俺が恋したオッサンは、元ヒロインの皇子様。

DAKUNちょめ

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25・神鷹真弓目線での付き合い方。

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本日昼間にあった事。
ちゃぶ台に手をついて立ち上がろうとしたランが、足が痺れたらしく派手にぶっ倒れそうになった。
慌てた俺がランの身体を掬い上げるため手を伸ばし、俺に寄り掛からせるように腕の内側に抱き込んだ。

平均的な成人男性の体躯よりも大柄な俺の体の内側に、小さなランはすっぽりと収まってしまう。
ランはそれが不満だと、将来自分が俺を抱きしめるのだと、俺の腕の中でボヤいたので、思わず笑ってしまった。



ランは5年生で、10歳と言っていたか。
俺が背負わなくなってから早20年も経つ、ランドセルを背負って学校に通う現役の小学生だ。

わんぱくな少年と言うに相応しく、好奇心旺盛で行動力があり、自身の好きな物や興味をそそられた物はとことん追い続ける。

父親の影響で特撮ヒーローが好きなランは、1年生の時に見た古い作品の中の登場人物に、今尚ご執心だそうだ。

天空仮面騎士メタトロンの主人公ラファエル皇子。
の、主人公本人ではなく………
その少年時代を演じていた子役の神鷹真弓に一目惚れしたらしい。
要するに、20年前の俺なんだが。


12歳の可愛らしい少年だって、そりゃ二十年も経ちゃイイ歳のオッサンになる。
ハーフである俺の場合は特に、軍人をしているアメリカ人の父親の血を引いているせいで、ガタイはデカめだし色素の薄い体毛には覆われているし。
目が弱くてサングラスも外せないから、世間一般的な俺の印象は、悪人面のコワモテのオッサンだ。
日本人の中年男性の俳優の様に、シュッとしたナイスミドルにはなり得ない。

そうとは知らずに、可愛くて綺麗だからと一目惚れした少年に会いに来たランは、コワモテのオッサンと恐怖の邂逅を果たした。
余りにも風貌の変わった俺に、最初はぶっ倒れるほど相当なショックを受けていたランだったが、なぜか懲りずにまた会いに来た。
で、会話を重ねる内に何だか懐かれてしまった。

無愛想さも相まって、いつも周りから「怖い人」だと距離を置かれていたので、子どもが懐いてくれるなんて珍しくて新鮮だったし、悪い気はしなかった。

息子みたいな…と言うよりは、歳の離れた弟みたいに感じていたと思う。
しっかりしている様で、時々抜けた発言をする幼さが残るランって少年は、分かっているのか、いないのか…冗談とも取れるような突拍子もない事を時折口にする。

ウケを狙った面白い言動をしているつもりなんだろうか。

「結婚しよ」だとか「俺が真弓ので、真弓が俺のモノ」だとか……
男が女を口説くような歯の浮く台詞を俺に投げかけてくる。

アイツからの好意は素直に嬉しいと感じる。
だから、アイツが俺に向けた「大好き」の表現は、多少度が過ぎていても悪い気はしない。

ただ…いちいち真に受ける必要は無いんだが、俺が無防備な状態の時に投げかけてくる、愛の告白にも似た「好き」の表現は、破壊力が半端ない。
ここ数年、好意を向けられる事に縁が無くなった俺は、好意を寄せられる事に免疫力が低下している。

よって、ランが軽く口に出来るのだろう「好き」に、俺は過剰に反応してしまう。
その反応を面白がっているのかも知れない。

好奇心旺盛で、行動力がある成長過程にある子どもなんだ。
だから好きな物や興味のある事は、とことん追い続ける。

色々な物に興味を持ち、好きになり、見識を広げて将来の糧にすべきだ。
アイツが興味を持った、その好きな物の一部に自分も入っている。
その程度だと思っていた。



それが………
恋人になりたい、キスをしたい位に好きって……何なんだ?


いや、好意を隠さないアイツから好かれているのは分かっていた。

だがそれは……

特撮好きーメタトロン好きーラファエル皇子好きー
だから遊んでくれる神鷹真弓ってオジサンが好きー

的なモンだと思っていた。

元々が若気の至り(小学5年生に、この表現はどうかとも思うが)とは言え、小学1年生時にラファエル皇子と結婚したいなんて思っていたと言う位なのだから…。
初恋が尾を引いている状態なのかも知れない。

だからと言って、知り合って間もない中年男と恋人になりたい?キスしたい??
何かをものすごく間違って覚えてるんじゃなかろうか。

何にせよ年端も行かぬ少年にそんな考えを抱かせたままでいるのは、彼の健全なる成長の妨げになり、情操教育的によろしくないのでは無かろうか。


だが俺には、そんな感情を俺に持ち始めたランを、俺ともう会うべきではないと突き放す覚悟が出来なかった。

アイツに懐かれている事が心地良いと思っている自分がいるのを否めない。

アイツを突き放して傷付ける事で、俺自身も辛い思いをする覚悟が無い。



だから俺は、アイツの気持ちに寄り添うフリをして狡い方法を選んだ。

アイツを俺の方から突き放す事はせず、かと言って今すぐ恋人らしい関係を結ぶ事も無い。

まだ子どものアイツに、もう少し成長するまでと理由をつけた「待て」をさせるために、5年近くも先となる遠い場所にゴールを作った。



「………中学卒業ねぇ。
5年なんて大人にとっちゃ早く感じるが、子どもには長く感じる年数だ。」


学年が変わり、学校が変わり、別れもあれば、新たな出会いと新たな交流も増えたりと、生活環境も変化しながら目まぐるしく日々は過ぎて行く。
なのに、早く大人になりたいと願う子どもにとって、そこまでの道のりは遠く長く感じるものだ。




