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日常篇
無自覚とお泊まり
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「お、お客様、大丈夫でしたか?」
「僕は大丈夫です。ただ、彼女が殴られたので何か冷やすものがあれば持ってきてもらえるとありがたいです」
「かしこまりました...」
それからはあっという間だった。
割れたグラスは片づけられ、氷をビニール袋に詰めたものを持ってきてくれて...店長さんにまで頭を下げられる。
「あのお客様には連日頭を悩ませていたところでして...本当に助かりました」
席に戻って運ばれてきていた食事を楽しんでいるところに突然やってきたので、少しだけ驚いてしまう。
「僕たちは頭を下げられるようなことは何もしてないので、どうか気にしないでください」
「食事、美味しかったです」
七海とふたり、それだけ言ってお店を出る。
灯りが点々としている街を歩きながら、さっきの輩のことを少しだけ思い出して苛ついた。
「七海、ちょっとこっち来て」
「ん?」
すぐに冷やしたものの、頬が腫れあがってしまっている。
「ひゃっ、冷たい...」
「できた。ごめんね、このくらいしかできなくて...」
ほぼ無臭の湿布を貼って固定する。
僕がはしゃがずに七海についていれば、こんな怪我をさせずに済んだのかもしれない。
「木葉」
「どうしたの?」
「助けてくれてありがとう」
「僕は当たり前のことをしただけだよ」
「それから、その...」
「ん?」
「ううん、なんでもない」
七海が何かを隠したことくらいはすぐに理解した。
だが、それが何なのかまでは分からない。
なんだか遠慮されたような気がするが、そんなことを訊ける訳もなく、曖昧に頷くことしかできなかった。
「木葉」
「どうしたの?」
「今夜は家に来ない?」
「たまには僕の家においでよ...きっと星が綺麗だから」
それなら家に寄りたいと言う七海と手を繋ぎ、そのまま目的地へと向かう。
幸せな時間なのだが、僕にはひとつだけ分からないことがあった。
どうしてレストランで彼女にいちゃもんをつけてきた男や店員さんたちは、僕に対して恐怖を抱いていたのだろう。
「木葉、大丈夫?」
「全然元気だよ!不安にさせてごめんね」
これ以上七海に心配をかけたくない。
そこで、考えても仕方ないと開き直ってみることにした。
望遠鏡の準備に、久しぶりのお泊まり。
楽しみなことで頭を埋めて、襲いくる欲求を抑えこんだ。
──そんなふたりを追う影がふたつ。
「やっぱりあの子、無自覚なのね」
「どうすんだよ、お嬢さんの方も訊きづらそうにしてるし...」
「暴走、というほどのものでもないわ。今は様子を見ましょう。あの子には幸せになってほしいもの。
...私の家系のせいで、それを壊すようなことはしないわ」
「ケイト...」
木葉にそっくりなその女性は寂しげに微笑む。
そして蝙蝠たちを遣いに出し、そのままその場を離れる。
その後を追う男性もまた、寂しげな表情をしていた。
「僕は大丈夫です。ただ、彼女が殴られたので何か冷やすものがあれば持ってきてもらえるとありがたいです」
「かしこまりました...」
それからはあっという間だった。
割れたグラスは片づけられ、氷をビニール袋に詰めたものを持ってきてくれて...店長さんにまで頭を下げられる。
「あのお客様には連日頭を悩ませていたところでして...本当に助かりました」
席に戻って運ばれてきていた食事を楽しんでいるところに突然やってきたので、少しだけ驚いてしまう。
「僕たちは頭を下げられるようなことは何もしてないので、どうか気にしないでください」
「食事、美味しかったです」
七海とふたり、それだけ言ってお店を出る。
灯りが点々としている街を歩きながら、さっきの輩のことを少しだけ思い出して苛ついた。
「七海、ちょっとこっち来て」
「ん?」
すぐに冷やしたものの、頬が腫れあがってしまっている。
「ひゃっ、冷たい...」
「できた。ごめんね、このくらいしかできなくて...」
ほぼ無臭の湿布を貼って固定する。
僕がはしゃがずに七海についていれば、こんな怪我をさせずに済んだのかもしれない。
「木葉」
「どうしたの?」
「助けてくれてありがとう」
「僕は当たり前のことをしただけだよ」
「それから、その...」
「ん?」
「ううん、なんでもない」
七海が何かを隠したことくらいはすぐに理解した。
だが、それが何なのかまでは分からない。
なんだか遠慮されたような気がするが、そんなことを訊ける訳もなく、曖昧に頷くことしかできなかった。
「木葉」
「どうしたの?」
「今夜は家に来ない?」
「たまには僕の家においでよ...きっと星が綺麗だから」
それなら家に寄りたいと言う七海と手を繋ぎ、そのまま目的地へと向かう。
幸せな時間なのだが、僕にはひとつだけ分からないことがあった。
どうしてレストランで彼女にいちゃもんをつけてきた男や店員さんたちは、僕に対して恐怖を抱いていたのだろう。
「木葉、大丈夫?」
「全然元気だよ!不安にさせてごめんね」
これ以上七海に心配をかけたくない。
そこで、考えても仕方ないと開き直ってみることにした。
望遠鏡の準備に、久しぶりのお泊まり。
楽しみなことで頭を埋めて、襲いくる欲求を抑えこんだ。
──そんなふたりを追う影がふたつ。
「やっぱりあの子、無自覚なのね」
「どうすんだよ、お嬢さんの方も訊きづらそうにしてるし...」
「暴走、というほどのものでもないわ。今は様子を見ましょう。あの子には幸せになってほしいもの。
...私の家系のせいで、それを壊すようなことはしないわ」
「ケイト...」
木葉にそっくりなその女性は寂しげに微笑む。
そして蝙蝠たちを遣いに出し、そのままその場を離れる。
その後を追う男性もまた、寂しげな表情をしていた。
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