【R18】熊の様な45歳の近衛隊長は、22歳の美貌の皇帝に欲しがられています。

DAKUNちょめ

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コミュ障とメンタルお化け

ルンルンがケンヴィーと初めて会ったのは、ベルゼルト皇国の皇帝の座を巡っての第一皇子と第二皇子の争いが第二皇子軍の撤退により終結した後だった。

この戦争でガイン自身は第一皇子のキリアンの側近であるためにキリアン側について参戦したが、ガインが治めるヴィルムバッハ伯爵領は今回のような国内での身内同士の戦には参戦しないとしており、領地から兵を出す事は無かった。表向きは━━━━



戦争が始まった時点でルンルンは自身同様にヴィーヴル国にて隠密行動の鍛錬を積んだヴィルムバッハの精鋭20人と共に、ケンヴィーと周りの貴族たちの動向を見張っていた。

それはガインの父であるヴィルムバッハ将軍の命令ではあったが、ルンルンたちは詳しい事は何も聞かされてなかった。

将軍から受けた命令は戦争が終わるまでは、ケンヴィー皇子たちを見張る事のみ。

もし戦争が終わるまでケンヴィー皇子が存命であったならば、その後に命が危ぶまれる場合は助け出せとだけ指示があった。



戦争中のケンヴィーは戦場に出て来る事は無く、リスクィートの息がか掛かった貴族たちに囲われるように城砦に鎮座していた。

敗戦濃厚となり初めて城砦から出て、敗走という形で深夜に国境近くにある森に連れて来られたケンヴィー。
ケンヴィーの周りには貴族や騎士、雇われた兵士など百人ほどが囲む。


「この後、ケンヴィー殿下にはリスクィートに来て頂く事となります。」


カンテラを手にした貴族の1人にそう告げられたケンヴィーは、コテンと首を横に傾けて答えた。


「リスクィートに?どうして?
僕はリスクィートには行かないよ。
母上が、あそこは僕が行くべき場所ではないって言っていたからね。」


「…ハァ?母上が言ったから行かないだと?
なんだこの甘ったれは…ガキみたいな事を言いやがって。」


ケンヴィーを取り囲む騎士の1人が苛立ちをあらわにして聞えよがしに呟く。
ケンヴィーは悪態をつかれた不快さを顔には一切出さずに頬に手を当て首を傾げ、ほんの少し困った風に答えた。


「うーん…正直言って今回の戦争って意味無いよね。
僕、別に皇帝になりたいとも思ってないし。
君たちが熱く語るから何となく協力したけど結局負けちゃってるしね。
それに、僕がリスクィートに行くなんて話は聞いてないしなぁ。」


その場の空気が一瞬で凍り付いた。

苛立ちをあらわにする騎士や兵士たちに囲まれた状態で、空気を凍り付かせた当の本人は首を傾げたままのほほんとしている。


「このクソガキ…!お飾りのお前のせいで、こちらの兵士が何人死んだと思ってる!」


「それ僕のせいじゃないよ。僕はお飾りなんでしょ?
君たちが勝手に僕の名前で兄上に宣戦布告して、ガイン擁する兄上たちに向かって行ったんじゃない。
そりゃあ勝てないよ。
ねぇ僕もう兄上の所に帰ってもいいかな。眠くて。」


今にも斬り掛かりそうなほど怒りをあらわにした兵士たちを意に介する事も無く、ふぁーと大きなあくびをした口を手の平で押さえたケンヴィーは、森まで乗ってきた馬にノロノロと近付き手綱を握った。
眠さのせいか足元がフラフラしており、馬に乗る事が出来ない。


「まぁまぁ…そういきり立つな。
ケンヴィー皇子をリスクィートにお連れするのに、生きたままである必要はないんだ。
リスクィートの王女カリーナ様と同じ、その顔さえあれば…そう、首だけであってもな。」


