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故郷のお土産はひよこ豆。
口から飛び出して流星の如く部屋の隅に飛んで行ったパンを拾ったルンルンは、手の平でホコリを軽く払って再びパンを口に咥えた。
無言でベッドに座り、モシャモシャとパンをかじりながら「う~ん」と唸ったルンルンは、ゆっくり顔を傾けて椅子に座る銀髪の青年ヴィーの顔を見る。
「それは…どーゆーことなんですかねー」
「言ったまんまだよ。分かってないフリしないでよ。」
「………んー信じ難くて言葉にしにくいです。」
ルンルンの頭の中に、現領主のガインの姿が思い浮かんだ。
最後に会ったのが体術を教えて貰った頃で、もう10年以上前だったと思うが、父親の将軍に似て身体が大きく、筋骨隆々の熊の様な大男であったと記憶している。
キリアン皇帝は1年程前に近くで見掛ける機会があったが、見た目だけで言えば目の前に居るヴィー以上に線の細い女性の様な美しい青年であった。
その2人が、世間一般的に思い描かれそうな関係とは逆の関係なのだとヴィーは言う。
まぁ恋愛感や性的嗜好というものは人それぞれ様々あるものなんだし自由にすれば良いとルンルンは思う。
当人同士が納得しているならば、自分が意見する様な事では無いだろう。
そう考えながらルンルンは、口に含んだままモチャモチャで飲み込めないでいるパンを、水を飲んで流し込もうと瓶を口に咥えた。
「ちなみになんだけど、ルンルンは将軍を抱きたいとか思った事はないの?」
「はぁ~?だぁ~れがッすか?俺ぇ?」
口に含んだ水がダバーっと口から溢れ、滝の様に膝の上に流れ落ちた。
ベッドまで濡らしてしまい、ルンルンが慌てて乾いた布を手にして水を拭き取る。
「あはははっ」
「あははじゃないですよぉ。
いきなりナニ言い出すかと思えば…。
将軍に、そんな感情を持つ事なんてありませんて。」
それ以前にルンルンは男を、しかも祖父と言えるほど歳の離れたおジィを恋愛対象として意識する事は絶対に無い。
「あははっ、そうなの?
尊敬が恋愛に変わったりしない?」
「他は知りませんが俺は変わりませんて。
将軍の事は尊敬はしてますし父親みたいに思ってはいますけど、そういう対象になる事は無いです。
そもそも俺、恋愛とかに興味無いし。
期待外れで悪いンですけどね。」
嘘も誤魔化しも無く正直に答えたルンルンの様子を散々笑った後、ヴィーは椅子の上に片足を上げて膝を抱えた。
顔を斜めに向け、ルンルンに向け小さく頷き微笑む。
「兄上も年上の男性が趣味ってんじゃないよ。
ガインにしか興味無いんだから。
僕もまだ、恋愛に興味が無くてさ。
だから、他の人の恋愛観はどうかなって聞いてみたかったんだ。」
「それにしては訊ね方がピンポイント過ぎますって。
好きな人はいる?とかでいいじゃないですかー。」」
からかい半分なのだろうとは分かっているが、とルンルンは溜め息をついてバスケットの中に食べ残しのパンをしまった。
「僕の兄上はさ、物心ついた頃からガイン一筋って感じでさ…ガインを手にする為の執念が凄まじかったよ。
外堀から埋めていく感じが怖い位で。
本人は隠していたつもりみたいだけどね。
でも、恋愛一筋の兄上をカッコいいと思ってた。」
「恋愛一筋…って括りですかね、それ。
それにしても物心ついた頃からガイン様を手に入れたい…ですか…。
キリアン皇帝陛下って末恐ろしい子どもだったんですねー。」
子どもが中年の大男を手に入れたいと願うって。
ちょっと理解が及ばない。
で、そんなキリアン皇帝をカッコいいと思ってしまえるヴィーも中々に末恐ろしい子どもだったのかも知れないと思ってしまう。
「そんな兄上の野望は、まだ完成してないんだ。
僕の今の楽しみはね、兄上の描く幸せの完成を見る事なんだよ。」
大国を治める皇帝となり、好きな人とも良い関係となったキリアン皇帝の野望の完成とやらがどんなものか、ルンルンには思い付かなかったが、それよりもルンルンは目の前で膝を抱える友人のヴィーの方が心配に思えた。
