【R18】熊の様な45歳の近衛隊長は、22歳の美貌の皇帝に欲しがられています。

DAKUNちょめ

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月夜に浮かぶ幽霊塔。

遠く離れた空の下にいる腹違いの弟に「性欲の権化」とまで言わしめた若く麗しきベルゼルト皇帝キリアン。 


王都に在る城の敷地は広大で、敷地内はさながら一つの街であるかの如く様々な建物や施設がある。
そんな敷地内には小さな森もあり、キリアンは森の遊歩道を供を連れずに一人で散策していた。


一見一人きりに見えるキリアンだが、キリアンの周りには距離を取りながらも警護をする様にセドリックの部下達が潜んでおり、キリアンはその内の一人からリスクィートに潜入中のセドリック伝手に現在の義母カリーナの状況の報告を受け、森の中で深く苦慮していた。


「義母上が尖塔に幽閉…。
戦争を起こしたいリスクィート国王にとって義母上は戦争を起こす為の狼煙となる方だ。
そう簡単に処刑したりなんて事は無いだろうが…。」


━━だがリスクィート国王は、ケンヴィーの身代わりにするためだけに血の繋がった我が子に全身ヤケドを負わせる様な頭のイカれた男だ。
万が一という事もあるかも知れない。━━



「表立った行動は控えて欲しいが、万一の時は義母上の生命を優先する様にとセドリックに伝えろ。」


キリアンはセドリックの部下に指示を伝え、大きく溜め息をついた。


━━義母上が今、どうお考えなのかが分からない…。
母上が亡くなった際に正后となった義母上だが、父が崩御した際すぐに故国にお戻りになられた。
自分の意志でケンヴィーを皇帝にする事も出来たし、自身が国の頂点に立つ事も出来た。
それをせず、嫌悪していた故国に戻ったのは……━━


キリアンはカリーナの真意を知りたいと思っているが、今それを知るすべは無く、また連絡を取れたとしてもカリーナはキリアンに胸の内を晒すような事はしないだろう。




「陛下!!この様な所に一人きりで、一体何をしてらっしゃるのですか!ガイン殿は!?」


遊歩道の向こう側から、王城の敷地内を警らしていたらしき中年騎士の一人が青褪めた顔でキリアンに駆け寄って来た。
騎士の後ろには新人らしき若い青年の騎士も二人居る。  


「何って…ガインが寝ていて…暇だったんで散歩に。」


「何のための護衛騎士ですか!
散歩に行く前に、ガイン殿を叩き起こして下さい!」


青筋を立てる勢いで激昂する中年の騎士に対し、ツヤツヤの顔でぽやや~んとした表情のキリアンは困ったように眉尻を下げた。


「でも…ほら…ガインがそうなっちゃった原因は私であるし…。
朝方まで無理をさせて気を失う様に眠りについたので、もう少し眠らせてやりたいと思ったのだ。」


キリアンとガイン、この二人の仲はいまや公然の秘密となっており、城では知らない者は居ない。

まだ信じてない者や、頑なに信じたくないと言い張るキリアンを女神視する若者らも居るが…。


中年騎士はキリアンが言わんとしている事を把握した。
「エッ」と顔を赤くした後にガインの現状をも理解し、「それはガイン殿も大変だ…」と素で同情にも似た表情をしてしまう。


「それではガイン殿を起こさず…他の護衛騎士か兵士にお声掛け下されば良いかと…。
いくら陛下がお強いとは言え、供を連れずに歩くのはいけません。分かりましたね?」


諭すように話す中年騎士の前で叱られた子どものように頷き、シュン…と頷いたまま俯くキリアンを見た若い騎士の一人が、半歩足を前に動かした。

左腰に下げられた剣に向かい、僅かに右手の指が動く。


「無理だ。やめておけ。」


キリアンは小さく一言呟き、俯かせた顔を上げた。

目を細めて口角を上げ、美しい人形の様に微笑むキリアンの背後にある森の広範囲に渡り、身を潜めた多くの者達が青年騎士に向けていっせいにに強い殺気を放つ。


「ッッッ!!!は…!」


いくつもの強い殺気に射抜かれた青年騎士は、冷や汗をダラダラと流しながらその場に崩れる様に膝をついた。

共にいた、もう一人の青年騎士は何が起こったか分からずに焦ったようにキョロキョロと辺りを見回し、膝をついた騎士に手を貸して立たせようとする。

その様子を見ながら中年騎士が胸に手を当てキリアンに頭を下げ一礼した。


「…………陛下、先ほどの注意は聞き流して下さい。
そして、若い騎士が一人居なくなる事を先に報告致します。」


「えっ…!わ、私は何も…ただ立ち眩みがして…!」


青年は今から我が身に起こるであろう不幸を察し、焦ったように取り繕おうとした。

が、ガインと同じく城に長く仕える騎士達は皆優秀であり、この中年の騎士も自分の横を擦り抜けるように若者に向けられた殺気に気付き、それが意味するものを直ぐに悟った。


そして彼らのようなベテランの騎士は、国を愛し忠義に厚い者が多い。
僅か一瞬であったとしても、それが「もしかしたら上手くいくのでは?」程度の実行には至らない軽い思いつきであったとしても、かすかにでも皇帝に対し「暗殺」の意思を見せた者に容赦はせず、もう退路は無い。