貴族の1人がそう言いながら剣を抜き、馬に跨ろうとしているケンヴィーの背後に近付くと大きく剣を振り上げた。





その後森の中には、百人ほどいた騎士や兵士、貴族らの断末魔が静寂を切り裂くように響き続けた。

馬の手綱を握ったまま皆に背を向けていたケンヴィーは、背後の喧騒が静かになりかけた時になって、やっとゆっくりと振り返った。

ケンヴィーを取り囲んでいた貴族たちの立ち姿はどこにも無く、代わりに暗い森の中に出来あがった小高い山がウトウトしかけたケンヴィーの目に入った。


ケンヴィーが振り返ったのに気付いたルンルンはケンヴィーの前に進み出て、地面に片膝をついて頭を下げ騎士の礼をした。


「ケンヴィー皇子殿下、ご安心下さい。
我々はヴィルムバッハより殿下をお迎えにあが……」


「助けてくれてありがとう!
迎えに来てくれたんだ、良かったぁ~!
もう眠いし、お腹空いたしで早く休みたいなって思っていたんだよ。」


ケンヴィーは片膝をついてしゃがむ口上途中のルンルンの背にペタッと張り付くようにのしかかった。

突然目の前に現れた殺戮集団の首領らしきルンルンに一切の警戒を見せず、おぶって欲しいとばかりに背中に張り付く皇子。

これに面食らったのはルンルンの方で、焦りながらも背中に乗ったケンヴィーに、理解出来ないと矢継ぎ早に質問を投げ掛けた。


「眠くてお腹空いた!?
この惨状を見て、普通そんな言葉でます!?
殿下たった今、殺され掛けてましたよね?
まさか気付いてなかったんですか?
なぜ…殿下は見ず知らずの我々を警戒しないのですか?
どう見たって怪しいでしょう!?」


ルンルンの背後には、先ほどまでケンヴィーを囲んでいた者たちが無惨な骸となり、小高い山のように積まれていた。

その周りでは返り血を浴び凶悪な面構えにしか見えないヴィルムバッハの兵士たちが、ルンルンとケンヴィーのやり取りを不思議そうな顔で見ている。


「迎えに来たって言ったじゃない。味方でしょ?
みんなが助けに来てくれたから僕は無事だったもの。
警戒なんてしないよ!
……城砦から走りっぱなしで疲れたぁ眠いぃ。」


いくら窮地を救ったからとは言え、見も知らぬ殺戮集団に警戒心を持たないケンヴィーにルンルンの方が警戒してしまう。

と言うか、人と打ち解けるのが苦手なルンルンは、ここまで警戒心無く初対面の殺人者に懐くケンヴィーを天敵だと認識した。

こんな輩とはあまり深く関わりたくないが、今はそうも言ってられない。



「寝ないで下さいよ、ほらちゃんと1人で馬に乗って!
グニャグニャしない!」


ルンルンは背中にへばりつくケンヴィーを何とか引っペがし、ケンヴィーの尻を押しながら無理矢理馬に乗せた。

グニャグニャしたまま馬の手綱を握ったケンヴィーはヴィルムバッハの兵士が乗る馬に囲まれ、落馬しそうな身体を何度か支えてもらいながら何とか無事ヴィルムバッハに辿り着き、今に至る……のだが…。



当時は秘密裏に行動をしていたつもりのルンルンの方が無警戒過ぎるケンヴィーに困惑したが、ケンヴィーは最初からこうなる事を知っていたのかも知れない。

それでも、一歩間違えれば殺されていたかも知れない状況でのあの態度は、よほどの胆力の持ち主か、よほどのバカか………。

ケンヴィーを見ていると後者に見えてしまうのだが。


「我を押し通すと言うか…やめろって言われたくらいじゃ考えを改めたりしない面倒な奴なんですよねぇ…ヴィーって。
我儘を許された皇子サマらしいって言えば、そうなのかも知れないけど。」


