その後、亡国の幼い姫君は━━

DAKUNちょめ

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あの日出会った、もう一人の私。

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国を裏切り、ガデュリオン国の兵士達をファルナウス国への侵攻に導いた兵士達を捕らえた白銀の騎士は、兵士達を捕縛した状態で隠し通路に置いたまま、人目を避けるようにして一人城内へと入って行った。

恐らく、ガデュリオン国の皇帝をはじめ黒い鎧を身に着けた多くの兵士たちがファルナウス国の兵士達からの合図を待ち、隠し通路の入り口付近と城門近くに身を潜めている。


「…運命のあの日━━
今、我が立っている今日、この城の国王の寝室で━━
ファルナウス国の第二王女であり、王太女であったアイリスはガデュリオン皇帝に拐われた。
そしてガデュリオン国によってファルナウス国は無くなり……
我の祖国も無くなったのだ。」


白銀の騎士は、暗く静かな城内を誰にも見つかる事無く歩いて行く。

本来ならば、今現在の城内は侵攻して来たガデュリオン国の兵士とファルナウス国の兵士とで既に騒然としており、王女アイリスは父王の身を案じて父の部屋へと向かっている位の時間であったろうか。


白銀の騎士は、アイリス王女の部屋に着くと一度だけ軽く扉をノックし、返事を待たずに部屋に入った。


「帰った。」


部屋の中で椅子に腰掛け夜空を眺めていた王女アイリスは、部屋に白銀の騎士が入って来ると椅子から立ち上がり軽く頭を下げた。


「おかえりなさいませ。
城内の様子はいかがでしたか?」


「何事も無く静かなものだ。
城内にガデュリオン国の兵士を招き入れようとしていた兵士達は我が捕らえたからな。」


「そうですか…では、あなた様が危惧していた、この国が亡国となる未来は回避出来たのですね。

…ですが…肝心な事をお忘れでは…?」


王女アイリスは少し困ったような表情をし、白銀の騎士の方を見た。


アイリスの言葉が聞こえなかったのか、何も反応を返さずに白銀の騎士は痩躯の騎士の変身を解き、その姿を元の姿に戻した。

王女アイリスの姿に━━


「身代わり、ありがとう。ヤハール。」


「いえ、これが僕の特技であり仕事ですから。」


同じく部屋に居た王女アイリスが変身を解き、ネグリジェを着た一人の少年の姿になった。

背格好がアイリスと同じ位の小柄な少年は、ついたての向こう側に行き、そそくさと衣服を着替え始める。


「ごめんなさいね、ヤハール。
私のネグリジェを着せちゃったりして。」


「僕は姫様の従者であり影武者でもありますから、気になさらずに。
まぁ…姫様が白銀騎士になる時のように、衣服もまとめて変化出来たら楽なんですけどね。」


従者の衣服に着替えた少年はアイリスの元に行き、少しソワソワとしているアイリスを見て額に手を当て溜め息をついた。


「…もしかしなくても姫様…
ガデュリオン皇帝陛下が城に来るのを待ってますよね…」


「えっ…ええっ…?えー?…だ、だって…」


アイリスは段々と頬を赤らめていき、モジモジと指先を合わせてこね、押し隠せない感情に思わず声を弾ませた。


「旦那様が!私の推しにして最愛の旦那様が!
私を略奪に来るのが楽しみで待ちきれなくて…
早く会いたくて我慢出来ないとか!
そんな事ッ…べ、別に無いわよ!?」


嬉しさを隠し切れてないアイリスに対し、ヤハールはげんなりした表情を隠しもせずに再び深い溜め息をつき言葉を返した。


「やはり肝心な事を忘れてますよねぇ…。
嬉しさを隠し切れてないトコ申し訳ないんですけど、ガデュリオン皇帝陛下が姫様を略奪に来るとか無いですからね。

だって姫様、そのきっかけを自分で潰しましたもん。」


ヤハールの言葉に、はた…と自分がしでかした事にやっと気付いたアイリスは、嬉々としていた表情をみるみる青ざめさせていった。


「ッッそっ…!そう言えば、私!
ガデュリオンの兵士の侵攻を助ける奴らを縛り上げて来ちゃった!」


「約束の時間に内通者の兵士が現れない、そんな状態では計画がファルナウス側にバレたのだろうって警戒して侵攻なんてしてきやしませんよ。
って言うかガデュリオン陛下に拐われたいなら、ファルナウスには今日、滅んでもらうべきだったでしょ?」


「分かっていたなら、なんで止めてくれなかったのよ!」


「止めましたよ?
無血開城と聞いてましたから、ほっときましょうて。
耳に入ってなかったみたいですが。」


「だって何の前触れも無く、いきなりファルナウス国滅亡5日前に飛ばされて混乱しちゃったんですもの!
そしたら今日、どうやって旦那様たちが城に入って来たとか、どうやって国が無くなったのか気になって!」