「ああ、分かっている。
だから私が介抱してやると言っているのだ。
立ち眩みの原因となった国の名を聞いたら楽にしてやろう。」


━━拷問の末の死が待つのみだ━━


美しいばかりで頼りなく見える若い皇帝が治め始めたばかりの大国は敵が多い。
舐められている━━だからこそ容赦はしない。



キリアンは、中年の騎士が悲鳴にも似た命乞いを続ける若い騎士の腕を捻り上げ、城の方に引き摺って行くのを良い笑顔で見送った。


「幽閉か…そう言えば、我が国にも王族を幽閉するための塔が建っていたよな。
その名も『幽霊塔』……。」


キリアンが散策している森の奥、城の敷地内の片隅にある古い塔は、キリアンの祖父が皇帝の頃以前より存在する。

百年以上前に王族を幽閉するため建てられたとは聞いたが、キリアンが知る限り王族や、その縁者の幽閉に使われた事などない。


「中には入らなかったが、幼い頃にケンヴィーと一緒に父上に塔の前まで連れて行って貰った事があったな。」


今思えば、あれは恐らく━━父が、息子達を楽しませようとしてくれた行動だったのだろう。

子どもが好きな『怖い話』をし『怖い現場』に連れて行く。

息子達のために、そんな肝試しを企画してくれたのだと今なら分かる。
幼さゆえ、当時は分からなかったが。



「怖いですねー、父上。」とおざなり程度に恐怖を口にしつつも、終始笑顔のまま全く塔に興味を示さないケンヴィーと。

「幽霊?そんなもの、この世にいやしませんよ。
それよりガインはどこに居るんです?」と、塔まで警護した近衛の中にガインが居ない事の方に気を取られていた自分……………はぁー………。


「父上……今さらですが本当にすみませんでした。
俺達二人とも可愛げの無い子どもであった上に、父上の我が子を想う優しい御心に気付く事も無く…。」


あの時の、ショックを受けた表情をした後にしょんぼりした父親の姿を思い出せば、今は天にいる父に対し少なからず申し訳無く思うキリアンだったが、当時を思い出そうとしても記憶は少なく、あの時父が話してくれた怖い話ももう覚えてはいない。

それももう、かれこれ15年ほども昔の話であり、それ以降に塔を訪れた事は無い。



廃屋や廃墟には良からぬ者がたむろする。
野盗や敗残兵の残党が廃れた城や砦を根城にするのはよくある話だ。


「さすがに城の敷地内では、そんな事は無いだろうが…使ってない納戸で若い男女がイチャイチャしていた事もあったしな。
老朽化がひどければ取り壊さねば危険だろうし。
確認はしておいた方が良いな。」


キリアンは、まだ寝ているであろうガインが目を覚まし1日の仕事を終えた夕方頃にガインと共に幽霊塔を見に行くつもりでいた。


よほど疲れていたのかガインが目を覚ました時間が思ったよりも遅く、ガインが1日の仕事を終えた時には既に日は落ちて夜になっていた。








「陛下、確認のために私について来て貰いたい施設があると、お聞きしましたが。
この様な時間に…ですか?」


仕事を終えたばかりのガインにランプを持たせて付き従えさせ、共に城を出たキリアンはガインに訊ねられ頷いた。


「我が城の敷地は広く、父の代から手付かずになった古い施設もある。
管理し切れないならば何らかの事故が起こる前に取り壊した方が良いものもあるだろうと確認を急ごうと思ってな。
そう思い立ったのは昼前だったのだが…まぁ許せ。」


なぜ、この様な時間にと訊ねられても、ガインが起きるのが遅かったので…とは口に出来ない。

そこまでガインを疲労困憊状態にした原因が自分である事をキリアンは良く分かっている。


「はっ!お供致します。」


騎士服をきっちりと着込んだガインは騎士然とした佇まいを見せ、月明かりの下でそんなガインを見たキリアンは思わず見惚れてしまい、ゴクリと生唾を飲んだ。


━━普段の飾り気の無い素のままのガインもいいけど……久しぶりに間近で見たストイックなガインもいい…
凄くいい……!━━


二人きりの時は素のガインで居て欲しいと、ガインの畏まった態度を嫌うキリアンだが、青白い月のせいなのか冷たくキンと張った空気を纏うガインが余りにも美しく見えキリアンの心を鋭く刺し貫き、乱れさせ汚したい欲情を刺激する。