そう呟くルンルンの脳裏に、かつての自分の姿が浮かんだ。

忘れたくても忘れられない、もう戻る事は無いと分かっていても、過去の記憶は呪縛のように感情を暗い淵へ落とそうと蝕んでくる。


国王の血を引きながらも王子として扱われた事はおろか王子と呼ばれた事すら無い。
それは破壊され尽くして命を失った兄弟たちも同様に。

姉妹たちとは顔を合わせた事も無かったが、牢番をする兵士たちの会話から、彼女らは売られたのだと知った。

今となっては、姉妹の中にも自分同様に生きている者がいるかも分からない。


「皇子として生まれ、皇子として生きて来たヴィーに…王の血を引いて生まれた瞬間、破壊するための玩具として生かされた俺の事なんて理解出来ないよな…。」


ベルゼルト皇国が攻め込んで来た際に、かろうじて生き長らえていたケンヴィーは運良くヴィルムバッハ将軍に助け出された。 

将軍に引き取られヴィルムバッハに来て第二の生が始まり多くの人の優しさに触れても、幼い頃の強い恐怖によって刻まれた猜疑心は消える事は無い。


心から人を信じる事も、信じてもらう事にも素直にはなれずに一歩引いてしまう。

まして、愛し愛されるなど理解の範疇すら越えてしまい、考えるだけで精神的に疲れ果ててしまう。

それを強要してくるケンヴィーは、やはりルンルンにとって天敵でしかない。


だから距離を置きたい。

置きたいと思う。だから近付かないようにしたいが…



━━━━俺の主張は完全に無視か━━━━



ルンルンはケンヴィーの護衛も兼ねている為に完全に離れる事は出来ず、だが陰から見守るくらいの距離ではすぐケンヴィーに見つかり、ピッタリと張り付かれる。

ルンルンの中でのケンヴィーは、歩いただけでくっついてくるオナモミ同様に鬱陶しい。

ちなみにオナモミとは━━原っぱに行くと服にくっつくトゲトゲの実である。



ヴィルムバッハ邸に賊が侵入した日からケンヴィーのルンルンに対する行動には遠慮が無くなった。

とにかく、煩わしいほどにくっついてくる。
キスを迫り襲いかかってくるような行為は無いが、密着してくるだけでも鬱陶しくルンルンは精神的に疲れる。


「ヴィー、今はそれどころじゃないでしょー?
ヴィーの居場所がリスクィートに知られちゃったんですよ。
この先、どうなるのかとか…不安は無いんですかねぇ。」


「今だからこそ僕はルンルンを恋人にしたいんだ。
いつも僕の側に居て今みたいに守っていて欲しい。
いつ、どこに居ても必ず僕の側に。」


それ、側近とか親友って関係でも充分なんじゃ…というルンルンの意見は却下され続けた。
あくまで恋人という関係にこだわりたいらしい。
意味が分からん…しかも「側に居て」の側とは、普通はベッタリ密着する事ではないだろう。


疲れ果てたルンルンは邸のテラスでケンヴィーに腕を組まれくっつかれたまま、やつれたようにガルバンゾー畑をぼんやり見ていた。


「…………空が青いっすねぇ゙…………」







「あの………殿下、申上げにくいんですが、余りルンルンを追い詰めないでやってもらえますか。」


ルンルンが所用で邸を離れた際、その間のケンヴィーの護衛を務めるヴィルムバッハ将軍が、テラスで本を読むケンヴィーに言いにくそうに口を開いた。


「追い詰める?
僕、なんかルンルンを追い詰めるような事してる?」


読んでいた本を膝に置いたケンヴィーが首を傾げ、隣に立つ巨躯のヴィルムバッハ将軍を見上げる。

ヴィルムバッハ将軍は、見上げるケンヴィーと目が合うと僅かに視線を逸らして目尻のシワを指先でかいた。


「アイツが過去に酷い目にあったってのは知ってらっしゃるんでしょうが…どんな風な酷い目にあったかまでは知りませんよね。
あれは…よく生きていたと思えるほどの地獄でした。」


「母上からドナウツェードルンの国王は残虐非道な人だったとは聞いたけど。自身の妻も子も虐待したって。
それがルンルンの父親なんだよね。」


「ええ、ベルゼルトに輿入れなさったばかりのセレスティーヌ皇妃様が絶対に滅ぼすべきだと攻めた国の王ですな。
ルンルンは、物心がついた頃から父王から非道な扱いを受け続けており…わしが助け出した時のアイツは強い人間不信状態でした。
……そのせいでアイツはまだ、人と打ち解けるのが苦手でして距離を置きたがります。
……特に知り合って間もない殿下にそこまで懐かれるのはアイツにはキツいんじゃないかと思われまして…。」


ルンルンのセンシティブな過去をどこまで話して良いものかと歯切れ悪くボソボソと語るヴィルムバッハ将軍を見たケンヴィーは、膝に開いたまま置いた本をパンと閉じた。


「だからって過去に囚われたまま、幸せな未来から遠ざかろうとするのは違うと思うよ。
やっぱりルンルンは僕が幸せにしてあげなきゃ!」


「ええッ!いや、あの……距離を置いてやって欲しいと
お願いしたつもりなんですが…?」


「うん、それは分かったけど僕には無理だね。
僕がもう、ルンルンを手放すつもりがないし。
だから絶対に恋人にするよ。」


「恋人っっ!?側近とかでなく恋人?って……
男同士の恋人……そういうアレですか?」


男を愛人として侍らす為政者や君主など珍しくもなく男同士の恋愛もよくある話ではあったが、自身が関わった事がなく、そちらの話に疎いヴィルムバッハ将軍は、困惑気味におろおろとケンヴィーに訊ねた。


「そういうアレってなぁに?フフッ。
人が人を好きになるのに性別は関係ないでしょ?
そういうアレ…もしかして男性同士で性行為をする事を指してるの?
別に悪い事ではないよね?」


「嫌悪はしませんが…わしにはちょっと理解出来なくて…………………ルンルンにも……。」




ヴィルムバッハ将軍はそのまま深く考え込むような表情で押し黙り、ケンヴィーは椅子から立ち上がって自室に向かった。

会話は歯切れ悪いままで終わってしまい、ケンヴィーは自室で机に頬杖をつき将軍が最後まで言えなかった言葉を考えてみた。


ルンルンにも…?ルンルンにも理解出来ないだろう?

ルンルンにも出来ないだろう?恋愛?性行為?

分からないな……気になって……ちょっと疲れた。


「………………
あ、だったら帰って来たら本人に聞けばいいよね!
ルンルンの部屋で待っていよう!」


仕事を終えて疲弊状態で帰って来るであろうルンルンに突撃する気満々のメンタルお化け、ケンヴィーだった。

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