視線に引かれたのだと思い、居たたまれなくなりカクッと項垂れた。
「申し訳ありません…気持ち悪いですよね、こんなの。」
「そんな事は思ってませんわよ、ただ……
想われるという事が、こんなに嬉しいと感じる自分に驚きましたの。」
━━それと初めての恋愛に戸惑いながらも懸命なノーザン様が可愛くて……これが萌えるって事?
いや、ウブ過ぎてマジで可愛いでしょ!
ピュア系眼鏡ヒロインか!━━
と、キリアンに言ったら「眼鏡ヒロインはガインだろ」と即答されそうだわ、と思ってしまったミーシャは、そう言えば━━とノーザンの顔を見た。
ミーシャが口を開くより先に、ミーシャの問いを察したノーザンが答える。
「陛下とガイン隊長殿は一週間ほど前から王城を離れております。
予定では、本日お帰りになられるそうです。」
「陛下が城を離れるとなると護衛の兵士も少なくはないでしょうし大掛かりですわね。
……そんな感じはありませんけど。」
城は城主不在といった雰囲気は無く、兵士もいつもの顔ぶれが揃っているために普段通りにしか見えない。
「お忍び…とでも言いましょうか、調べたい事があるからと陛下は限られた者にだけ城を離れる事を告げてガイン隊長のみを伴い城を出ました。
私はミーシャ殿にそれを伝える為に知らされましたが、他の兵士は陛下不在を知らされておりません。」
「そうなんですの。」
ミーシャ自身は見ていないが、ケンヴィー皇子がヴィルムバッハに居る事を確信しており、キリアンもミーシャからの手紙によりケンヴィー皇子の無事を把握したであろうと考えた。
ノーザンには話せないが調べ事とは、それに関わる事かも知れない。
「でしたら、陛下とお義父様へのご挨拶は二人が帰ってからですわね。」
ミーシャはノーザンと並んで城内へと入った。
城の中を自室に向かって歩きながら、ふと窓の外に目を向け庭園を歩く婦人方の姿を目にした。
ドレス姿の女性達に、2ヶ月近く前に兵舎近くの裏庭にて令嬢達に詰め寄られた事を思い出した。
「皆さま、良いお相手は見つかったのかしら。」
「……ご令嬢の方々ですか?
ああ、談話室の下でミーシャ殿に詰め寄った伯爵家のご令嬢、覚えてますか?」
「ええ、覚えております。
ドロテアナ様でしたかしら。」
ミーシャの頭にポンと即座に顔が浮かんだ。
ガルバンゾーのファンである、夢見がちで少しイタい少女のファンレターを音読するという羞恥プレイを自ら行った令嬢だ。
「その…ドロテアナ様ですが、ガルバンゾー先生の担当の方をガルバンゾー先生だと勘違いしており…
求婚しております。」
「はえ?」
ミーシャの口から「はあ?」と「ええ?」が混ざった変な言葉が出た。
普段、表情を余り変化させないミーシャが、あからさまに驚いた顔をしてノーザンを凝視する。
「どうも…ガルバンゾー先生の作品をお読みになったらしく、熱烈なファンとなった様で……
ミーシャ殿を訪ねて来る担当の方をガルバンゾー先生だと思い込んだらしく……」
「彼をガルバンゾーだと勘違いしていたのは知ってるけど…求婚?
貴族の令嬢のあの人が平民の男に?
