【R18】熊の様な45歳の近衛隊長は、22歳の美貌の皇帝に欲しがられています。

DAKUNちょめ

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使用人の男の死。

遠くリスクィートの地にて━━

カリーナの実兄であるリスクィート国王の居城にて仕える、使者の男━━の地位は、そんなに良いものでは無い。

だが、国王に命じられた仕事はどんな汚れ仕事でも喜んで請け負い、恥ずる事も無くあからさまに媚びへつらう使者の男は、国王からの覚えが良かった。

と、言っても食べ残しをくれてやったら喜んで平らげる駄犬を残飯処理に便利だと思うのと同じ程度だ。

それでも男は使い易さから使用人の身でありながら国王の側に侍る事を許され、国王と言葉を交わす事も許されており、使用人としては身に余る待遇を受けていた。

その男は今や骨だけとなり、ケンヴィー皇子として立派な墓の下に眠る。


そんな男の都合の良い立ち位置は、セドリックの配下であるテンソにとっても成り代わるに都合の良い相手だった。




「最近、城の女どもから安穏とした声が聞こえてくる。
お前は気付いていたか?」


早朝、リスクィート国王の寝室を兼ねた広い私室にて、使用人の男に扮したテンソは散らかされた部屋の片付けをしていた。

昨夜この部屋にて行われた、美姫を侍らせての酒宴の後始末をするテンソは、ベッドの上に居るリスクィート国王に不意に声を掛けられて顔を上げた。

天蓋付きの大きなベッドの上で数人の女達と明け方まで情事を愉しんだばかりのリスクィート国王は、横たわる裸の女達をベッドに残したまま全裸でベッドを下りてガウンを羽織りながらテンソの前に立つ。


「おはようございます陛下。
お尋ねの声についてですが、私は気付いておりませんでした。
で、一体どの様な声なんで?」


使用人の男に扮したテンソは、床に散らばった酒瓶や女どもの衣服を拾い上げてテーブルに置き、すっとぼけた仕草で首を傾げた。

この男は使用人でありながら、国王陛下に対してこの様な砕けた物言いを許されている。

テンソは使用人の男に成り代わる前に、男の日々の態度や行動、言葉遣いなど全てを習得した。
ただひとつ、どうしても真似が出来ない事があったが、今の所は国王に疑心を持たれた様子はない。

