俺が恋したオッサンは、元ヒロインの皇子様。

DAKUNちょめ

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43・幸せ満タン月曜日。

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帰宅した頃にはすっかり暗くなっていたが、真弓がお父さんに小まめに連絡をしていた様で心配はされてなかった。
真弓は玄関先で俺を出迎えたお父さんと挨拶を交わし、お母さんにお土産を渡していた。
甘いモノに目がないお母さんは大喜びだ。

真弓って…ちゃんとした大人なんだなと改めて思う。


「ほら走、神鷹さんにちゃんとお礼言って。」


お父さんに促され、真弓の前に姿勢正しく立った俺は、ビシッと腰を曲げ姿勢正しく礼をした。


「神鷹さん、今日は遊んでくれて、ありがとうございました!
また遊んで下さい!」


両親の前の今の俺は、大人の神鷹おじさんに遊んで貰った小学生のガキンチョだ。
俺がそういうポーズを取っている事を知っている真弓は面白い物を見たみたいにフッと含み笑いをし、俺の頭にポンと手を置いた。


「俺も楽しかった。また遊びに行こうな。」


━━うん!毎日でも!!!━━


口から飛び出しそうだった返事を堪え、コクコク頷いた。

バイクに跨り、走り去って行く真弓の後ろ姿に手を振り続ける。
今日という日は、何て素晴らしい一日だったのだろう。

5年も先だけど真弓とキスする約束が、日時と場所が決まった事によってより明確になり、近い未来のような気さえしてきた。

今はまだ、そんな約束は未確定の未来だと逃げ腰な感じの真弓。
その日が来るまで何度もデートを重ねて、真弓本人も俺とのキスを素直に受け入れてくれる…そんな関係になっておきたい。


「次は、どこでデートすんだろ…。
真弓のお家でデートでも全然いいんだけどな。
その方が真弓といちゃいちゃ出来そう。」


夜、ベッドに入り真弓と「お休み」メッセージをやり取りした後に重大な過ちに気付いた。

俺、今日のステキ真弓の写真を一枚も撮ってない!!

デートは最高だったけど、失敗したぁ…。

明日の日曜日も会えたら良かったのに…明日は真弓が仕事だそうだ。

仕方がない!気持ちを切り替えて…



次こそは、ステキな真弓の新しい写真をたくさん撮る!









ランと別れて帰宅した俺は、バイクを縁側近くの軒下に置き家に入った。

祖父の家だった古めの日本家屋は、電気も点けずに入ると現代家屋よりも静寂を感じる気がする。

寒々しさも感じるが、そういった空間は嫌いじゃない。
元々、賑やかな雰囲気が余り好きではない俺なのだが…ランと会ってから賑やかな時間が増えた。
ランと居る時に限ってだが、それを楽しく思える自分も居る。


「……キスねぇ……マジか……忘れてたわ。」


元ファンの幼い子どもと仲良くなった。
その子どもに、他の誰かとよりも仲良くなって欲しいと言われて、俺の中ではヤツとの関係を年の離れた一番の親友だと位置付けしていた。
ランから言われた恋人って関係は、親友を言い替えた言葉だけのモンだとどこかで軽く受け流してしまっていた。


夜になりスマホにて寝る前のランと短いメッセージをやり取りした後、着流し姿の俺は寝室の電気を点けて大窓を開き、縁側に腰を下ろしてタバコを咥えた。
ライターで火を着け一服しながら、フゥーと煙を吐く。


「いや…ヤツが本気だって、分かっていたハズなんだ。
だからこそ恋人って関係を求められた時に、断われなかったんだし…。」


この間の友人とのケンカを止めた後だって、ランは俺と別れたくないと必死だった。

俺はランの押しの強さに流され、ランの恋人って関係を受け入れはしたが、それは親友を恋人って呼び方に変換しただけだと思っていた。

いや違うな。
大人の事情で、そう思い込もうとしている。

今の俺は、ランの本気にどう向き合って良いか分からなくなっている。
時間が経てば、熱も冷めてランの方から離れていくだろうから、それまで恋人のフリをしていてやろうと思う反面
ランの恋の行く末を見届けたいとも思う。