あの方、そういうの出来ない方ではありませんでした?」
貴族の婚姻は家の結び付きであり、恋愛とは別。
ドロテアナはそういう考えの持ち主だ。
ましてや身分違いでの恋愛など絶対に出来ない人だとミーシャは思っていた。
「ガルバンゾー先生の担当の方、辺境伯家の次男だそうですよ。
家は長兄が継ぐからと、王都に出て平民として働いていたそうですが。」
「田舎が嫌で都に出て来たとは言っていたけど。
そっかあ貴族の坊っちゃんかぁ。」
「まぁ、彼は貴様籍を抜けるつもりらしくて、令嬢の求婚を受ける気は無いそうですが、伯爵家の方が乗り気な様で。」
ミーシャは手の平をパン!と叩いた。
まだ公の場での発言はされていないから仕方がないのだが、今が他国から戦争を仕掛けられるかも知れない緊迫した状況だと知っているミーシャにとっては平和な悩み事でしかない。
「うん、ソレどーでもいいわ。
ノーザン様も真剣に彼の相談に乗らないで下さい。」
ミーシャはヴィルムバッハに旅立つ際、仕上げた原稿を担当者が取りに来たら渡して欲しいと、ガルバンゾー代理を頼みノーザンに預けた。
ガルバンゾーの原稿を取りに来た際に二人は多少言葉を交わしたのかも知れないが、それで仲良くなったのか何なのか……
ノーザンが悩み事を相談された模様。
「何だか、かつての私を見ているようで気の毒だと。」
「他人に同情してる場合ですか、ノーザン様。
次にヴィルムバッハへ行く時はノーザン様も同行し、お祖父様にご挨拶して戴くんですからね。
他人にかまけている余裕なんかありませんよ。」
ノーザンが見る見る青ざめ、胸に手を当て今にも吐血しそうな病人顔になった。
「ガイン隊長のお父君のヴィルムバッハ将軍ですか…
私、生きて戻れますかね…。」
「まぁ…厳しい扱きはあるかも知れませんけど…
私を得るために、逆に殺っちゃう位の意気込みを見せて早めに打ち負かして下さい。
………期待してますわよ。」
珍しく笑顔を見せたミーシャが、小悪魔の様にノーザンに向けウィンクをする。
初めて見たミーシャの一面に、ノーザンがハートを撃ち抜かれたのは言うまでもない。
「はい!必ず勝ちます!負けません!」
「……扱かれ過ぎてマッチョになって欲しくないしね」
▼
▼
▼
ミーシャが帰城するより一週間ほど前━━
キリアンとガインは馬を駆り二人のみで城を発った。
皇帝陛下が護衛を一人しか従けずに城を離れる事を、宰相や他の側近達が反対したが、キリアンは聞き入れなかった。
旅人の出で立ちで城を出た二人はそれぞれの愛馬にまたがり、キリアンが先導しガインが後に続く様にして王都を出る。
休憩を入れ、途中で何度か馬を休ませながらも走り続けて丸一日ほど
辿り着いたのは王都に近い位置にある森林の奥。
「ここは……」
目的地に到着したと馬を降りたキリアンに続きガインも馬を降りた。
「懐かしい場所だろ?
この場に来るのは七、八年ぶりかな。」
この深い森は、かつてガインが師としてキリアンに剣を指南していた頃に野営術などを教えていた場。
馬を降りた場所は、その際に二人が拠点としていた地だ。
「懐かしいと言われたら確かに懐かしいが……
この場で調べ物って何だ。」
キリアンに「調べたい事がある」と言われて二人きりで城を離れた際に、ガインはケンヴィー皇子に関する重要な何かを探るのだと思っていた。
「旅人の衣装を着たガインも新鮮でいいね。」
「……いや、普段着とあまり変わらんだろ。
それより…………」
話を逸らされたガインが自身の服を見てからキリアンの方に目を向けた。
ガインより、キリアンの方が普段との差が大きい。
質素なシャツに革のベストとパンツ、金糸の長い髪は高い位置でひとつに結ってあり、馬の尾の様に揺れている。
どこにでも居そうな旅人の青年の格好をしているが、キリアンの美貌と内側から溢れ出る気品が隠し切れておらず衣装とのギャップがエグい。
ガインは大きな溜め息をついた。
「七、八年前は平和な森だったが、先の戦で王都周辺の森林はかなり物騒になったと聞いた。
ここも安全とは言えん。」
「分かってるよ。
高い外壁に囲まれた王都内だって、まだ無法地帯となっている場所があるんだ。
注意を怠ったりはしないさ。」
馬を木に繋ぎ飼葉を与え、キリアンが野営の準備をし始めた。