━━駄目だ…昨夜もかなり無理をさせたばかりなのに…いくら何でも今日は、さすがに自重しないと…━━


キリアンは煩悩を振り払う様に軽く首を振った。


暗い遊歩道の足元をガインの持つランプで照らしながら森を抜け、やがて拓けた場所に出ると、目の前に月明かりに照らされた石造りの古い塔が現れた。

不気味にも石壁をツタが覆い、暗く重々しい雰囲気を醸し出すそれはまさに幽霊塔と呼ぶに相応しい様相をしていた。


「………陛下、まさか陛下がご覧になりたかった施設というのは………」


「そう、幽閉の塔。
……幽霊塔と言った方が馴染み深いか。」


この時、ガインの表情が厳めしく、青褪めて見えたのは月明かりのせいなのだろうか……。

ガインは塔を見上げたまま、その場に立ち尽くしていた。


「ガイン?どうした?」


「陛下は……お疲れでいらっしゃるでしょう。
何も、この様な遅い時間まで働かなくとも良いと思われます。
人を増やし、また日を改めましょう。」


ガインが仕事の途中放棄を促すなんて、今までに無かった事だ。
これはこれで初めて見るガインの一面であり、珍しさとその驚きで思わず表情が綻んでしまう。


「別に疲れてなど無いが。
日々の疲れはガインと身を重ねる事で癒されているし。」


ニコリと微笑んでガインにそう答えれば、その行為の瞬間を思い出したのか、ガインがビクッと身体を強張らせて月明かりだけでも分かる程に頬を赤くした。


「だっ…だから!その行為だって、疲労の原因となるでしょう!
連日連夜、あんな激しく身体を動かしていたら…。」


恥ずかしさからなのか、キリアンからフイと目線を逸らしたガインの手に、キリアンが自身自身の手を重ねた。
キリアンはガインの手を持ち上げ、その手の甲に口づけを落とした。


「ねぇガイン……ガインはさ……
息を吸ったり吐いたりする毎日の行動に疲労を感じたりする事ある?」


「毎晩のアレと呼吸を同じ土俵に立たせるんじゃねぇよ。」


本心を素のまま答えたキリアンは、苦々しい表情をしたガインに向け「変な事言った?」と言いたげに小首を傾げた。

ガインは、口づけを落とされたままキリアンに持ち上げられていた手を軽く振りほどいて引っ込めると、幽霊塔に目を向けた。


「陛下、ここだけは駄目です。
陛下の御身に何があるか分からない。
賊が潜んでる位ならば、私が陛下をお守りしながら敵を倒す事が出来ますが、剣の効かない悪鬼魍魎の類や霊魂などが襲って来たら私に対処出来るかどうか…。
ですが…どうしても塔を確認せねばとおっしゃるならば……陛下は私が必ずお守り致します!」


真剣な目で語るガインを見たキリアンは、微動だにしなくなった。

今、キリアンの頭の中と心の中は、色んな情報と思考と感情とが錯綜しており、心落ち着ける事が出来ない。


━━ガインって…幽霊とか信じているんだ?カワイ。
意外過ぎて、今まで知らなかったな…カワイ。
あ、もしかして昔、父上とケンヴィーと塔に来た時にガイン居なかったのって怖くて来れなかったの?カワイ。
で、今も怖いけど塔に入るなら頑張って俺を守るって言ってるの?カワイ。

月明かりの下で、キレイなガインのストイックな一面見せといて……オバケ怖いとか可愛い事言って……

一体、俺をどうしたいんだ?
なぁ、なぁ、なぁ、ねぇ、ねぇ、ねぇ!

これ自重、無理じゃない?━━


「ありがとうガイン…とても頼もしいよ。
だが、ここまで来たのだから、やはり塔の中は調べておきたい。」


「はっ!お供致します。」


ガインを見ているだけで情欲が暴走しそうになるが、今はそこを我慢し━━

自身が住まう城の敷地内にある古い塔が気になるのも事実だ。
幼い頃に塔の外観は見たが、中に入る事は無かった。

幽閉する為の場所と言う位なのだから、牢みたいな殺伐とした感じなのか…いや王族を捕らえておくのならば貴賓室の様な造りなのか。


「…………鍵が掛かってない。」


重厚な鉄製の観音開きの塔の扉に手を掛けたキリアンが呟いた。

本来ならば扉の両端に見張りの兵士が立ち、重い扉を開くのだろうが、片側の扉をグンと強く押すだけで扉が動いた。

長く使われてないにしては鉄製の扉はサビついてはおらず、余りにも抵抗なく扉は開かれた。



人の手が加わっている……誰かが潜んでいる可能性がある、そう感じたキリアンが注意を促すようにガインの方を向き目配せすると、ガインは厳めしい表情で呟いた。


「こんなすんなり入れるとは…
ひょっとしたら我々は、霊に誘われているのでしょうか…。」


キリアンはガバっと勢い良く両手で顔を覆ってガインに背を向けて俯いた。


「申し訳ありません、陛下…!
怖がらせるつもりなど無かったのですが…!」


━━危なっ…色んなモノが顔から溢れ出る所だった…!カワイッッッ…!可愛すぎる!━━


それにしても……ガインは幽霊塔の何を恐れているのだろうかとキリアンは疑問を浮かべる。

キリアンの記憶上、この塔に幽閉された者など居ない。

ここ100年位の歴史ではそうだが、さらに前となると記録も無く分からない。

ガインは、記録も残っていない百年以上前にこの塔であった何かを知っているのだろうか。



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