その後、亡国の幼い姫君は━━

DAKUNちょめ

文字の大きさ
1 / 3

あの日、国が滅びた━━

しおりを挟む
石造りの暗く古い地下道の中を、松明の灯りが鬼火のように横に流れてゆく。

長く使われて無かったであろう地下道の壁は所々苔むしており、湿った空気が纏わりつくように充満していた。

重苦しい程の静寂を破る多数の足音が地下道の壁にこだまする。

8人の兵士たちは薄暗い通路の先にある鉄の扉が目に入ると、確認するように松明の灯りを扉に向けた。

「この扉をくぐれば階段があり、中庭にある隠し扉へと続くのだな。」

「ああ、そこはもう王城の敷地内だ。」

「扉を開けてしまえば、門を破らずともいつでも城外の兵を呼べる。」

「待て、錆びを落とさないと扉が開かん…」


兵士達は松明の灯りを頼りに錆び付いた観音開きの扉の間にある錆びをナイフで削り始めた。

ガリガリガリガリと錆びを削る音に掻き消され、兵士達は背後に忍び寄る足音を聞き逃した。

「ひっ…!!」

兵士の一人が、背後から伸びた剣の刃を頬に当てられ上ずった声を上げた。

その声を合図に、他の兵士達が自分達以外の何者かの存在に初めて気付き、振り返って身構えた。

「貴様、何者だ!!」

「名を名乗れ!」

おぼろ月が空に姿を現す様に、暗闇から段々と輪郭を現したのは白銀の鎧を纏う痩身の騎士だった。

白銀の騎士は兵士の頬に当てた剣を引き、静かに声を出す。

「………あの日………
ファルナウス国城内に突然現れた、ガデュリオン帝国の兵士達。

城門が開かれる前に、なぜ城壁の内側に他国の兵士が大勢現れたのか謎だった…。 

よもや国王を衞る近衛兵のお前たちが、王族を脱出させるための隠し通路をガデュリオン帝国の兵士たちに開放していたとはな。」

錆び付いた扉を背にした8人の兵士を追い詰めるように歩み寄る白銀の鎧を纏った騎士が手にした剣を再び構えた。

「お前達の悪行が、あの日この国を滅ぼしたのだ。
王国兵士の風上にも置けぬ。恥を知れ!」

剣を構えた白銀の騎士に対峙した8人の兵士も剣を構え臨戦態勢に入る。

「あの日だと?
今から起こる国の滅亡を、まるで過去のように言うじゃないか。」

「何者か知らんが見られたからには生かしておけん。
殺せ!」

8人の兵士達は一斉に白銀の騎士に攻撃を仕掛けた。

8人の兵士の攻撃を一切歯牙にも掛けず、白銀の騎士は兵士達の剣を全て避け、8本の剣を全て叩き折った。

決してナマクラでは無かったハズの剣の刃が乾いた小枝のようにパキパキと簡単に折られてゆく。

なすすべも無く武器を奪われた兵士達は、その圧倒的な力の差に闘争心が消え失せた。 

━━強い、敵わない!殺される!━━

全ての武器を失った兵士達は地面に尻をつき、錆びた鉄の扉を背に白銀の騎士を見上げて震え出した。

「と、投降する!生命だけは…!」

白銀の騎士は剣を引き、怯える兵士達を見下ろし溜め息をついた。

「……我はお前達の生命を奪うつもりはない。
だが、国賊として裁きを受けて貰うぞ。」







大陸の端にあるファルナウス王国は、小さな国ではあったが平和で豊かな国だった。

この国を治める穏やかな国王には、早世した妃との間に美しい二人の王女がいた。

17歳の第一王女マーガレットと、13歳になったばかりの第二王女アイリス。

異母姉妹であったが二人はとても仲が良く、マーガレットは妹のアイリスを可愛がっていた。

 
ただ二人の関係は母親の地位により複雑で、生母が平民出身の妾妃であったマーガレットには王家の名を継ぐ資格が与えられなかった。

正妃を母に持つアイリスは幼い頃から隣国の第三王子を王配に迎え次代の国王となる将来を約束されており、城では皆に大事に大事にされていた。


それはもう、高価なお人形の如く━━


父王は早くに母を失くした二人を可愛がったが、不遇な立場を憐れに思っての事なのか、父として接するのはマーガレットの方が多く見えた。

時期国王となるアイリスの周りには世話をする者が常にたくさん居り、それを「だから寂しくないだろう」と捉えた国王は、アイリスと会う際には現王として次代の王に接するような話し方をし、父としての言葉を掛ける事はほぼ無かった。