ガインは「まさか」とは思っていたがキリアンは野営をする気の様だ。
「皇帝陛下が、こんな所で野宿みてぇな真似をすんのか?」
「皇子殿下と呼んでいた頃は普通にさせていたじゃないか。」
剣や武芸に限らず、どんな事態に陥っても生き延びる確率が上がるよう、ガインはキリアンに色々と教えてきたつもりだ。
代々ベルゼルト皇帝を守ってきたヴィルムバッハ伯爵家は、ベルゼルト皇帝の血を絶やす事を恐れる。
だから、国が滅んでもベルゼルト国民が一人もいなくなったとしても、グレアムからキリアンへと継がれて来た皇帝の血を絶やしたくはない。
「………なのに俺は………」
キリアンが正式に皇妃を娶らなければ、次代の皇帝は生まれない。
脈々と受け継がれる皇族の血脈を自分のせいで絶たせてしまうのか、 ガインにはそんな罪悪感もある。
だが、自分を妻と呼ぶキリアンが妃を迎えるのを想像するだけで胸が張り裂けそうに苦しい。
「………!!キリアン!?」
考え事に意識を囚われていたガインが、ハッと野営の準備場所に目を向けた時、そこにキリアンの姿は無かった。
石を組み上げたカマドだけがあり、薪を集めに森に入ったのだと気付く。
「考え事に気を取られて陛下の姿を見失うなんて…!
キリアンに何かあったら…!」
ガインは剣を腰に携え、キリアンを追って森に入った。
王都のヴィルムバッハ邸には寄らずに直接王城に向かったミーシャは王城の門の前で従者達と別れ、キリアンとガインに顔を会わせる前に自室にて着替えようと旅装束のまま裏門から王城敷地内に入った。
「ミーシャ殿、おかえりなさい。」
「あら、ノーザン様。」
裏門の近くにある木の下に立っていたノーザンに声を掛けられたミーシャは僅かに驚きの表情を見せ、ノーザンの元に向かった。
「なぜこちらに?
今日帰る事は、誰にも告げてなかったのに。」
目の前に立ちノーザンをジッと見上げるミーシャからバツが悪そうに目を逸らしたノーザンは、動揺しているのか無意識に自身の眼鏡に何度も触れる。
「あの…帰城した貴女を私が一番最初に迎えたいと…
毎日空いてる時間には、こちらに来ておりました。」
「毎日…まぁ…そうでしたの。」
表情を変えないミーシャに見続けられたノーザンは、その視線に引かれたのだと思い、居たたまれなくなりカクッと項垂れた。
「申し訳ありません…気持ち悪いですよね、こんなの。」
「そんな事は思ってませんわよ、ただ……
想われるという事が、こんなに嬉しいと感じる自分に驚きましたの。」
━━それと初めての恋愛に戸惑いながらも懸命なノーザン様が可愛くて……これが萌えるって事?
いや、ウブ過ぎてマジで可愛いでしょ!
ピュア系眼鏡ヒロインか!━━
と、キリアンに言ったら「眼鏡ヒロインはガインだろ」と即答されそうだわ、と思ってしまったミーシャは、そう言えば━━とノーザンの顔を見た。
ミーシャが口を開くより先に、ミーシャの問いを察したノーザンが答える。
「陛下とガイン隊長殿は一週間ほど前から王城を離れております。
予定では、本日お帰りになられるそうです。」
「陛下が城を離れるとなると護衛の兵士も少なくはないでしょうし大掛かりですわね。
……そんな感じはありませんけど。」
城は城主不在といった雰囲気は無く、兵士もいつもの顔ぶれが揃っているために普段通りにしか見えない。
「お忍び…とでも言いましょうか、調べたい事があるからと陛下は限られた者にだけ城を離れる事を告げてガイン隊長のみを伴い城を出ました。
私はミーシャ殿にそれを伝える為に知らされましたが、他の兵士は陛下不在を知らされておりません。」
「そうなんですの。」
ミーシャ自身は見ていないが、ケンヴィー皇子がヴィルムバッハに居る事を確信しており、キリアンもミーシャからの手紙によりケンヴィー皇子の無事を把握したであろうと考えた。
ノーザンには話せないが調べ事とは、それに関わる事かも知れない。
「でしたら、陛下とお義父様へのご挨拶は二人が帰ってからですわね。」
ミーシャはノーザンと並んで城内へと入った。
城の中を自室に向かって歩きながら、ふと窓の外に目を向け庭園を歩く婦人方の姿を目にした。
ドレス姿の女性達に、2ヶ月近く前に兵舎近くの裏庭にて令嬢達に詰め寄られた事を思い出した。
「皆さま、良いお相手は見つかったのかしら。」
「……ご令嬢の方々ですか?