だからこそテンソは国王が無防備にも全裸となり女達と愉しむ場に居合わせる事を許されている。
だが、引き際を見極める時期だとも感じていた。


リスクィート国王はベッドの一番手前に横たわっていた全裸の女の髪を鷲掴み、ベッドから引き摺り下ろした。


「きゃああ!陛下っ…!?私が悪うございました!
どうか、お許し下さい!」


突然の暴挙に、ベッドに残った女達が次は我が身かと身を寄せ合う様にして震え始めた。

ベッドから引き摺り下ろされた女も、自分が何をしたか分からず、それでも許しを請うて謝罪の言葉を口にする。

国王は女を投げ捨てる様に、テンソの前の床に放り出した。


「犯せ。」


国王が使用人の男に命じた。

使用人の男に扮したテンソは表情を変えなかったが内心では、その時が来たのだと覚った。
テンソが、使用人の男を完全に演じる事が出来なかった、たった一つの綻び。


「朝っぱらから陛下の目の前で、ですか?
いくら私でもそんなの、勃ちませんよぉ。」


「常に俺の食いカスを欲しがる節操無しのお前のソコが、俺達の乱交を見て無反応なままなど有り得ん。」


国王は剣に手を伸ばすと、鞘に入ったままの剣先で使用人の男の股間をグウッと強く押した。

テンソはその部分に男性器の質量を出す為に固く巻いた布を入れてあるが、外部からの刺激によって何らかの反応を見せる物ではない。


「陛下、男の大事な所なんですよソコ…痛いですって…」


「女どもが話していたそうだが、毎晩の様に侍女らを嬲っていたお前が、女達に一切手を出さなくなったそうだな。
どういう事だ?
いや…質問を変えよう。お前は何者だ。」


国王の最後の質問を聞いた刹那、テンソは後方に走り、バルコニーに続く大窓を開いた。

使用人の男の動きに注視していた国王だったが、虚を突かれて男がバルコニーに飛び出す時間を与えてしまった。


「賊だ!逃がすな、捕らえろ!」


国王がテンソを追ってバルコニーに出て、声を張り上げる。

使用人の男は既にバルコニーから階下に飛び下りており、城門に向かって庭園を走っていた。

早朝の城内、バルコニー下の庭園を警らしていた兵士達が使用人の男を取り囲む様に近付く。
テンソは持ち前の身軽さと俊敏さで、取り囲む兵士の輪をすり抜けた。

が、バルコニーの国王の放った矢を左手首に受けてしまった。


「……これは毒?……それとも麻痺薬?」


呟いたテンソは騎士の1人から剣を掠め取り、躊躇する事無く走りながらその場で左腕を肘の上から斬り捨てた。

城門近くの庭園に血まみれの左腕がボトリと捨てられ、テンソを追っていた兵士達が一瞬怯んだ。

その隙を見逃さずにリスクィート国王の居城から逃げおおせたテンソは、掻き消える様に姿を消した。


「王城の敷地内にまだ身を潜めているはずだ!探せ!
なるべく生かして捕らえろ!」


リスクィート国の王城敷地面積は町一つ取り囲む様に広大だ。
その中には王城から離れた場にあるカリーナの離宮も入っている。

ガウン姿のリスクィート国王は護衛の騎士を数人連れ、居城から庭園へと出て来た。

リスクィート国王の前に、テンソが捨てて行った左腕が運ばれる。

テンソの左手首は矢の刺さった部分の皮膚が紫に変色していた。


「全身が痺れる前に斬り捨てたか……。
そして腕を斬った痛みに耐え逃げおおせた……。
何という胆力。
しかもあれが女だったとは。」


残されたテンソの手は陰影を付ける化粧が成されていたが、よく見れば指が細く長く肉付きが柔らかで、親指から手首にかけ角張った箇所が無く緩やかな曲線を描いた女の手そのものをしていた。


「カリーナを呼べ。」


リスクィート国を目の敵としている国は多い。

大国ベルゼルト皇国に対し、ケンヴィー皇子の死を悼む弔い合戦だと正戦を仕掛ける心積もりのリスクィートとしては、その前に横槍を入れられるような煩わしい事はなくしたい。

使用人の男に成り代わってまで何を探っていたのか、どこの国の手の者かを明らかにしたい。
と考えながらも、国王の胸中にて怪しむべき最候補がカリーナだった。


国王の命を受けた兵士達が慌ただしく動き出し、居城付近は騒がしくなった。

多くの兵士はテンソを捜索する為に居城を離れ、王城敷地内に散らばって行った。

そして城の騎士達によって、王女でもあるカリーナを王城に連行する為の準備がなされる。


「あの賊がカリーナの近くに潜んでいる可能性もある。
見つけたならば捕らえよ。」




テンソはカリーナの元には向かわなかった。

自身がこうなった以上は兵士がカリーナの元に向かうだろうし、そうなれば自分がどうなったかもセドリックには伝わる。
一番恐ろしいのは生きたまま捕らえられる事。
どの様な拷問にも屈しない自信はあるが、世の中には自身の知らない種類の自白剤の様な物もある可能性がある。


