【R18】熊の様な45歳の近衛隊長は、22歳の美貌の皇帝に欲しがられています。

DAKUNちょめ

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調べ事のついでにゴミ掃除。

焚き木となる枝を採取しながら森を歩き回ったキリアンは、気付かぬ内にガインとの野営場所から離れた場所に来てしまっていた。

どちらを向いても似たような景色ばかりで、どうもガインが待つ野営場所を見失ってしまった様だ。

幸いにも、耳を澄ませば鳥の鳴き声や枝葉の揺れる音に混じって微かながら川の流れる水音が聞こえたので、川を探して下っていけば川の近場の野営場所に着くだろうと考えた。

キリアンは水音を頼りに川を探して繁みを掛け分け林の奥へと入って行く。

やがて開けた場所に辿り着いたキリアンは、目の前に広がる光景に目を眇めて無気力な声を出した。


「…………あぁ」


川のほとりの開けた場所に、山賊━━と呼ぶには及ばないかも知れないが、6人の無頼者と思しき男達が焚き火を囲んでおり、一斉にキリアンの方を向いた。

キリアンを見た男が、順に下ろした腰を上げていく。


「女だ!女が来たぞ!」


「旅人か?道に迷って此処に来たのか。」


男装した女だと間違われたキリアンは、極上の獲物が自ら飛び込んで来たかのように男達の目に映った様だ。
歓喜に近い下卑た声が上がる。


「ちょうどいい、懐が寂しくなって来た所だ。
金になるモンが手に入ったぞ!」


キリアンとケンヴィーの皇帝の座を巡っての争いは城内だけに留まらずアチラコチラに飛び火し地方でも領地を巡って小競り合い等が起こり、そんな混乱に乗じて国外から益を求め流れ込んで来た者も多くいた。