ああ、談話室の下でミーシャ殿に詰め寄った伯爵家のご令嬢、覚えてますか?」
「ええ、覚えております。
ドロテアナ様でしたかしら。」
ミーシャの頭にポンと即座に顔が浮かんだ。
ガルバンゾーのファンである、夢見がちで少しイタい少女のファンレターを音読するという羞恥プレイを自ら行った令嬢だ。
「その…ドロテアナ様ですが、ガルバンゾー先生の担当の方をガルバンゾー先生だと勘違いしており…
求婚しております。」
「はえ?」
ミーシャの口から「はあ?」と「ええ?」が混ざった変な言葉が出た。
普段、表情を余り変化させないミーシャが、あからさまに驚いた顔をしてノーザンを凝視する。
「どうも…ガルバンゾー先生の作品をお読みになったらしく、熱烈なファンとなった様で……
ミーシャ殿を訪ねて来る担当の方をガルバンゾー先生だと思い込んだらしく……」
「彼をガルバンゾーだと勘違いしていたのは知ってるけど…求婚?
貴族の令嬢のあの人が平民の男に?
あの方、そういうの出来ない方ではありませんでした?」
貴族の婚姻は家の結び付きであり、恋愛とは別。
ドロテアナはそういう考えの持ち主だ。
ましてや身分違いでの恋愛など絶対に出来ない人だとミーシャは思っていた。
「ガルバンゾー先生の担当の方、辺境伯家の次男だそうですよ。
家は長兄が継ぐからと、王都に出て平民として働いていたそうですが。」
「田舎が嫌で都に出て来たとは言っていたけど。
そっかあ貴族の坊っちゃんかぁ。」
「まぁ、彼は貴様籍を抜けるつもりらしくて、令嬢の求婚を受ける気は無いそうですが、伯爵家の方が乗り気な様で。」
ミーシャは手の平をパン!と叩いた。
まだ公の場での発言はされていないから仕方がないのだが、今が他国から戦争を仕掛けられるかも知れない緊迫した状況だと知っているミーシャにとっては平和な悩み事でしかない。
「うん、ソレどーでもいいわ。
ノーザン様も真剣に彼の相談に乗らないで下さい。」
ミーシャはヴィルムバッハに旅立つ際、仕上げた原稿を担当者が取りに来たら渡して欲しいと、ガルバンゾー代理を頼みノーザンに預けた。
ガルバンゾーの原稿を取りに来た際に二人は多少言葉を交わしたのかも知れないが、それで仲良くなったのか何なのか……
ノーザンが悩み事を相談された模様。
「何だか、かつての私を見ているようで気の毒だと。」
「他人に同情してる場合ですか、ノーザン様。
次にヴィルムバッハへ行く時はノーザン様も同行し、お祖父様にご挨拶して戴くんですからね。
他人にかまけている余裕なんかありませんよ。」
ノーザンが見る見る青ざめ、胸に手を当て今にも吐血しそうな病人顔になった。
「ガイン隊長のお父君のヴィルムバッハ将軍ですか…
私、生きて戻れますかね…。」
「まぁ…厳しい扱きはあるかも知れませんけど…
私を得るために、逆に殺っちゃう位の意気込みを見せて早めに打ち負かして下さい。
………期待してますわよ。」
珍しく笑顔を見せたミーシャが、小悪魔の様にノーザンに向けウィンクをする。
初めて見たミーシャの一面に、ノーザンがハートを撃ち抜かれたのは言うまでもない。
「はい!必ず勝ちます!負けません!」
「……扱かれ過ぎてマッチョになって欲しくないしね」
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ミーシャが帰城するより一週間ほど前━━
キリアンとガインは馬を駆り二人のみで城を発った。
皇帝陛下が護衛を一人しか従けずに城を離れる事を、宰相や他の側近達が反対したが、キリアンは聞き入れなかった。
旅人の出で立ちで城を出た二人はそれぞれの愛馬にまたがり、キリアンが先導しガインが後に続く様にして王都を出る。
休憩を入れ、途中で何度か馬を休ませながらも走り続けて丸一日ほど
辿り着いたのは王都に近い位置にある森林の奥。
「ここは……」
目的地に到着したと馬を降りたキリアンに続きガインも馬を降りた。
「懐かしい場所だろ?
