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プロローグ
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その日は雨が降っていた。
急がなければ最終電車が行ってしまう...そのとき、踞っている人が目に入る。
(どうして誰も声をかけないの?)
「あの、大丈夫ですか?」
「うっ...」
受け答えが難しいほど弱っているらしい。
勿論、ここで何もしないことだってできるだろう。
けれど、私にはそれができなかった。
そうしたくないのだと体が拒絶している。
「少し待っててください、病院に連れていきますから」
そう言って一旦離れようとすると、ぐいっと袖を掴まれる。
「...ないで」
「え?」
「置いて、いかないで...」
この人を放っておけないのは、昔の自分を見ているようだからだ。
『助けて』と叫んでも誰も振り向いてくれなかった、苦しかったときのことを思い出すから。
【君の優しさで救われる人もいるはずだ】
昔、誰かにかけられた言葉。
全く思い出せない出来事に執着するのはよくないのかもしれない。
それでも、そんなふうになりたいと思わなかった日は一日もない。
「分かりました。それじゃあタクシーに乗りましょう」
綺麗な茶色の髪が揺れて、なんだか緊張してしまう。
「すみません、涙池マンションまでお願いします」
なんとかタクシーを使って辿り着いたのは...自宅。
知らない人を家にあげるのは少し怖いけれど、そんなことも行っていられない。
「ここで寝てて」
その人は体が吃驚するほど軽く、ご飯を食べていないんじゃないかというくらい細かった。
「熱があるみたいだから、そのままでいて」
「...あれ?僕、は、」
「いいから動かないで」
シャツのボタンを上ふたつだけ外したり、泥だらけになっていた顔を拭いたり...。
そうこうしているうちによくなってきたらしい。
「はい。これで休んだらよくなるはずだから...」
「僕とは、関わらない方がいい」
いきなり何を言い出すのだ、この人は。
「具合が悪い人を放っておけません」
「助けてくれて、ありがとう。だけど...僕とは関わらない方がいいよ。
...半分とはいえ、人間じゃないから」
人間じゃ、ない?
このときは、きっと熱で魘されているせいだと思っていた。
けれどこの後、その言葉の意味を知ることになる。
──翌朝目を開けると、そこには豪華な朝食ができあがっていた。
「あ、えっと...ごめんなさい、冷蔵庫のものを勝手に使いました」
「それは構わないけど、体調はもう大丈夫なんですか?」
「大丈夫、です。...迷惑をおかけしました。
これは、お詫びというか、その...」
「それじゃあ、一緒に食べましょう」
「ありがとう、ございます...」
そのとき、すっと手首を掴まれる。
「あの...?」
「ごめ、なさ...っ、もう、我慢できない...!」
「え?」
ずぷっと音がして、指先に牙が喰いこむ。
「い、痛っ...」
「...あれ?僕、また...?」
その人の唇には血がついていて...それは私のもので間違いなかった。
「信じてもらえないかもしれないけど、僕...ヴァンパイアと人間のハーフなんです。
人の血を吸わないように気をつけていたんですけど...ごめんなさい!」
涙目で謝られて、赦さないとは言えない。
それに、困っているのなら...私はその一心で淡々と告げた。
「赦しません。...連絡先の交換と、限界がくるまでに私のところにくるなら赦しますけど」
「君は、僕が怖くないの?」
「全然。...我慢しすぎで自分を弱らせてしまうヴァンパイアなんて、怖いわけないでしょう?
私は大丈夫だから、限界が近くなったらここにきて」
そういえば、名乗っていなかったと思い出す。
私のことを話すと、向こうは木葉と名前を教えてくれた。
「よろしく、木葉」
「こちらこそ、えっと...七海」
──そんな出会いから2ヶ月。
私たちは恋人という関係になっていた。
急がなければ最終電車が行ってしまう...そのとき、踞っている人が目に入る。
(どうして誰も声をかけないの?)
「あの、大丈夫ですか?」
「うっ...」
受け答えが難しいほど弱っているらしい。
勿論、ここで何もしないことだってできるだろう。
けれど、私にはそれができなかった。
そうしたくないのだと体が拒絶している。
「少し待っててください、病院に連れていきますから」
そう言って一旦離れようとすると、ぐいっと袖を掴まれる。
「...ないで」
「え?」
「置いて、いかないで...」
この人を放っておけないのは、昔の自分を見ているようだからだ。
『助けて』と叫んでも誰も振り向いてくれなかった、苦しかったときのことを思い出すから。
【君の優しさで救われる人もいるはずだ】
昔、誰かにかけられた言葉。
全く思い出せない出来事に執着するのはよくないのかもしれない。
それでも、そんなふうになりたいと思わなかった日は一日もない。
「分かりました。それじゃあタクシーに乗りましょう」
綺麗な茶色の髪が揺れて、なんだか緊張してしまう。
「すみません、涙池マンションまでお願いします」
なんとかタクシーを使って辿り着いたのは...自宅。
知らない人を家にあげるのは少し怖いけれど、そんなことも行っていられない。
「ここで寝てて」
その人は体が吃驚するほど軽く、ご飯を食べていないんじゃないかというくらい細かった。
「熱があるみたいだから、そのままでいて」
「...あれ?僕、は、」
「いいから動かないで」
シャツのボタンを上ふたつだけ外したり、泥だらけになっていた顔を拭いたり...。
そうこうしているうちによくなってきたらしい。
「はい。これで休んだらよくなるはずだから...」
「僕とは、関わらない方がいい」
いきなり何を言い出すのだ、この人は。
「具合が悪い人を放っておけません」
「助けてくれて、ありがとう。だけど...僕とは関わらない方がいいよ。
...半分とはいえ、人間じゃないから」
人間じゃ、ない?
このときは、きっと熱で魘されているせいだと思っていた。
けれどこの後、その言葉の意味を知ることになる。
──翌朝目を開けると、そこには豪華な朝食ができあがっていた。
「あ、えっと...ごめんなさい、冷蔵庫のものを勝手に使いました」
「それは構わないけど、体調はもう大丈夫なんですか?」
「大丈夫、です。...迷惑をおかけしました。
これは、お詫びというか、その...」
「それじゃあ、一緒に食べましょう」
「ありがとう、ございます...」
そのとき、すっと手首を掴まれる。
「あの...?」
「ごめ、なさ...っ、もう、我慢できない...!」
「え?」
ずぷっと音がして、指先に牙が喰いこむ。
「い、痛っ...」
「...あれ?僕、また...?」
その人の唇には血がついていて...それは私のもので間違いなかった。
「信じてもらえないかもしれないけど、僕...ヴァンパイアと人間のハーフなんです。
人の血を吸わないように気をつけていたんですけど...ごめんなさい!」
涙目で謝られて、赦さないとは言えない。
それに、困っているのなら...私はその一心で淡々と告げた。
「赦しません。...連絡先の交換と、限界がくるまでに私のところにくるなら赦しますけど」
「君は、僕が怖くないの?」
「全然。...我慢しすぎで自分を弱らせてしまうヴァンパイアなんて、怖いわけないでしょう?
私は大丈夫だから、限界が近くなったらここにきて」
そういえば、名乗っていなかったと思い出す。
私のことを話すと、向こうは木葉と名前を教えてくれた。
「よろしく、木葉」
「こちらこそ、えっと...七海」
──そんな出会いから2ヶ月。
私たちは恋人という関係になっていた。
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