【R18】熊の様な45歳の近衛隊長は、22歳の美貌の皇帝に欲しがられています。

DAKUNちょめ

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混沌に満ちたバラ咲き誇る庭園のガゼボ。

「テクニック…とは…その…なんだ…要するに…あの…なんだ…あれだな…」


渋い顔になったガインが平静さを装う為か、最もらしい言葉を口にしようとするが、脳内はかなり混乱しているらしく意味を為す言葉が一切出て来ていない。
心なしかガインの額は汗ばんでいるようにも見える。

渋い表情で顎先に手を当て、深く思案する様な姿を見せるガインに対し、クスッと微笑を浮かべたキリアンが声を掛けた。


「ガイン、何かを言おうとして無理しなくてもいいから。」


性行為の際にキリアンに与えられる行為を、素の状態で真っ向から全て受け入れるガインには、テクニックを使うといった考えが一切無く、逆に言えば性行為の際のテクニックがどんな行為を指すのかもガインには全く分からない。

テクニックとやらに該当する行為を考えても考えても思いつかない上に、自身の配下に皇帝陛下と性行為をしているのだろうと直で指摘され困惑している事もあり、ガインは深く思案する雰囲気を醸し出してはいるが頭の中が真っ白な状態である。

ガインを良く知るキリアンは、そんなガインの今の状態をしっかりと把握していた。


━━━━いつかは、こうやってガインを俺の情人だと名指しした上で、自分自身を俺に推して来る輩が現れるとは思っていたが…。
どうやら、ガインがどちら側の立ち位置かまでは、まだハッキリと把握してはいないようだな。
ガインは俺とヤってる事自体を余り知られたくないだろうし、女役が自分だとは尚の事知られたく無いだろうし…
特に義娘のミーシャには……━━━━


ガインとの仲を公言したい反面、ガインに精神的な負担を掛けたくないと思ったキリアンは、今は皇帝が肌を重ねる事を許して情を交わす相手がガイン唯一人であると皆に周知されるだけでも充分だろうと考えた。

ガインが男役だろうが女役だろうが、そこまで公言する必要は無いと。


「ガインは私にとって、何者にも代え難い唯一無二の存在である。
私の肌に触れる事を許したのはガインのみだ。
お前の過剰な自信が何処から来るのか知らないが、何と言われようとガイン以外を相手にする気は無い。
下がれ。」


「お待ち下さい、陛下!
陛下はまだ本当の悦楽を識らぬだけなのです!」


男は懲りずに話を続けた。
皇帝の命令を重ねて無視し、今もこの場で自身をアピールし続ける。

不敬罪だと罰されてもおかしくない状況で、まだ話を続ける男の胆力に憤りを過ぎて呆れ果てたキリアンは、庭園に配置された兵士に向けて目配せをした。


━━鬱陶しいこいつを何とかしろ。━━






庭園の中、ガゼボが見える位置で警備をしていたノーザンはキリアンの目配せに気付き、溜め息混じりに独り言つ。


「連れて行けとの命令だ…。
また一兵卒からやり直させろとか言うのだろうな…。」


「何やら揉めてますわね。」


「!!!!!!ミッ…!な、なぜ此処に!?」


キリアンのもとに向かおうとしたノーザンの背後から、ひょこっと顔を出したミーシャが、ガゼボの方を見て呟いた。

庭園内は今、皇帝陛下が茶を嗜む為に護衛の騎士と兵士以外は入れない様になっている筈で、ノーザンはミーシャが庭園内に居る事にビクッと跳ね上がり、大袈裟な程の驚きを見せた。


「ノーザン様、私は陛下に言われて出来立てのお茶菓子を届けに来たのですよ。
庭園の入口を警備していた兵士さんは私が来る事を知ってらしたけど…。」


「…私は…貴女が来るとは聞いておりませんでした…。」


キリアンによるサプライズのつもりなのか、ミーシャが来る事を聞かされてなかったノーザンは赤くなった顔を隠す様に鼻から下を手の平で覆った。

何の前触れも無く、いきなり愛しい人の顔を間近で見れた喜びと照れから、ポポポと花が咲く様に赤くなり続ける顔を隠す様に、ノーザンはミーシャから顔を逸らした。

そんなノーザンの態度を気にもとめず、ミーシャはガゼボの方を見る。


「うん、いつものアレかしら。
身の程知らずな愚か者が、綺麗なキリお兄ちゃんを抱きたいって恋人に立候補するやつ。」


ミーシャは馬の形のトピアリーの頭の下に顔を突っ込む様にし、馬の後ろ足の間からガゼボの方を見て呟いた。

はしたなくも馬の股ぐらを覗く様な格好になっているミーシャに慌てたノーザンが、ミーシャの目の前に手の平を出して視界を遮った。


「そ…それが、今回の者は少し違っているようで…
陛下に対して、どちらの立場での相手も可能だとか言っているようですよ。
隊長がどちらの立場で陛下のお相手をしているのか分からないみたいで。」