この場に来るのは七、八年ぶりかな。」
この深い森は、かつてガインが師としてキリアンに剣を指南していた頃に野営術などを教えていた場。
馬を降りた場所は、その際に二人が拠点としていた地だ。
「懐かしいと言われたら確かに懐かしいが……
この場で調べ物って何だ。」
キリアンに「調べたい事がある」と言われて二人きりで城を離れた際に、ガインはケンヴィー皇子に関する重要な何かを探るのだと思っていた。
「旅人の衣装を着たガインも新鮮でいいね。」
「……いや、普段着とあまり変わらんだろ。
それより…………」
話を逸らされたガインが自身の服を見てからキリアンの方に目を向けた。
ガインより、キリアンの方が普段との差が大きい。
質素なシャツに革のベストとパンツ、金糸の長い髪は高い位置でひとつに結ってあり、馬の尾の様に揺れている。
どこにでも居そうな旅人の青年の格好をしているが、キリアンの美貌と内側から溢れ出る気品が隠し切れておらず衣装とのギャップがエグい。
ガインは大きな溜め息をついた。
「七、八年前は平和な森だったが、先の戦で王都周辺の森林はかなり物騒になったと聞いた。
ここも安全とは言えん。」
「分かってるよ。
高い外壁に囲まれた王都内だって、まだ無法地帯となっている場所があるんだ。
注意を怠ったりはしないさ。」
馬を木に繋ぎ飼葉を与え、キリアンが野営の準備をし始めた。
ガインは「まさか」とは思っていたがキリアンは野営をする気の様だ。
「皇帝陛下が、こんな所で野宿みてぇな真似をすんのか?」
「皇子殿下と呼んでいた頃は普通にさせていたじゃないか。」
剣や武芸に限らず、どんな事態に陥っても生き延びる確率が上がるよう、ガインはキリアンに色々と教えてきたつもりだ。
代々ベルゼルト皇帝を守ってきたヴィルムバッハ伯爵家は、ベルゼルト皇帝の血を絶やす事を恐れる。
だから、国が滅んでもベルゼルト国民が一人もいなくなったとしても、グレアムからキリアンへと継がれて来た皇帝の血を絶やしたくはない。
「………なのに俺は………」
キリアンが正式に皇妃を娶らなければ、次代の皇帝は生まれない。
脈々と受け継がれる皇族の血脈を自分のせいで絶たせてしまうのか、 ガインにはそんな罪悪感もある。
だが、自分を妻と呼ぶキリアンが妃を迎えるのを想像するだけで胸が張り裂けそうに苦しい。
「………!!キリアン!?」
考え事に意識を囚われていたガインが、ハッと野営の準備場所に目を向けた時、そこにキリアンの姿は無かった。
石を組み上げたカマドだけがあり、薪を集めに森に入ったのだと気付く。
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