テンソは男性器をかたどっていた布を解き、それで腕の切り口を包んで縛りリスクィート国内を流れる川に身を投じた。

布は動物の皮で出来ており、水分を通しにくく加工してある。

一時的に出血も抑え、大量の血が流れ出るのを塞いだ。

とは言え、川下にもリスクィートの兵士が待ち構えている事は確実で、生きて捕まれば自分が一番恐れていた事になる。

いっそ、溺れて死んでしまえば………
だったら、もっと早くに自決しておけば良かったのに


━━私はなぜ、逃げている?なぜ自決しようともせず………
何に縋って生き長らえようとしているのだろう…………━━










「カリーナ様、お城から騎士の方々がお見えになりましたわ。
何でしょう、何があったのでございましょうか。」


カリーナの侍女である、身体の大きな中年の女は不安そうに落ち着き無くオロオロとした様子を見せる。


「落ち着きなさい。
………でも、このわたくしをまるで罪人の様な扱いね。」


厚手のガウンを羽織ったカリーナは、エントランスホールに入って来た騎士達の姿を吹き抜けとなった階段の二階部分から見下ろし、慌てる様子もなく静かに騎士達に命じた。


「王城に征く支度をします。
二時間ほど、お待ちなさい。」


エントランスホールの騎士達が、二時間も?と言いたげな表情をするがカリーナは無視した。

王族の淑女を起きたばかりの姿で外出させるなんて有り得ない。


「髪を結い上げ、着付け、お化粧……本当ならば湯浴みもしたい位よ。仕方が無いから朝食だけは我慢するわ。
侍女達を集めてちょうだい。」


カリーナはセドリックが扮する身体の大きな侍女に声を掛け、邸の奥へと消えた。

侍女のフリをしてはいるが本来、男であるセドリックはカリーナの着付けを手伝えない。

離宮の侍女達に指示だけ出し、セドリックはエントランスホールにワゴンに茶を乗せて運んで来た。


「騎士様がた、カリーナ様のご準備にはまだお時間が掛かります。
どうぞ、こちらにお掛けになってお待ち下さい。」


セドリックはエントランスホールにあるソファー前のテーブルに毒気の無い温和な笑顔を見せながら茶を出した。

最初は僅かな警戒心と、緊張感をあらわにしていた騎士達が、終始にこやかなセドリックのもてなしを受け、時間の経過と共に柔和な態度に変わっていった。



「朝から大変ですのねぇ騎士様たちは。
あたくしも、カリーナ様のお世話をする為に早起きしているのですけれど…こう、身体が重くて即行動!が難しいのですわよ。
その点、騎士様たちはご立派ですわぁ。
この様な朝早くからちゃんと、お仕事なさっていて。」


セドリックはいかにもオバちゃん的な、くだらない話をまくし立てる様に言い連ねながらも騎士達を立てて褒めるを繰り返す。
カップの茶が減れば注ぎ足され、菓子や軽食も出され続ける。

騎士達は満腹になり、何なら親しい者と雑談をしている様な錯覚にすら陥り、時間と共に警戒心が溶け切った騎士の一人がポソっと呟いた。



「今日は急を要する感じで突然、陛下に命じられたからな。
あのいけ好かない使用人が賊だったらしく……」


「おい!」


口を滑らせた騎士の声を遮る様に別の騎士がテーブルを強く叩いた。
そして、セドリックが扮する侍女を強く睨みつける。


「ぁ、あたくしは何も聞いておりません…!
誰にも何も話したりなど致しませんわ…!」


セドリックは萎縮した様に震えながら怯えた表情を見せ、茶器をワゴンに乗せると何度も騎士達に頭を下げてワゴンを押しながらエントランスホールを去って行った。

エントランスホールを出たセドリックはポツリと独り言つ。


「テンソ……さらばだ……」


使用人がテンソであるとバレた時点で、彼女の生命は無いものとしている。
テンソは生き長らえていても、助けを求めてセドリックの元に来る事はしない。
互いを関連付ける様な行動は一切しない。

ヴィーヴルの者は国を、ひいては仲間や依頼人を売らないという強い矜持を持っている。



セドリックは支度を終えたカリーナがエントランスホールに向かう前に、テンソが死んだと伝えた。


「そう。彼女の死を悼む時間は無いのね。
それで……兄上は、わたくしが使用人に扮した賊の雇い主ではないかと疑っているの。
わたくしは、何も知らないし何も関係無い。
そう、お伝えしましょう。」


ドレスに着替え、髪を結い上げたカリーナは吹き抜けの階段からエントランスへと降りて行く。

カリーナは騎士に囲まれるようにして玄関の大扉を出た。

そのまま騎士に付き従われ馬車の前まで行ったカリーナの後を侍女姿のセドリックが追ったが、セドリックの行く先を阻む様に騎士がセドリックの前に立った。


「侍女や従者は一人も付けるなとの仰せだ。」


「陛下は、皇妃殿下に侍女の1人も付けずにと仰有るのですか!?」


「いいのよ。
わたくしは陛下の仰有る通りに致しますわ。」


カリーナは後方のセドリックに声を掛け、騎士の1人に手を取って貰って馬車に乗り込んだ。

カリーナの乗った馬車が騎乗した騎士に四方を囲われて王城に向かって走り出す。

セドリックは今すぐ侍女の扮装を解いてカリーナを追いたい衝動に駆られたが耐えた。


━━テンソとカリーナ様を繋ぐ物は無い。
今すぐカリーナ様が断罪される事は無いはずだ……━━



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