どちらにせよ、今までは公にはせずとも暗黙の了解であった『ガインがキリアンの夜の相手』だという事実が周知されている事を男は明言した。

キリアンはともかく、その暗黙の了解を『誰にも指摘されないから多分誰にも知られてないだろう』と都合良く解釈していたであろうガインは困惑状態だろう。

そんなガインを守る為に、キリアンは早く男を目の前から遠ざけたい様だ。


「はぁ?キリお兄ちゃんに、お古の棒と穴を勧めてんの?いい根性してるわね!」


「あの…性交経験者をお古って…
…その言い方はあんまりなのでは…」


未経験のノーザンには刺激の強い話な上、嫁入り前で未経験であろうミーシャの口から出た、はしたなくも辛辣な言葉にノーザンが困り顔で語尾を濁した。


「別に、経験者を貶してるワケじゃないんですよ。
キリお兄ちゃんの為に長く操を守り続けてきたパパを差し置いて、経験豊富だと自慢げにしゃしゃり出て来た男にムカついただけです。
二人の間に割り込むつもりかと。」


ノーザンは頭の中で『隊長は良縁に恵まれなかっただけで、この年まで陛下に操を立てていたワケでは無かったと思うが…』と呟いたが、余計な事は口にすまいと唇をキュっと結んだ。

ノーザンにとっては『たまたま』であってもキリアンとミーシャにとっては必然であり、ガインが長く誰とも肌を重ねなかった事を運命だとか神の思し召しとか何とか思っているに違いない。

悪魔の兄妹みたいなキリアンとミーシャを相手に命を削る様なツッコミはしないに限る━━ノーザンはそう理解した。



「とりあえず、陛下があいつを何とかしろと合図が来たのでガゼボに向かいます。」


「では、ご一緒に。
私も焼き上がったばかりのお茶菓子を陛下に届けに参りますわ。」


ノーザンとミーシャが馬のトピアリー陰から並んで姿を出したが、ガゼボに居る3人は2人に気付いておらぬようで、男はまだ話を続けている。






「今以上の性の悦びを!天に昇る様な極上の快楽を!
陛下に教えて差し上げたいのです!」


「…………ほぉ」


キリアンは嘲笑を浮かべながら投げやりな返事をする。

ここまで自分に酔っての阿呆なアピールが続くと呆れ果てるも通り越して笑えて来た。
寵愛を求めたいからと言って、国の頂点である皇帝を前にしていつまでソッチの話を続ける気なのか。

キリアンは「お前は騎士ではなく男娼か?」と問うような眼差しで薄ら笑いを浮かべながらほぼ聞き流し、兵士の到着を待つ。


「貴様、いい加減にしろ!
下がれと仰った陛下の命令も無視して、いつまでも捲し立てるようにたわ言を言い続けやがって!
不敬にも程があるだろうが!」


渋い表情でキリアンの傍らに立ったまま混乱中だったガインが、自分がキリアンの護衛として勤務中である事を思い出し、男の言葉を遮るように口を挟んだ。
男は負けじとガインを挑発する態度を見せる。


「お言葉ですが隊長は長く独り身であり、お付き合いなさっていた方も居られませんでしたよね!
夜の行為に関しては、ほぼ未経験なんでしょう?
陛下を悦びの頂きにお連れするテクニックもお持ちではないでしょうし!」


テーブルに片肘をついて頬杖をつき、身体を外側に傾けて男とガインの言い合う様子を見ていたキリアンは、はぁーと深い溜め息をついた。


━━この男は、皇帝の俺を何だと思ってるんだ。
常時欲求不満のエロ皇帝か?
ガインにならばそう思われても、やぶさかではないが。━━


そう思いつつ、キリアンは男と言い合うガインをチラッと見る。

ガインは男の言い分にヒートアップしたのか眉間にシワを刻み、男の騎士服の胸ぐらを掴んだ。


「テクニック、テクニックとそれが何だ!
そんな小細工などしなくとも、俺はこの身体ひとつで全身全霊をもって陛下を受け入れている!
身体も心も魂も!全てを捧げて陛下を愛し、毎晩陛下に抱かれている!全力で!」