ケンヴィー側の貴族が用意した傭兵や徴兵した領民は他国の者が多く、捕虜として捕らえられる前に敗走したまま自国に戻らず野盗に落ちた者もいる。

王都から離れた所では野盗の被害に遭い、村人が殺されたり拐われたりした末に無くなった村もある。

王都に続く街道近くにある森は、そういった輩が身を隠しながら旅人や小規模の商隊など獲物を物色するには都合が良いのだろう。


「…………私は、女性ではありません。」


ハァッと溜め息をついて、投げやりにキリアンが呟いた。

普段なら弱々しい素振りを見せて侮らせ、敵の油断を誘う隙を作ったりするキリアンだが、そんな演技をするのさえ面倒に思った。


「あ?何だ男か」


「男でも、これだけの上玉だ。
男娼として充分に高値がつくぜ。」


「その前に、俺達で味見するってぇのも……あリ……」


キリアンに手を向けて近付きながら言いかけた男が、キリアンに触れる前に空を仰ぐように仰向けに倒れた。

仰向けに倒れた男の目には、鮮血の溢れる眼窩から生えた太い木の枝が、真っ直ぐと空に向かって伸びていた。



「誰が誰を味見するって?」


近付く男の目に、躊躇する事無く木の枝を深々と刺したキリアンは、口元に笑みを浮かべて残りの男達に訊ねた。


腕に抱えた焚き木の束を足元に置いたキリアンは、剣を抜き全身から強い殺気を放った。


「たったの5人。
お前ら如きに、か弱い演技などするまでもない。
あの世に送ってやるから、さっさとかかってこい。」


「こ、こいつ!!」

「殺せ!殺してしまえ!」

「一斉に斬り掛かれ!」


いきなり仲間を殺された男達がキリアンに向かい武器を構え始めた。

男達は、反撃する隙を与えないよう一斉にキリアンに襲い掛かった。







「ギャー!!!」


ガインが歩き続けていると突然、断末魔の叫びが辺りの森に響いた。

キリアンとは思えない程の、えらく汚い男の声だったが、紛れもなく人間の声……

それはキリアン以外の人間がこの森に居るという事であり、悲鳴をあげる様な事態が起こっているという事だ。

ガインの顔からサァっと血の気が引く。

死神が心臓を掴み、今にも握り潰されそうな状態でのソレを見せつけられている様な、背筋が凍り付きそうに冷たい感覚。

キリアンの死

それは━━想像する事すら、自分の死以上に恐ろしい。


「陛下!キリアン!!」


冷たくなった手足を動かし、盛り上がった木々の根に足を取られながら、ガインが声のした方に向かって走った。

何かを想像するのが怖い。

頭を真っ白にして何も考えないようにし、ガインはただ走った。

考えるより早く身体を動かし、キリアンの姿を求めて声が聞こえた方へ向かってただ走る。


「キリアン!!!無事か!………」


開けた場所に飛び出したガインが目にしたキリアンは、全身を血で赤く染め━━


たまま、ブツブツ呟きながら既に事切れた男の身体を足蹴にしていた。

辺りは血の海だが、全て賊のもののようだ。


「ここはなぁ、俺とガインの聖地なんだ。
お前らみたいなクズが居て、いい場所じゃないんだよ。
俺が初めてガインを抱いた場所なんだからな。」



色んな意味で━━
脱力したガインが、その場にへたり込んだ。

キリアンの無事を喜びつつ、目の前に広がる血の海の惨状に困惑しつつ、ここが自分を初めて抱いた聖地だと惨死体に言い聞かせているキリアンに。


━━と言うか……俺がキリアンに初めて抱かれたのは、この場所ではなく俺の部屋だったが………
いや、そんな事を考えてる場合じゃなくて……━━


「あ!ガイン!迎えに来てくれたの!?」


全身に返り血を浴びたキリアンが繁みの中から現れたガインに気付き、顔を輝かせてしゃがみこんだガインの方を向いた。


「迎えに来てくれたのじゃねーよ!
最近物騒だからって言ったばかりだろうが!
お前に何かあったら…俺は生きていけんって言って……!」


「ごめんね、ガイン……」


へたり込んだガインの元に駆け寄ったキリアンは、ガインに触れようとしてハタと手を止めた。


真っ赤に染まった両手の平を見てから、改めて自身の姿を見る。
両手の平同様に、旅人の装束が血に塗れて赤く染まっていた。

さすがに、この姿ではガインに触れられないと躊躇うキリアンを、立ち上がったガインが強く抱き締める。


「馬鹿……俺に遠慮すんなって言ってんだろうが。
無事で何よりだ…良かった。」


「ガイン………」


血にまみれた手の平をガインの背に回し、キリアンがガインをギュッと抱き返す。


「とりあえず死体を処分してから野営場所に戻ろう。
そんで、まず説教な。」


抱き締め合ったままガインが言うと、キリアンが血まみれのむくれた顔を見せて不満げに口を尖らせる。


「え、説教されんの?
さっきまで殺されかけていた傷心の俺に?」


「傷心が聞いて呆れるわ。
無傷でピンピンしてるじゃねーか。」


抱き締め合い真っ赤に染まった互いの旅装束を見たガインは、改めてキリアンの無事に安堵する。

この大量に流された血の海に、僅かにでもキリアンの血が入ってない事に安堵すると共に驚きもする。

さすがは我が弟子!と思う反面、最初からこういう場面に出くわす事を想定していたのではないかとも。


それと━━

今、こんな場所で、こんな状況で、こんな事、思うのは場違いだと、分かっているが━━


  初めて俺を抱いた場所って何だ?