9月とは言えど、まだ暑い日が続く。
だが日が落ちて夜を迎えれば、真夏に比べて少しばかり肌寒さを感じるようになった。

俺は部屋の明かりを消して着流し姿で縁側に座り、月明かりの下で煙草を吸った。
シン……と静まり返る寝室を背にして煙をくゆらせながら、数時間前まで共に居たランの事を思い出す。


━━ウチって、こんなに寒々しく感じる様な家だったっけ━━


良く言えば賑やか、悪く言えば騒がしい。
どちらの表現もアイツには当て嵌まる。
やかましい、煩わしい、そう思いながらもそれを楽しむ気持ちも確かに在る。


トンと指先で煙草の灰を地面に落とし、俺は大窓の枠に寄り掛かって月を見上げ、ハァっと大きな溜め息をついた。



「ズカズカと上がり込んで来やがって…。
距離感ってモンを無視し過ぎだ。」



子どもの感じる5年は長い。
それまでに、新しい出会いも新たな「好き」も増えていく事だろう。
そうしていつか、俺の事を「好き」なのは過去の話になってゆくだろう。
アイツには大きく拓けた未来がある。
俺との出会いは、ランにとって通過点の一つに過ぎない。


狡い考えかも知れないが突き放す事が出来ない俺は、ランが自ら俺に興味を無くして離れて行く日を待つ事にした。


「アイツ、モテそうだしな。
中学生にもなりゃ、彼女もすぐ出来てしまうだろう。」









9月20日。

真弓と恋人同士になれたこの幸せな日を、俺の大事な記念日とする事にした。


ぁあ!夏休み前に真弓と出逢っていたら、一緒に海水浴とか行けたかも知れないのに!


もっと早く知り合えていて、真弓がお父さんとも友人として仲良くなっていたら、一日くらいなら真弓の家にお泊りするのだって許してくれたりしたんじゃないだろうか。

いや、それは甘い考えだ。
小学生の内は、保護者無しの外泊は許可出来ないと言っていた。
……ん?…真弓が保護者みたいなモンではなかろうか。


とは言え、お父さん達に真弓と俺との熱愛ぶりを知られるかも知れないし、泊まりに行きたいなんて言うのは危険だ。



「ニヤニヤしているわね。
走が神鷹さんと一緒に作ったアップルパイ美味しいでしょ
持って来てくれた時は、まだ焼き立てで温かくてねー。
絶品だったわよ!」



「うん、最高に美味い……」



真弓の家から帰った俺は、夕食後のデザートにアップルパイを食べながら、真弓との色々を考えていた。

アップルパイ、今度は真弓と向かい合って食べたい。
昨日のデートの時みたいに、互いに「あーん」とか食べさせ合ったり。

イチゴのケーキとか……
イチゴをフォークに刺して俺に食べさせてくれる真弓とか、何かいいかも………?ん?イチゴ?


俺は、アップルパイを食べ終えた皿と入れ替わるように、目の前に置かれたショートケーキを無言で眺めた。



「え?なんで?」



「アップルパイが美味しくて、スイーツ舌になっちゃって。
追いスイーツしたくなって買って来ちゃった。」



「えー……お父さんは?」



「クリスマスや誕生日でもないのに、ショートケーキは重いって食べてくれなかったの。」



俺もお父さんも甘いモノが嫌いなワケじゃないんだけど、年がら年中ケーキ食べても平気そうな、お母さんに付き合うとか無理なんだよな。
しかも夕食後に、アップルパイ、ショートケーキって流れはキツイ。



「誕生日でもないのに……か。」



誕生日………真弓の誕生日って、いつなんだろう?
恋人の誕生日を知らないって、駄目じゃん!
恋人、失格だよ!

いつが誕生日か聞いて、何か……何か素敵な何かを!!
とにかく何か用意しなくちゃ!



お母さんに愚痴を言われる前に、少し無理してショートケーキを口に押し込んだ。口の中が甘ったるい。

すぐにリビングを離れ自室に向かう。
部屋に帰って、すぐスマホを開いて真弓にメッセージを打ち始めた。



真弓、今日はありがとう!
俺、最高にうれしかった!!
次はいつ会える?

あ、真弓の誕生日っていつ?
お祝いしたいな━━━━



真弓は携帯を近くに置いてないかも知れない。
返事だって、すぐ来るとは限らな…………あ、返事来た。



━━━━九月二十日



━━━━あ、今日だ



「ちょっっ!!!真弓ぃい!!なんで忘れてんの!」



俺はショックのあまり、ベッドにボフッと倒れてしまった。

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