「お兄さんの幸せを見届けるのもいいけど、もうちょっとさ……
自分自身の幸せな未来ってヤツを見つけた方が良いんじゃない?ケンヴィー皇子殿下。」
ルンルンに意見されたヴィーは膝を抱えたまま困った様に眉尻を下げて微笑った。
「ケンヴィー皇子は死んだ事になっていると思うよ。
だから今の僕は、ただの亡霊のヴィーだ。
今の僕には、未来なんて考えつかないよ。」
少しばかり悲しげな表情を見せるヴィーに、ルンルンは静かに頷いた。
「今は、そういう事にしておきましょーか。」
領民の男性の多くが半ば強引に肉体を鍛え上げられるヴィルムバッハという土地に居て、ヴィーは身体を鍛える事は無くほぼ一日を邸内での読書に費やしている。
だが、それが剣を握らないヴィーの戦い方なのだとルンルンは知っている。
ヴィーが決して、国を追われ自棄になっているだけの敗戦の将ではないのだと。
いざとなれば、大切な友人の為に自分が剣を振るえば良い。
「そうだね、今は。お休みなさいルンルン。」
意味深に呟いてクスリと微笑んだヴィーは、椅子から立ち上がるとドアに向かった。
ヴィーが部屋を出ようとドアノブに手を掛けた所で、ルンルンが思い出した様にヴィーに尋ねる。
「ところでー俺の弟分は、ヴィーの役に立ってる?」
「うん、とても。
彼とは、お手紙のやり取りも楽しいよ。」
▼
▼
ベルゼルト皇国の城内にある兵舎の食堂にて、1人の若い兵士が小さな紙を広げて書かれた文字を読み、ニコリと微笑んだ。
「それは恋文か?
君にも、その様な手紙のやり取りをする特定の相手が居るんだな。
君は特定の相手は作らずに胸の豊かな女性全てに愛を囁くのかと思っていたが。」
ノーザンはギャリーこと、おっぱいマスターの向かいの席に座り訊ねた。
思った事を口にしただけだが皮肉を含んだ様な物言いをしてしまい、鍛練で流した汗を脱いだシャツで拭いながら、ノーザンは申し訳無さを誤魔化す様に咳払いをした。
「この方はですね、ノーザン副隊長殿の婚約者のミーシャ嬢ほど胸はありませんが、とても美人ですよ。」
特に気にする様子もなくニコニコと微笑むギャリーに胸の比較にミーシャの名前を出されたノーザンは、イラッとし文句を言おうとギャリーを睨みつけたが、先の自分の言動が悪かったのだとそれをやめた。
そして少し落ち着き、改めてギャリーの顔を見て僅かに驚きの表情を見せた。
「ギャリー、君はそういう真面目な顔も出来るのだな。」
ノーザンに指摘されたギャリーが、ヘラリと普段通りの笑顔を作った。
「やだなーいつもはふざけているような言い方をして。俺はいつだって真面目ですってー。」
「……そうか、なら私の見間違いなのだろう。
今日の鍛練は終わりだ、休憩が済んだら仕事に戻れ。」
ノーザンは深く追及する事はせずに席を立ち、食堂を出て行った。
ノーザンの姿が見えなくなり間を置いて食堂の椅子から立ち上がったギャリーは、気を入れ直す様に自身の頬をパンと叩いた。
「気を抜いてノーザン副隊長殿に素の顔を見せてしまうなんて…俺もまだまだだな。」
▼
▼
ヴィルムバッハからミーシャがベルゼルト皇国に戻って、2日目。
ようやくキリアンとガインが帰城した。
皇帝の私室にてキリアンとガインが寛いている時に、キリアンの部屋に大袋を抱えたミーシャがやって来た。
「お帰りなさいませ陛下、お義父様。」
「な!なんでミーシャが城に居る!
ヴィルムバッハに帰った筈じゃ…!」
戦争が始まるかも知れないと、王都から遠ざけたつもりだったミーシャの姿を見たガインは驚きの声を上げたが、ミーシャはガインの手にひよこ豆の入った長枕大の大袋を押し付ける様に渡してシレっと答えた。
「ええヴィルムバッハに一度帰りましたわよ。
両親の墓前とお祖父様に私が婚約した事をお知らせして来ましたわ。
次にヴィルムバッハに行く時は、婚約者のノーザン様をお連れしますね、と。」
「違う!そうじゃないだろう!