━━━━━━時が止まった。



2人を見ていたキリアンも、ガインに胸ぐらを掴まれた男も、ガゼボ前の階段まで来ていたノーザンとミーシャも、その場で石化したかの様に静止状態になってしまった。


怒号にも似た大声でのガイン自らのカミングアウトは、広い庭園に居た兵士や騎士達にも聞こえたであろう。
小鳥のさえずりさえ無くなった庭園は静寂に包まれた。


キリアンにとっては思いも寄らぬ僥倖。
歓びに笑みが溢れ平静を装う事が出来ない。
顔を俯かせ、誰にも聞こえぬ小声で喜びを口にした。


「ふふっ…ははっ…ガイン…ああ…師匠…!
貴方は、なんて素晴らしい人なんだろう!
いつだって俺に思いも寄らない歓喜をもたらしてくれる。」


今はまだ仕方ない事だとガインを慮って公言を諦めたキリアンだったが、ガイン自らがそれを打開してくれた。
本人は意図せず…のようだが。


ガインに胸ぐらを掴まれた男は、にわかには信じ難い光景を目の当たりにしたと目を大きく見開き、言葉を途切れさせながらガインに訊ねた。


「隊長…もしかしたらと少しは思ってましたが……
…隊長が陛下に抱かれる……側なんですか?
毎晩、全力で。」


「そうだ!俺が毎晩陛下に抱かれる側だ!全力で!
…………………………ハァ!?」


男の胸ぐらを掴んで睨みを効かせていたガインは自身が口にした言葉を自身の耳で改めて聞き、ようやく自身がとんでもない事を口にしたのだと気付いた。

思わず、自分に対して強めの口調で「はぁ?」と問い返し、同時に狼狽え始める。

男の胸ぐらを掴んでいた手が緩み、男を下に落として解放した後もガインの手は宙に浮かんだ状態で、モミモミと怪しく空気を揉み続ける。


「ち…違う……これは…その、あれだ…あれなんだ…。」


男に対して何とか誤魔化さねばと、しどろもどろに言い訳を探すガインは、テーブルに着いた状態でガインを見つめるキリアンと目が合った。


「ガイン…今、ガインが言った事は…違うの?」


テーブルに両肘をついて手を組み、その上に軽く顎先を乗せたキリアンが、目が合ったガインに訊ねた。

ガインはキリアンの物悲しく語り掛ける様な眼差しにグクッと息を呑む。

自分が吐いた言葉を否定する事は、抱かれている事を隠す以前に、身も心も全て捧げてキリアンを愛してるとの言葉をも否定してしまう。


ガインは宙をいやらしく揉みしだいていた手を下ろした。
その手を胸に当て少し呼吸を整え、大きな深呼吸をひとつする。

そして、意を決したかの様に口を開き男に告げた。


「俺は、陛下を愛してる。
俺にはお前が言う様なテクニックとやらは無いが、全身全霊をもって陛下の全てを受け入れている。
それが…俺の愛し方だからだ。」


そう告げた後に、ガインの脳裏にフワッとしたささやかな不安がよぎった。

もしかしたらキリアンは、そういうテクニックとやらに興味があるのでは無いかと。

ガインは思わず横目でキリアンの方をチラッと見てしまった。

キリアンはテーブルに両肘をついた両手の平で顔を覆い、激しい嗚咽を漏らしているかの様に肩を縦に震わせていた。


「陛下…!キリアン!泣かないでくれ!
お前に泣かれたら、俺はどうしたらいいか分からなくなる!だから…!」








「あらーキリアンお兄ちゃん、嬉しくて笑いが止まらないみたい。」


わずかな高台の上にあるガゼボの下まで来ていたミーシャは、呆然としているノーザンの隣で呟いた。


「陛下、笑ってるんですか?泣いてるのではなく?」


「嬉し過ぎて爆笑してるんだと思いますよ。
キリお兄ちゃんはパパと愛し合っていると公言したがっていたけど、パパの気持ちを優先して我慢していたでしょ。
それが売り言葉に買い言葉で本音をぶつけずには居られなかったパパが、意図せずとは言え自らカミングアウトしちゃったんだから。
キリお兄ちゃんは嬉しいでしょうね。」