「アイリス王女殿下、陛下からのプレゼントが届いております。」

「……また、お人形……
お父様は、わたくしを知っては下さらないのね。」

父としてアイリスを識らなかった国王は、アイリスの成長をも知らなかった。

いつまでも幼い幼女のような感覚で、お人形や、可愛らしいドレスを贈って来る。

「アイリス、お父様はそれだけアイリスの事を可愛いと思ってらっしゃるのよ。
父親にとって娘とは、いつまでたっても可愛らしくて守りたい存在ですもの。」

あらあら、と不貞腐れ気味なアイリスをなだめるように言う姉のマーガレットの耳には、父から贈られたという美しい宝石の付いたイヤリングが着けられていた。

マーガレットの事を思い考え、選んだ品なのだろう。

マーガレットのピンクブロンドの髪色に映えるアクアブルーの美しい耳飾りだ。

━━わたくしに贈って来たお人形とは大違いだわ━━

アイリスに贈られて来た人形は、高価そうではあるが父王が自ら選んだかも怪しい。

そもそもが、父王が王女二人に何かを贈って来る際にアイリスに贈って来るモノがほぼ毎回お人形なのだ。

「わたくし、本当にお父様に愛されているのかしら…」

姉に相談するように、アイリスが思わず不安を口にする。

優しい姉はアイリスの手を両手で握り、柔らかな笑顔を向けた。

「まぁアイリス、何を言っているの。
貴女は皆から愛されているのよ、お父様からも、わたくしからも…もちろん国民からもね…

でもアイリスが一番愛して欲しいのは、許婚者のカミル王子殿下でしょ?うふふ…」

突然、許婚者の名前を出されたアイリスはボッと顔を真っ赤にして大きく頷くように俯いた。

「おっ、お姉様の意地悪……」

「うふふ…アイリスには素敵な許婚者が居て、羨ましいわ。
本当に…羨ましい。」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

マッチ率100%の二人だが、君は彼女で私は彼だった

naomikoryo
恋愛
【♪♪♪第19回恋愛小説大賞 参加作品♪♪♪ 本編開始しました!!】【♪♪ 毎日、朝5時・昼12時・夕17時 更新予定 ♪♪ 応援、投票よろしくお願いします(^^) ♪♪】 出会いサイトで“理想の異性”を演じた二人。 マッチ率100%の会話は、マッチアプリだけで一か月続いていく。 会ったことも、声を聞いたこともないのに、心だけが先に近づいてしまった。 ――でも、君は彼女で、私は彼だった。 嘘から始まったのに、気持ちだけは嘘じゃなかった。 百貨店の喧騒と休憩室の静けさの中で、すれ違いはやがて現実になる。 “会う”じゃなく、“見つける”恋の行方を、あなたも覗いてみませんか。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

地味な私を捨てた元婚約者にざまぁ返し!私の才能に惚れたハイスペ社長にスカウトされ溺愛されてます

久遠翠
恋愛
「君は、可愛げがない。いつも数字しか見ていないじゃないか」 大手商社に勤める地味なOL・相沢美月は、エリートの婚約者・高遠彰から突然婚約破棄を告げられる。 彼の心変わりと社内での孤立に傷つき、退職を選んだ美月。 しかし、彼らは知らなかった。彼女には、IT業界で“K”という名で知られる伝説的なデータアナリストという、もう一つの顔があったことを。 失意の中、足を運んだ交流会で美月が出会ったのは、急成長中のIT企業「ホライゾン・テクノロジーズ」の若き社長・一条蓮。 彼女が何気なく口にした市場分析の鋭さに衝撃を受けた蓮は、すぐさま彼女を破格の条件でスカウトする。 「君のその目で、俺と未来を見てほしい」──。 蓮の情熱に心を動かされ、新たな一歩を踏み出した美月は、その才能を遺憾なく発揮していく。 地味なOLから、誰もが注目するキャリアウーマンへ。 そして、仕事のパートナーである蓮の、真っ直ぐで誠実な愛情に、凍てついていた心は次第に溶かされていく。 これは、才能というガラスの靴を見出された、一人の女性のシンデレラストーリー。 数字の奥に隠された真実を見抜く彼女が、本当の愛と幸せを掴むまでの、最高にドラマチックな逆転ラブストーリー。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

処理中です...