ここは危険かも知れないから俺はミーシャを……!」
大きな枕を抱っこするかの様にひよこ豆の大袋を両腕で抱きかかえたガインが、袋の陰から顔をヒョコッと出すのを見たキリアンとミーシャは思わずホッコリ和んでしまった。
眠れない夜に幼子が枕を抱きかかえているような、はたまた大木にしがみつく木登り中の熊の様に、両腕で袋をしっかり抱くガインの姿が面白くもあり、笑える程に可愛く見えた。
2人はガインには聞こえない位の声でボソボソと会話を交わす。
「木登りしている熊みたいだね。ミーちゃん。」
「普段のパパなら大袋は肩に担ぐんだけど私の姿を見て動揺してるみたいね。
小さな子どもが大きな枕を抱っこしてるみたいにずっと両腕で大事そうに大袋を抱きしめてるわね。」
「……大事……抱きしめ。」
ミーシャの台詞に反応したキリアンがガインの前に行き、ひよこ豆の大袋を奪うようにガインの腕から受け取るとトスンと床に袋を置いた。
そして、両腕を前に出して大袋を持っていた状態で固まっているガインの腕の内側に入り、ミーシャの見ている前でキリアンは正面からガインをギュウっと抱き締めた。
「あら。まさか…袋に嫉妬したの?」
キリアンはガインを抱き締めながら、首や顎先にチュチュと口付ける。
「どわぁぁぁ!!!!
み、み、み、ミー!!!!」
キリアンに抱きしめられながら啄む様なキスをされたガインは、死にかけのセミみたいな頓狂な声を上げて身体をガチガチに強張らせた。
ガインはミーシャに、キリアンと愛し合っているとは告げたが詳細については話しておらず、ましてやミーシャの目の前で生々しく恋人同士としての行為を見せる事は一切無かった。
勿論、ミーシャが全てを知っている事もガインは気付いてはいない。
「みみみミー…は、ミーシャの目の前で何をするんだ、かしら。
私が、パパとキリお兄ちゃんの関係を婚前の私とノーザン様みたいに清い関係だと思っているとか……
思ってるんでしょーねえ、パパの事だから。
いつまで経っても私が何も知らない少女のままだと思ってそう。」
抱き着くキリアンと振りほどこうとするガインの攻防をミーシャはキョトンとした表情を作りながら見た。
思わずニヤリと上がる口角は隠しつつ。
「へ、陛下!陛下この野郎!ミーシャの前だぞ!
お戯れをすんな!離れろ!」
狼狽えるガインを見ながらミーシャはガインに気付かれない位置に顔を向けてほくそ笑み、ポツリと呟いた。
「全て知っていると言えばいいのかも知れないけど…
何だか、このままのが面白そうね。」
無言でベッドに座り、モシャモシャとパンをかじりながら「う~ん」と唸ったルンルンは、ゆっくり顔を傾けて椅子に座る銀髪の青年ヴィーの顔を見る。
「それは…どーゆーことなんですかねー」
「言ったまんまだよ。分かってないフリしないでよ。」
「………んー信じ難くて言葉にしにくいです。」
ルンルンの頭の中に、現領主のガインの姿が思い浮かんだ。
最後に会ったのが体術を教えて貰った頃で、もう10年以上前だったと思うが、父親の将軍に似て身体が大きく、筋骨隆々の熊の様な大男であったと記憶している。
キリアン皇帝は1年程前に近くで見掛ける機会があったが、見た目だけで言えば目の前に居るヴィー以上に線の細い女性の様な美しい青年であった。
その2人が、世間一般的に思い描かれそうな関係とは逆の関係なのだとヴィーは言う。
まぁ恋愛感や性的嗜好というものは人それぞれ様々あるものなんだし自由にすれば良いとルンルンは思う。
当人同士が納得しているならば、自分が意見する様な事では無いだろう。
そう考えながらルンルンは、口に含んだままモチャモチャで飲み込めないでいるパンを、水を飲んで流し込もうと瓶を口に咥えた。
「ちなみになんだけど、ルンルンは将軍を抱きたいとか思った事はないの?」
「はぁ~?だぁ~れがッすか?俺ぇ?」
口に含んだ水がダバーっと口から溢れ、滝の様に膝の上に流れ落ちた。
ベッドまで濡らしてしまい、ルンルンが慌てて乾いた布を手にして水を拭き取る。
「あはははっ」
「あははじゃないですよぉ。
いきなりナニ言い出すかと思えば…。
将軍に、そんな感情を持つ事なんてありませんて。」
それ以前にルンルンは男を、しかも祖父と言えるほど歳の離れたおジィを恋愛対象として意識する事は絶対に無い。
「あははっ、そうなの?