そうなるには、俺もランの気持ちの全てを受け入れる事が前提となるのだが………


「……キスねぇ……マジか……忘れてたわ。」


いや、なんでさっきと同じ言葉を呟いてんだ俺。


フゥーっと煙を吐き出し、短くなったタバコを灰皿に押して消す。
そして灰皿の隣に置いたタバコの箱に手を伸ばし、数本残っているタバコの箱をクシャッと握り潰した。


「タバコは子どもの成長を妨げると聞いたしな。
早く大きくなりたいってランにも良くねぇし……
それに万が一…だ。
万が一、ランが5年後も俺を好きなままでいて、キスしたいなんて言った時に……タバコ臭いのはな…。」


ランが5年間俺を好きなままでいたとして、俺とのキスとやらを我慢出来ると言うならば
俺もタバコくらい、我慢してやる。

ランの気持ちが俺から離れる日までな。


俺は潰したタバコの箱をゴミ箱に捨て、布団に入った。









「おっはよー!!金森ぃ!!」


校門の前で、ダルそうに歩く金森の後ろ姿を見つけ、ランドセルに手を掛けて力任せに思い切り下に引っ張った。

不意に重心が後ろに傾き、無防備だった金森は後ろに倒れそうになり、俺は慌てて金森の身体を支えた。

倒れ掛けた身体を支えられ、態勢を戻した金森が青筋立てる位の表情で振り返る。


「ッッ何しやがんだ!!
ぶん殴るぞ!てめぇ!」


「ご、ごめん、ちょっと…図に乗った。」


金森をめちゃくちゃ怒らせてしまった。
そりゃそうだよな、俺のせいで後ろにぶっ倒れかけたんだもん。
俺が同じ事を金森にされたら、俺もぶん殴りたくなってる。

皆が気だるげな月曜日、朝からテンションがバカ高い俺に、金森が怒る気力を削がれた様にしばし無言になった。


「…………朝っぱらからウゼェ奴。」


ボソッと言って、金森は『お返しだ』とばかりに俺のランドセルをボスッと殴った。

俺は前につんのめったが、金森がこれで『おあいこ』って事にしてくれたのだと思い、文句は出なかった。

むしろ、ずっとニヤニヤが止まらない。


「………朝っぱらからウゼェ上にキモい奴。」


俺に対する金森のディスりがグレードアップした。

それでも、一昨日のデートで真弓パワーを心身共に充電し、昨日は一日まったりしながらカッコ可愛い真弓の姿を思い出して幸せモード全開な今日の俺は、とても寛大だ。

そう俺の心は今、真弓と一緒に行った海の様に大きく広く、穏やかに凪いでいる。


「…いやぁ、土日があまりにも充実した一日だったもんでさ。
将来の夢に一歩近付いた気がするとゆーか。」


俺と金森は並んで学校の玄関に行き、靴を履き替えながら話を続けた。


「御剣って、土日辺りはオッサンと少林寺の修行してるんだったっけ?
なんだ、将来は師範にでもなりてぇの?」


俺って、今そんな風に思われてたんだっけ。

なんか彼女が居るのを追及された結果そんなんになっていたような……ま、いいか。


「まぁ、そんなモンかな。」


下手に興味持たれて、クラスの誰かに真弓とのデートについて来られても困るしな。
ちょっと気をつけよ…余り浮かれないようにしないと。

真弓が俺の特別な人だとバレたら困るもんな。

特に………アイツとかな。


俺は、玄関から教室に入るまで、ずっと拳の視線を感じていた。

金森も気付いていたみたいだが、拳を嫌いだと俺にハッキリと言った金森は、拳に対して『近付いたら殴る』みたいな空気を出している。

だもんで、拳は金森と居る俺に近付く事が出来ないし、拳から話しかけて来なければ俺は自ら拳に話しかけるつもりはないし。

結局、拳は孤立したみたいな感じになってしまっている。

自分で友達を無くす様な事をしたんだから、拳の場合は自業自得だと思う。

しばらく反省してろって感じだ。



席に着いて机にペンケースを出し、そこに付けた鷹のキーホルダーを眺める。

あ、駄目だ…真弓を思い出してしまう。
顔がニヤけるのが止まらないんだけど!!

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