  他の誰かと勘違いしてんじゃねぇだろうな


モヤモヤと胸の内側が燻り始める。

今はただキリアンの無事を喜ぶべきなのに、無事を知れば安堵に変わって沸々と湧き起こる……嫉妬。


━━俺って何て、小さいヤツなんだ━━



「ガイン、血を洗い流したいし俺達の野営場所に戻ろう。
川に入りたい。」


「獣が集まるし死体を放っておくワケにはいかんだろ。埋めないと。」


キリアンはフイと森の方に顔を向け、合図を送るように数回頷いた。


「これで大丈夫。」


何かを確認して納得したのか、キリアンがガインの手を引いて川辺りを下り始めた。

ガインは足を止めて上流を顎先で差す。


「キリアン、野営場所は川下でなくて川上だ。」


「え、そうなんだ?」


ガインがキリアンを見つけてなければ、もっと遠くまで迷子になっていたかも知れない。

と、思いつつもガインはキリアンが先ほど確認した何かが気になる。


「護衛を一応は、連れて来てんのか?」


「護衛ではないよ。
俺の護衛はガイン一人しか連れて来てない。」


この様な場所にまでガインに気取られずに身を隠しながら着いてきているのだ。
ただ者ではあるまい。

護衛ではないと言うが、自衛が出来るキリアンの身が危機にさらされればさすがに姿を現すのだろう。

迷子になった所で、そんな存在があるのならばガインが焦るほどに危険な目には遭わなかったかも知れない。


「心配して損した。」


キリアンに手を引かれながら後ろを歩くガインが不満げにボソッと呟く。

キリアンの無事を祈ったガインは、心配して損したなど本音では思っていない。

だがガインの胸の奥に芽吹いた小さな嫉妬心が、ガインに不機嫌を絵に書いた様な、そんな態度を取らせてしまう。

前を歩いていたキリアンが後ろを振り返り、ガインの顔を下から覗き込む。


「そんな事言うんだ?
俺、あいつらに味見するって言われたけど。」


「はぁっ!?味見だぁ!?キリアンをか!?」


「ムカつく!」と言うよりは「無理だろ?」に近いが、思わず大きな声をあげたガインの手にキリアンが手の平を重ねて指を交差させ、そのまま向かい合うガインの手をギュッと握った。

正面からガインを見上げたキリアンが唇の端を上げて微笑みを浮かべる。


「ね、嫉妬してくれた?」


「グッ……」


見上げられて言葉を詰まらせたガインが、プイと顔を横に向けた。

嫉妬なら既にしている。

キリアンを襲った(らしいが惨殺されていた)奴らに対してではなく、キリアンの記憶の中に居る自分以外の誰かに。

自分は小さい男だな、と思うがキリアンの病的な恋情は自分だけに向けられたものだと信じて疑わなかったガインは、この胸の奥に燻る不満を吐き出さずにはいられなかった。


「……キリアン、お前……誰とここでヤったんだよ。
言っとくけどな、それは俺じゃねぇぞ。」


思いもよらない質問をされて目を丸くしたキリアンが驚きの顔をし、すぐに目を細めて微笑んだ。


「え?……さっきの聞いてた?
もしかしてガインのそれは…嫉妬…ッッむぐ!!」


キリアンの手と重ね合わせて絡ませてない方の手でガインがキリアンの口を覆って言葉を遮った。


「黙れ。」


ガインは否定も肯定もせずに一言だけ告げて黙り込んでしまう。


そんな事を聞きたいんじゃない。
なんでヘラヘラと笑ってやがるんだ。
さっきの聞いてた?って、聞かれちゃまずかったのかよ。


そんな言葉を口にしたいが出来ない心情が、ガインの顔には全て出ている。

キリアンは口を覆うガインの手をそっと外し、喜びを隠せないキラキラとした笑顔をガインに向けた。


「嫉妬…嫉妬してくれてるのか……
俺がこの場所で初めて抱いた人物に対し、ガインが…」


「………やっぱり居るのか…。
俺が初めての相手ってワケじゃなかったんだな。」


「……ッああガイン!駄目だ、俺もう限界!
今すぐ、ものすッッごく、ガインを抱きたい!」



「………………………馬鹿?」


長い間を置いた真顔のガインから、搾り出す様にやっと一言出された言葉がそれだった。

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