尊敬が恋愛に変わったりしない?」
「他は知りませんが俺は変わりませんて。
将軍の事は尊敬はしてますし父親みたいに思ってはいますけど、そういう対象になる事は無いです。
そもそも俺、恋愛とかに興味無いし。
期待外れで悪いンですけどね。」
嘘も誤魔化しも無く正直に答えたルンルンの様子を散々笑った後、ヴィーは椅子の上に片足を上げて膝を抱えた。
顔を斜めに向け、ルンルンに向け小さく頷き微笑む。
「兄上も年上の男性が趣味ってんじゃないよ。
ガインにしか興味無いんだから。
僕もまだ、恋愛に興味が無くてさ。
だから、他の人の恋愛観はどうかなって聞いてみたかったんだ。」
「それにしては訊ね方がピンポイント過ぎますって。
好きな人はいる?とかでいいじゃないですかー。」」
からかい半分なのだろうとは分かっているが、とルンルンは溜め息をついてバスケットの中に食べ残しのパンをしまった。
「僕の兄上はさ、物心ついた頃からガイン一筋って感じでさ…ガインを手にする為の執念が凄まじかったよ。
外堀から埋めていく感じが怖い位で。
本人は隠していたつもりみたいだけどね。
でも、恋愛一筋の兄上をカッコいいと思ってた。」
「恋愛一筋…って括りですかね、それ。
それにしても物心ついた頃からガイン様を手に入れたい…ですか…。
キリアン皇帝陛下って末恐ろしい子どもだったんですねー。」
子どもが中年の大男を手に入れたいと願うって。
ちょっと理解が及ばない。
で、そんなキリアン皇帝をカッコいいと思ってしまえるヴィーも中々に末恐ろしい子どもだったのかも知れないと思ってしまう。
「そんな兄上の野望は、まだ完成してないんだ。
僕の今の楽しみはね、兄上の描く幸せの完成を見る事なんだよ。」
大国を治める皇帝となり、好きな人とも良い関係となったキリアン皇帝の野望の完成とやらがどんなものか、ルンルンには思い付かなかったが、それよりもルンルンは目の前で膝を抱える友人のヴィーの方が心配に思えた。
「お兄さんの幸せを見届けるのもいいけど、もうちょっとさ……
自分自身の幸せな未来ってヤツを見つけた方が良いんじゃない?ケンヴィー皇子殿下。」
ルンルンに意見されたヴィーは膝を抱えたまま困った様に眉尻を下げて微笑った。
「ケンヴィー皇子は死んだ事になっていると思うよ。
だから今の僕は、ただの亡霊のヴィーだ。
今の僕には、未来なんて考えつかないよ。」
少しばかり悲しげな表情を見せるヴィーに、ルンルンは静かに頷いた。
「今は、そういう事にしておきましょーか。」
領民の男性の多くが半ば強引に肉体を鍛え上げられるヴィルムバッハという土地に居て、ヴィーは身体を鍛える事は無くほぼ一日を邸内での読書に費やしている。
だが、それが剣を握らないヴィーの戦い方なのだとルンルンは知っている。
ヴィーが決して、国を追われ自棄になっているだけの敗戦の将ではないのだと。
いざとなれば、大切な友人の為に自分が剣を振るえば良い。
「そうだね、今は。お休みなさいルンルン。」
意味深に呟いてクスリと微笑んだヴィーは、椅子から立ち上がるとドアに向かった。
ヴィーが部屋を出ようとドアノブに手を掛けた所で、ルンルンが思い出した様にヴィーに尋ねる。
「ところでー俺の弟分は、ヴィーの役に立ってる?」
「うん、とても。
彼とは、お手紙のやり取りも楽しいよ。」
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ベルゼルト皇国の城内にある兵舎の食堂にて、1人の若い兵士が小さな紙を広げて書かれた文字を読み、ニコリと微笑んだ。
「それは恋文か?