「隠していたかった隊長御本人、自ら公言なさってしまいましたからね。
そういえば…ミーシャ殿が、ご令嬢がたにガルバンゾーの事を詰め寄られていた時も…隊長こんな感じでしたっけ。」


出るタイミングを逃したミーシャとノーザンは、ガゼボ下にある繁みの陰で待機しながら、続けてガゼボの様子を窺う事にした。








「嬉しいよ、ガイン…。」


キリアンは椅子から立ち上がるとガインの隣に来て立った。

「泣いてたんじゃなかったのかよ」と言いたげにポカンとしているガインの左手を取ったキリアンは、その場に片膝をついてガインの手の甲にキスを落とした。

何人にもこうべを垂れる事などない皇帝が、片膝を地につき相手の手の甲に唇を乗せる行為をするとすれば、それは妻に迎え皇妃となる人物に対してのみ有り得る行為である。

思いも寄らぬキリアンの行動に、ガインと男が血の気が引くほど驚き過ぎて凍りつく。

ガゼボの下で様子を窺うノーザンも、ヒュッと息を呑んで凍りついていた。

ミーシャはぬぼーんとした表情で「ほう。」と一言呟く。







「ふぇっ!ふぇいか!陛下!
いくらなんでも皇帝陛下が地に膝を付くとか!部下に頭を下げるとかっ!いけません!いけませんって!
つか、こら!シャンと立て!」


左手をキリアンに取られたまんまのガインが、もう一方の手でキリアンの左脇に手を入れ、身体を抱き上げる様にして何とか立ち上がらせようとする。

キリアンは立つのを拒み、ぐにゃりと脱力したまま、ここぞとばかりにガインにギュッとしがみつき、茫然としている男の方を見た。


「お前がいかに男を悦ばすテクニックとやらを持っていようが俺とガインの間に割って入るには、絶対的に足りないし手に入らない物がある。
それは私に対する愛と、私からの愛だ。
ガインの私への愛は忠誠をも越え何処までも深く……
また、ガインへの私の愛は止め処なく溢れ続けており涸れる事が無く、私はその全てをガインに捧ぐと神に誓っている。
だから、お前が付け入る隙間は無いのだ。分かったか。

ノーザン!いるか!!」


「はっ!お側に!」


ガゼボの階段を数歩下がった所に不意に姿を現したノーザンとミーシャを見たガインは、キリアンにしがみつかれたままビクゥッと背筋を伸ばして身体を強張らせた。


「み、ミーシャ…いつから…どこから話を……」


「今のお話を聞いたのは途中からですわね。
でも、お義父様が陛下に抱かれてるって話でしたら、かなり前から知ってましたわよ。
では、これにて失礼致しますわね。」


しれっと答えて、焼き菓子入りのバスケットをテーブルに置いたミーシャは、何事も無かったかの様にペコリと一同に向け頭を下げると、ノーザンと擦れ違いスタスタとガゼボの階段を降りて帰って行った。

ノーザンを置いたまま、あっさりとガゼボを去って行くミーシャの後ろ姿を見たノーザンが、ミーシャを追いたくなり焦り始める。 


「陛下!コヤツは一兵卒に落とせば良いですか!?
良いですね!?一兵卒で!」


ガインと、ガインにしがみつくキリアンの前で呆けている男の襟首を掴んだノーザンが男を引きずりながら、珍しくキレ気味になってキリアンに訊ねた。


「いや、もう放っといて良い。
焼き菓子が届いたが茶も冷めたし口直しがしたい。
私はガインと共に部屋に戻る。皆も解散して早々に持ち場に戻れ。
ガイン、部屋に戻るぞ。」


ガインから離れたキリアンの言葉を聞くやいなや、ノーザンは男をガゼボの階段途中に突き飛ばす様にほっぽり出してミーシャを追って走って行った。

いつも冷静なノーザンには珍しい行動に、キリアンは「へぇ」と感心した声を漏らし、同意を求める様にガインの方を向いたのだが、ガインは魂が抜けた様にその場に立ち尽くしていた。

