ハーフ&ハーフ

黒蝶

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日常篇

ヴァンパイアの片鱗

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夕陽が沈む頃、突然玄関が開く音がした。
「...え、木葉?」
「こんばんは。今日は少しだけ早めに来ちゃったけど、準備はできてる?」
「準備...?」
作業に没頭していて、今日の予定をすっかり忘れていた。
「ごめん、ちょっとだけ座って待ってて!」
「慌てなくても大丈夫だよ」
『比較的に調子がいいから、もし七海の都合が合いそうならデートしよう』...そう言われて約束していたのに、まだ部屋着のままだ。
(どうしよう、本当に恥ずかしい...)
「おまたせ、待たせちゃって本当にごめん」
「ううん、お仕事に集中する七海も好きだから」
木葉はいつも笑って許してくれる。
それこそ、怒られたことなんて1回しかない。
どうして彼はいつも笑顔でいられるのだろう。
「七海?疲れているならまた別の日にしようか」
「ううん、そうじゃないよ。楽しみだなって思っただけ」
「僕もすごく楽しみだよ」
手を繋いで、ふたり揃って家を出る。
ちょうど空が茜色を失う頃で、それがまた美しかった。
「ここのお店、入ってみようか」
「うん」
私たちは大抵、どこに行くというプランを決めずに気になったお店にふらっと立ち寄ってみることにしている。
「すごくおしゃれなレストランだけど、本当にファミレスなのかな?」
「多分そうだと思う。店員さんの服装がチェーン店のものだから」
木葉は恐る恐るといった様子で1歩踏み出す。
すると、その瞬間にいらっしゃいませと元気な声が響いた。
(どうして入るって分かったんだろう)
あまりにぴったりすぎるタイミングに少し驚きながら、一礼して着席した。
「もう決まった?」
「うん。これにする」
「すみません、このチーズハンバーグセットと鮭のムニエル定食をください」
「それからドリンクバー2人分お願いします」
私の追加注文に木葉は首を傾げる。
この様子だと、彼はこの系列のお店に来たことがないのだろう。
「ドリンクバーってどういうこと?」
「あそこに飲み物と沢山のコップがあるでしょ?好きなものを淹れて飲んでいいんだよ」
「早速淹れに行こう。どんなものがあるかわくわくする...!」
「うん、私も」
いつも独りで来ていた場所に、誰かと来る日がくるなんて思っていなかった。
木葉は早くもデザートの場所を見て回っている。
(...紅茶にしようかな)
本格アイスティーという謳い文句に誘われて、私はそれを試してみることにした。
注いでいると、見知らぬ人にぶつかられてしまう。
「すみません」
最近こんなことが多いなと思っていると、相手はいきなり掴みかかってきて...私は勢いよく倒れてしまう。
...殴られたのだと気づくのに、少しだけ時間がかかってしまった。
「いきなりぶつかってくるなんて、女だからってすいませんで済むと思ってるのか?ああん?」
──怖い。頭が真っ白になって体が動かせなくなってしまう。
また殴られると思ったそのとき、凍りつくような空気を感じた。
「...彼女から離れろ」
それは、今まで聞いたなかで1番低い木葉の声だった。
「なんだおまえ、や、」
本当は、やんのか?とでも続くはずだったのだろう。
けれど更に空気が凍りはじめて、男は怯えていた。
「穏便に済ませたいから、早く離れて」
「す、すいませんでした!」
男が去ったところで、木葉は私を抱きしめてくれた。
「大丈夫だった?」
「うん、私は平気。ありがとう、木葉のおかげだよ」
まるで何事もなかったかのように振る舞う彼を、少しだけ戸惑いながら見つめる。
ラッシュさんは言っていた。
『大抵の純血種は能力が使える』と。
木葉だって、半分とはいえ純血だ。
(ということは...あれが、木葉の力?)
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