君にも、その様な手紙のやり取りをする特定の相手が居るんだな。
君は特定の相手は作らずに胸の豊かな女性全てに愛を囁くのかと思っていたが。」
ノーザンはギャリーこと、おっぱいマスターの向かいの席に座り訊ねた。
思った事を口にしただけだが皮肉を含んだ様な物言いをしてしまい、鍛練で流した汗を脱いだシャツで拭いながら、ノーザンは申し訳無さを誤魔化す様に咳払いをした。
「この方はですね、ノーザン副隊長殿の婚約者のミーシャ嬢ほど胸はありませんが、とても美人ですよ。」
特に気にする様子もなくニコニコと微笑むギャリーに胸の比較にミーシャの名前を出されたノーザンは、イラッとし文句を言おうとギャリーを睨みつけたが、先の自分の言動が悪かったのだとそれをやめた。
そして少し落ち着き、改めてギャリーの顔を見て僅かに驚きの表情を見せた。
「ギャリー、君はそういう真面目な顔も出来るのだな。」
ノーザンに指摘されたギャリーが、ヘラリと普段通りの笑顔を作った。
「やだなーいつもはふざけているような言い方をして。俺はいつだって真面目ですってー。」
「……そうか、なら私の見間違いなのだろう。
今日の鍛練は終わりだ、休憩が済んだら仕事に戻れ。」
ノーザンは深く追及する事はせずに席を立ち、食堂を出て行った。
ノーザンの姿が見えなくなり間を置いて食堂の椅子から立ち上がったギャリーは、気を入れ直す様に自身の頬をパンと叩いた。
「気を抜いてノーザン副隊長殿に素の顔を見せてしまうなんて…俺もまだまだだな。」
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ヴィルムバッハからミーシャがベルゼルト皇国に戻って、2日目。
ようやくキリアンとガインが帰城した。
皇帝の私室にてキリアンとガインが寛いている時に、キリアンの部屋に大袋を抱えたミーシャがやって来た。
「お帰りなさいませ陛下、お義父様。」
「な!なんでミーシャが城に居る!
ヴィルムバッハに帰った筈じゃ…!」
戦争が始まるかも知れないと、王都から遠ざけたつもりだったミーシャの姿を見たガインは驚きの声を上げたが、ミーシャはガインの手にひよこ豆の入った長枕大の大袋を押し付ける様に渡してシレっと答えた。
「ええヴィルムバッハに一度帰りましたわよ。
両親の墓前とお祖父様に私が婚約した事をお知らせして来ましたわ。
次にヴィルムバッハに行く時は、婚約者のノーザン様をお連れしますね、と。」
「違う!そうじゃないだろう!
ここは危険かも知れないから俺はミーシャを……!」
大きな枕を抱っこするかの様にひよこ豆の大袋を両腕で抱きかかえたガインが、袋の陰から顔をヒョコッと出すのを見たキリアンとミーシャは思わずホッコリ和んでしまった。
眠れない夜に幼子が枕を抱きかかえているような、はたまた大木にしがみつく木登り中の熊の様に、両腕で袋をしっかり抱くガインの姿が面白くもあり、笑える程に可愛く見えた。
2人はガインには聞こえない位の声でボソボソと会話を交わす。
「木登りしている熊みたいだね。ミーちゃん。」
「普段のパパなら大袋は肩に担ぐんだけど私の姿を見て動揺してるみたいね。
小さな子どもが大きな枕を抱っこしてるみたいにずっと両腕で大事そうに大袋を抱きしめてるわね。」
「……大事……抱きしめ。」
ミーシャの台詞に反応したキリアンがガインの前に行き、ひよこ豆の大袋を奪うようにガインの腕から受け取るとトスンと床に袋を置いた。
そして、両腕を前に出して大袋を持っていた状態で固まっているガインの腕の内側に入り、ミーシャの見ている前でキリアンは正面からガインをギュウっと抱き締めた。
「あら。まさか…袋に嫉妬したの?」
キリアンはガインを抱き締めながら、首や顎先にチュチュと口付ける。
「どわぁぁぁ!!!!
み、み、み、ミー!!!!」
キリアンに抱きしめられながら啄む様なキスをされたガインは、死にかけのセミみたいな頓狂な声を上げて身体をガチガチに強張らせた。
ガインはミーシャに、キリアンと愛し合っているとは告げたが詳細については話しておらず、ましてやミーシャの目の前で生々しく恋人同士としての行為を見せる事は一切無かった。
勿論、ミーシャが全てを知っている事もガインは気付いてはいない。
「みみみミー…は、ミーシャの目の前で何をするんだ、かしら。
私が、パパとキリお兄ちゃんの関係を婚前の私とノーザン様みたいに清い関係だと思っているとか……
思ってるんでしょーねえ、パパの事だから。
いつまで経っても私が何も知らない少女のままだと思ってそう。」
抱き着くキリアンと振りほどこうとするガインの攻防をミーシャはキョトンとした表情を作りながら見た。
思わずニヤリと上がる口角は隠しつつ。
「へ、陛下!陛下この野郎!ミーシャの前だぞ!
お戯れをすんな!離れろ!」
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