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日常篇
大切なもの
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『留め具、外れそうになってる』
「壊したらラッシュさんに怒られる...!」
ラッシュさんのミシンは本当に古く、少し触れるにも気をつけなければならない。
...昔からそうだった。
『木葉』
「どうかした?」
『そのミシン、とても大切にされているものなんだね』
「僕もそう思う」
ビデオ通話ができるなんて、かなり便利な時代になったと若いながらに感じる。
それにしても、七海はミシンのことを馬鹿にしないのか...。
「七海はこのミシンを見てどう思った?」
『まだ使えるってことは、宝物なんだろうなって思った』
「...そっか」
大抵の人間なら、買い替えれば楽だとか古くさいとか、下手をすればこれがミシンだということにも気づかないかもしれない。
だが、彼女は絶対に人が大切にしているものを見下すような発言はしないのだ。
そもそも、そんな発言をしたところを見たことがない。
どんなに他人からがらくたに見えても、その人にとっては大切なものなのだからといつも笑っている。
「眠くなったら寝ていいからね」
『...うん。ありがとう』
「これ、もう少しで直りそうだよ」
金具の取り替えだけでは終わりそうになく、今夜中に仕上げるのは不可能だと思っていたが...このペースなら大丈夫そうだ。
「...おやすみ」
声が聞こえてこなくなった画面に目をやると、ぐっすり眠っている七海が映っていた。
そう声をかけて電話を切る。
そしてそのまま、ある場所へと向かった。
「よう、木葉。もしかして、俺の相棒が直ったのか?」
「うん。なんとかできたんだけど...」
「ありがとよ」
ラッシュさんは本当に嬉しそうにしているが、僕にはどうしても訊きたいことがあった。
「...ねえ、ラッシュさん」
「どうした?」
「アイリーンって誰?」
「おまえ、どうしてその名前を...」
「ミシンに刻まれていたから。ラッシュさんの大切な人?」
ラッシュさんは困ったような表情を浮かべたものの、小さく首を縦にふる。
「...もうあいつが死んで100年以上たつけど、約束したんだ。
生まれ変わったあいつを見つけて、口説き落とすって。...馬鹿らしいと思うか?」
純血種ならではの悩みだ。
(...ん?死んだ?)
「アイリーンさんは人間だったの?」
「おう。でも、俺たちには子どもはいなかった。
だから、おまえさんと同じタイプの奴は見たことがない」
僕の頭を少し乱暴に撫でる手を掴み、そのまま握りしめる。
「...ラッシュさんが嫌じゃなかったら、その人の話を聞きたいな」
「面白いことはないぞ?」
「ただ知りたいんだ。...ラッシュさんが愛した人のことを」
「分かったよ。その代わり朝までつきあえ」
「勿論だよ」
純血種にはそういう過酷な運命が突きつけられる。
そして、こういう話を聞いたとき決まって考えてしまうのだ。
──それなら、半分の僕はどうなってしまうのだろうと。
「壊したらラッシュさんに怒られる...!」
ラッシュさんのミシンは本当に古く、少し触れるにも気をつけなければならない。
...昔からそうだった。
『木葉』
「どうかした?」
『そのミシン、とても大切にされているものなんだね』
「僕もそう思う」
ビデオ通話ができるなんて、かなり便利な時代になったと若いながらに感じる。
それにしても、七海はミシンのことを馬鹿にしないのか...。
「七海はこのミシンを見てどう思った?」
『まだ使えるってことは、宝物なんだろうなって思った』
「...そっか」
大抵の人間なら、買い替えれば楽だとか古くさいとか、下手をすればこれがミシンだということにも気づかないかもしれない。
だが、彼女は絶対に人が大切にしているものを見下すような発言はしないのだ。
そもそも、そんな発言をしたところを見たことがない。
どんなに他人からがらくたに見えても、その人にとっては大切なものなのだからといつも笑っている。
「眠くなったら寝ていいからね」
『...うん。ありがとう』
「これ、もう少しで直りそうだよ」
金具の取り替えだけでは終わりそうになく、今夜中に仕上げるのは不可能だと思っていたが...このペースなら大丈夫そうだ。
「...おやすみ」
声が聞こえてこなくなった画面に目をやると、ぐっすり眠っている七海が映っていた。
そう声をかけて電話を切る。
そしてそのまま、ある場所へと向かった。
「よう、木葉。もしかして、俺の相棒が直ったのか?」
「うん。なんとかできたんだけど...」
「ありがとよ」
ラッシュさんは本当に嬉しそうにしているが、僕にはどうしても訊きたいことがあった。
「...ねえ、ラッシュさん」
「どうした?」
「アイリーンって誰?」
「おまえ、どうしてその名前を...」
「ミシンに刻まれていたから。ラッシュさんの大切な人?」
ラッシュさんは困ったような表情を浮かべたものの、小さく首を縦にふる。
「...もうあいつが死んで100年以上たつけど、約束したんだ。
生まれ変わったあいつを見つけて、口説き落とすって。...馬鹿らしいと思うか?」
純血種ならではの悩みだ。
(...ん?死んだ?)
「アイリーンさんは人間だったの?」
「おう。でも、俺たちには子どもはいなかった。
だから、おまえさんと同じタイプの奴は見たことがない」
僕の頭を少し乱暴に撫でる手を掴み、そのまま握りしめる。
「...ラッシュさんが嫌じゃなかったら、その人の話を聞きたいな」
「面白いことはないぞ?」
「ただ知りたいんだ。...ラッシュさんが愛した人のことを」
「分かったよ。その代わり朝までつきあえ」
「勿論だよ」
純血種にはそういう過酷な運命が突きつけられる。
そして、こういう話を聞いたとき決まって考えてしまうのだ。
──それなら、半分の僕はどうなってしまうのだろうと。
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