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日常篇
出会い
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「それじゃあ、また」
「うん、また」
太陽が真上に昇る頃、離れないといけない寂しさを感じながらそのまま木葉の家を後にする。
本当はもっと一緒にいたかったけれど、彼の予定の邪魔をしたくない。
それに...私も早く原稿を仕上げて、ふたりでいられる時間を増やしたかった。
「...?」
先に買い物を済ませてしまおうと商店街へ向かうと、蹲っている人がいるのが目にはいる。
「あの、大丈夫ですか?」
「平気よ。少し休めばよくなるから...あなたの手を煩わせるほどではないわ」
まるでどこかのお嬢様のような口調に少し戸惑いながらも、流石に放っておくことはできなかった。
「病院に行けない事情があるなら、ここで一緒に休みましょうか」
「え?」
多分この人は人間じゃない。
それでも、具合が悪い人を放っておきたくはなかった。
「私も少し休憩しようと思っていたところなので、何か飲み物でも飲みましょう」
「あなたの貴重な時間を奪うわけには、」
「それじゃあお茶買ってきますね」
押し問答になりそうだったので、それだけ話して自販機へと向かう。
それから飲み物を渡すと、その人は俯きながらゆっくり口にしていた。
「ごめんなさいね...」
「いいんです。私、こうやって人と話すことってあまりないからすごく楽しいですよ」
「ありがとう」
風が吹いて、さらさらと髪が揺れる。
フードを被っているから確信が持てなかったけれど、やっぱり女性らしい。
「あの、初対面でこんなことを言うのは変かもしれないけど...綺麗な髪ですね」
「...!」
瞬間、女性の方から雫が飛んできた。
「ごめんなさい、泣かせるつもりはなくて、その...」
「違うの。とても嬉しかったのよ。...私も人とはあまり話さないの。
それに、あなたが褒めてくれた髪のことを昔褒められたことがあったの」
「...その人のことが大切なんですね」
大切だったとは敢えて口にしない。
恐らく、さっきの話し方からしてその人は亡くなっているのだろう。
けれどきっと、彼女の心の中では生き続けているのだ。
「随分よくなったわ。あなたのおかげよ...ありがとう」
「いえ、私はただ隣に座っていただけですから」
「それに、久しぶりに知り合い以外と話したわ」
瞬間、風でフードがはらりと落ちる。
──彼女の顔は、木葉そっくりだった。
「あ、あの...兄弟とかいますか?」
「兄弟...一応いるわね。この街にはあまり来ないけれど、面白い人たちよ」
「そうなんですね...」
木葉はひとりっ子だと言っていた。
目元や口元、何より柔らかい雰囲気がよく似ている。
「あなたはいい人ね」
「あ、ありがとうございます...」
一瞬不思議な雰囲気が漂った気がしたけれど、女性はすっと立ちあがって歩き出した。
「本当にもう大丈夫ですか?」
「ええ。私はケイティリン・ハルバート=中津。ケイトと呼んでちょうだい。
それではまたね、野崎七海さん」
どうして私の名前を知っているのだろう。
そんな疑問をぶつける間もなく、ケイティ...ケイトさんは消えてしまった。
中津ということは、やっぱり彼の知り合いなのかもしれない。
(...木葉に訊いてみよう)
「うん、また」
太陽が真上に昇る頃、離れないといけない寂しさを感じながらそのまま木葉の家を後にする。
本当はもっと一緒にいたかったけれど、彼の予定の邪魔をしたくない。
それに...私も早く原稿を仕上げて、ふたりでいられる時間を増やしたかった。
「...?」
先に買い物を済ませてしまおうと商店街へ向かうと、蹲っている人がいるのが目にはいる。
「あの、大丈夫ですか?」
「平気よ。少し休めばよくなるから...あなたの手を煩わせるほどではないわ」
まるでどこかのお嬢様のような口調に少し戸惑いながらも、流石に放っておくことはできなかった。
「病院に行けない事情があるなら、ここで一緒に休みましょうか」
「え?」
多分この人は人間じゃない。
それでも、具合が悪い人を放っておきたくはなかった。
「私も少し休憩しようと思っていたところなので、何か飲み物でも飲みましょう」
「あなたの貴重な時間を奪うわけには、」
「それじゃあお茶買ってきますね」
押し問答になりそうだったので、それだけ話して自販機へと向かう。
それから飲み物を渡すと、その人は俯きながらゆっくり口にしていた。
「ごめんなさいね...」
「いいんです。私、こうやって人と話すことってあまりないからすごく楽しいですよ」
「ありがとう」
風が吹いて、さらさらと髪が揺れる。
フードを被っているから確信が持てなかったけれど、やっぱり女性らしい。
「あの、初対面でこんなことを言うのは変かもしれないけど...綺麗な髪ですね」
「...!」
瞬間、女性の方から雫が飛んできた。
「ごめんなさい、泣かせるつもりはなくて、その...」
「違うの。とても嬉しかったのよ。...私も人とはあまり話さないの。
それに、あなたが褒めてくれた髪のことを昔褒められたことがあったの」
「...その人のことが大切なんですね」
大切だったとは敢えて口にしない。
恐らく、さっきの話し方からしてその人は亡くなっているのだろう。
けれどきっと、彼女の心の中では生き続けているのだ。
「随分よくなったわ。あなたのおかげよ...ありがとう」
「いえ、私はただ隣に座っていただけですから」
「それに、久しぶりに知り合い以外と話したわ」
瞬間、風でフードがはらりと落ちる。
──彼女の顔は、木葉そっくりだった。
「あ、あの...兄弟とかいますか?」
「兄弟...一応いるわね。この街にはあまり来ないけれど、面白い人たちよ」
「そうなんですね...」
木葉はひとりっ子だと言っていた。
目元や口元、何より柔らかい雰囲気がよく似ている。
「あなたはいい人ね」
「あ、ありがとうございます...」
一瞬不思議な雰囲気が漂った気がしたけれど、女性はすっと立ちあがって歩き出した。
「本当にもう大丈夫ですか?」
「ええ。私はケイティリン・ハルバート=中津。ケイトと呼んでちょうだい。
それではまたね、野崎七海さん」
どうして私の名前を知っているのだろう。
そんな疑問をぶつける間もなく、ケイティ...ケイトさんは消えてしまった。
中津ということは、やっぱり彼の知り合いなのかもしれない。
(...木葉に訊いてみよう)
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