今日より5日前の晩━━

王女アイリスと従者の少年ヤハールは、5年後の未来から突然、不思議な力によってこの地に降り立たされた。

18歳の誕生日が目前であった王女アイリスは当時の幼い自身の中に、未来を生きた記憶を持った意識が重なり入った。

ヤハールは当時この場には居なかったが、どういう理屈からかアイリスに付き従うようにして、5年前の幼い姿でこの地に降り立った。


二人は不思議な力により、ガデュリオン帝国侵攻によるファルナウス王城陥落の日より5日前の晩のアイリスのベッドの上に降り立った。

二人は自分達がどこに居るかも分からず、しばしベッドの上で互いの幼くなった姿を見たまま茫然とした。


「ひ、姫様…?…姿が幼く…子どもに…?」


「…ヤハールちっさ…その姿、懐かしい…え、待って!
私この場所に見覚えがある!…ここは…

そうここ!ファルナウス城の私の部屋だわ!
だったら確かこの場所に……」


アイリスはベッドから降り、記憶を頼りに自身の部屋の机に向かうと引き出しを開け、日記帳を取り出して一番新しい日付けを確認した。


「なんてこと!今日は、ガデュリオン国がファルナウス城を急襲する日の5日前だわ!
あぁ!なんてこと!
私の5年分育った豊満ボディがツルペタに!」


「姫様、都合良く記憶を改ざんしないでください。
18歳が目前だった姫様も、ツルペタと大差無かったハズです。
そんな事より…僕たちは5年前のファルナウスに居るって事ですか?」


アイリスは「あぁ!?」と一瞬、ゴロツキのような悪態をつくが、すぐに冷静になった。


「確かに今はそれどころでは無いわね…
私たちは、ついさっきまで、何者かの手によって滅びゆくガデュリオン帝国の城にいた…。」


「ええ…陛下はあの混乱の中、生きろとだけおっしゃって姫様と従者の僕を逃がして下さいました。

が、この場が本当に5年前の世界であるなら、僕たちで情報を集め敵を知れば、ガデュリオン国を救う事も出来るかも知れない。

て言うか、僕たちはどうやって過去に来たのですかね。」


「分からないわ…分からないけど、もしかしたら旦那様が最後にくれた、この『守護と希望の指輪』の力かも」


アイリスの指に嵌められた指輪を、アイリスとヤハールが食い入るように見た。


ガデュリオン皇帝が別れの際に御守りとしてアイリスに託した国宝の『守護と希望の指輪』だが、不思議な力を持つとは言われているものの、この指輪の持つ力について誰も知る者はいなかった。

古い書物などにも効力や逸話などの記載も無く、守護だの希望だの耳ざわりの良い単語を使った名称でさえ、ただの箔付けだとも思われていたのだ。


「まさか、時を遡る力を持つなんて驚きですよね…。
恐らく陛下も知らなかったでしょうけど。」


月明かりを受け輝く指輪を見ながら、アイリスがポツリと呟いた。


「時を越えて過去に来たのが『希望』だとしたら、守護って何なのかしらね。

確かに過去に飛ばされたお陰で生命は守られたけど…。
この指輪を嵌めていたら、防御力が爆上がりして、どんな危険も回避出来るとか…うふふ…

なんて━━

そのように都合の良い、可笑しな思考を持つとは…我らしくも無い。
…フフフ………って、なんだこれは!!」


アイリスは、不意に自身の声が低くなり、自身の目線の高さや全身を覆う強張った感覚に強い違和感を覚え、思わず声を上げた。


「………あ、やっと気付きました?
姫様が話してて「なんて━━」の辺りからぶわーって。
ぶわーってモヤみたいなのが出て、なんかいきなり、その姿になりましたよ。
声まで変わって…と言うか話し方まで変わって。」


「その姿だと!?…わっ…!我は今、どの様な姿に…!?」


「僕の説明を聞くより、ご自身で姿を見られては?」


アイリスは慌ててベッドを降り、ガシャガシャ音を鳴らしながら姿見の鏡の前に行き、全身を鏡に映した。

そこに映し出された長身痩躯の騎士の姿に思わず息を飲む。

暗い部屋でも月明かりを取り込み、まばゆく光る白銀の鎧には、金と青の紋様が刻まれ、腰の辺りからは縁に金の刺繍が施された青い布が下がる。

顔を覆うヘルムからは長い銀の髪が流れ出ており、アイリスは恐る恐ると顔を覆うバイザー部位を上げてみた。

鏡に映る、どこかアイリスの面影を残す見知らぬ顔は、青い瞳に銀色の髪をした美しい青年だった。


━━なにこれ、カッコいい!これ私!?━━


「なんと端正なる顔立ち!これが我の姿か!」


「みたいですね。
それじゃビックリも一段落ついた所で、今後について話し合いますよ。姫様。」


驚きの事象も、あまりにも数が重なり過ぎて逆に冷静になったヤハールは、ベッドから降りて椅子に座った。


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