目の焦点は合ってないし、瞳孔が開きっぱなしにも見える。

生気を失ったガインは大木の様で、そのうち小鳥がとまりに来るんじゃなかろうかとさえ思えてしまう。

ミーシャに知られた事がよほどこたえたのかと、キリアンは心配そうに下からガインの顔を覗き込んだ。


「ねぇガイン……俺に抱かれているからって、ミーシャはガインを軽蔑したりしないし、傷付いたりもしてないぞ。
ガインが頭に描いて演じていた良い父親像は、ミーシャが描く良い父親とは少しばかり違っていたんだ。
良い父親を無理して演じる方がミーシャは喜ばない。」


「……ミーシャに……きっきっきっ嫌われ……」


「だから嫌われないって。
ミーシャが言ってたじゃないか、とっくに知っていたって。
ガインが隠したがっていたからミーシャも気付いてないフリをしていたんだ。」


「だ、だったら、ずっと隠し事をしていた俺を軽蔑し…」


瞳孔開きっぱなしみたいな黒目がちのガインが、消え入りそうな小声で呟いた。


「いや、しないから。
ガインは良い父親を演じる前に、もっとミーシャを知るべきなんじゃない?」


言っては何だが、父親のガインよりもキリアンの方がミーシャという人物をより深く理解している。


「だ、だが…俺はミーシャにずっと隠し事を……」


そして、キリアンはガインの事も良く知っている。
悪い考えに囚われたガインはネガティブな思考のループから抜け出せず、その場から動けなくなった。
普段の豪快さが嘘のような意気消沈ぶりだ。

ミーシャに関してだけは何ともナイーブな一面を見せてしまうガインの前でキリアンが項垂れた。


「そっか…ガインは…俺よりもミーシャの方が大事なんだよね…。
ガインが俺を愛してるって言ってくれて、俺を全身全霊で受け入れてくれてるって言ってくれて……
俺、すごく嬉しくて幸せで……だから俺もガインに愛を捧ぐと神に誓っていると告げたのに……
俺の告白なんか忘れてしまう程、俺に抱かれているとミーシャに知られた事の方が大ごとで………
結局、俺はガインの一番にはなれないんだよな…。」


悲しげな表情を垣間見せ、キリアンはガインに背を向けると一人でガゼボの階段をフラフラと力無く降り始めた。


「そっそんな事は無い!!
ミーシャは、何より大切な俺の娘だ!大事な存在だ!
だが、だがな!
俺が誰よりも愛しているのはキリアンなんだ!」


「愛しているって…言葉で言うだけなら簡単だよね…
ガインが俺に言う愛してるは、俺がガインに言う愛してるとは違うのかもね……
俺の愛は大き過ぎて、もう言葉で言い尽くせないほどなんだ…。
でもガインには全然伝わってなかったみたい…。」


「そんな事は無い!絶対に無い!
すまない……!すまなかったキリアン!不安にさせちまって…!
愛してる!俺はキリアンを誰よりも愛してる!」


ガインが背後からキリアンを抱き締める。

悲しみに震える細い身体を大きな腕で優しく、それでいて力強く包み込み、その悲しみを癒やす様に━━━━



「ッッッひ………!」


ガゼボの階段途中で、ノーザンに放り出された男は尻もちをついた状態でガゼボから降りて来たキリアンと目が合った。

ガインに背後から抱きすくめられたキリアンは、悲しげな囁やきを漏らす口元に笑みを浮かべ、嗚咽を漏らす様に肩を震わせながら笑っており、男に目だけで命じた。


━━━━邪魔だ。とっとと去ね。━━━━


美しい女神の恐ろしい笑顔に背筋が寒くなった男は、慌てて立ち上がると、「うわわわぁ」と声を上げながら逃げる様にその場を走り去った。


ガゼボ周辺から邪魔者が居なくなったのを確認したキリアンは、背後から抱き締めるガインの腕に自分の手を重ね、甘える様にガインの胸に頭を預けた。


「せっかくの美味しいお茶が………
ガイン……部屋に戻って、口直しがしたい……
そして…俺を愛してるって、もっと聞かせて…。」


「分かった、何度でも何回でも言ってやる!
俺が美味い茶も淹れてやるからな!
部屋に戻って、一緒に茶菓子を食おう!な!」


キリアンはガインの腕の中で大きく頷き、紺碧色の目を細めてニッと笑った。


━━━━どんな美味しい茶より、茶菓子よりも
極上の美食であるガインで口直しをする事にしよう。━━━━



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