54 / 258
隠暮篇(かくれぐらしへん)
お誘い
しおりを挟む
「木葉、そろそろ起きないと寝過ぎになっちゃうよ」
時計の針が12時を指す頃、そうして優しく起こされる。
「七海、おはよう」
「...おはよう」
お昼前に起こしてくれた彼女はなんだか元気がない。
「どうかしたの?何かあった?」
「ラッシュさんに起きたら連絡するように伝えてくれって言われた。
ご飯、温めなおすからその間に電話してみて」
「ありがとう...?」
答えになっていないような気もするが、一先ずラッシュさんには連絡した方がいいだろう。
もしかすると昨夜のことで何か分かったことがあるのかもしれない。
それに...シェリのことも心配だ。
「ラッシュさん、僕だけど今応対中とかじゃない?」
『おう。おまえさんに話しておきたいんだが...』
それから僕はラッシュさんの言葉を沢山聞いた。
シェリのこと、恐らくそれが悪い人間の仕業であること...。
そして、七海を側に置いて護った方がいいことも。
「それってつまり、同棲ってこと?期間はどれくらい」
電話口から聞こえた答えに思わず叫んでしまった。
「ええ!?あ、いや、僕はいいけど...」
キッチンを盗み見ると、七海はきょとんとした顔でこちらに視線を向けていた。
可愛くて撫でたくなる衝動を抑え、再び通話に意識を向ける。
「...分かった、じゃあ今夜」
「もう終わったの?」
「うん。ご飯ありがとう。いただきます」
いつもどおりを意識しながら食べていると七海に声をかけられる。
「木葉、」
「大丈夫だよ。だからそんなに不安そうな顔をしないで?」
こんなことになって1番不安を抱えているのは七海のはずだ。
それでも彼女は気丈に振る舞い、今もこうして僕の側にいてくれている。
...だったら僕にできることはただひとつ。
「七海、しばらくの間僕と一緒にここで生活してくれる?」
「迷惑じゃない...?」
「全然!寧ろ側にいてくれたら心強いな」
素直な思いをぶつけると、彼女はようやく安堵したような笑顔を見せてくれた。
犯人が何故シェリを狙ったのか、どこでそういうふうになったのか、正体を知っていてやられたのか...まだまだ分からないことは沢山ある。
それでも不安にならないのは、きっと七海が隣にいてくれるからだ。
「今夜仕事を早くあがれるから一緒に必要なものを取りに行こう。...その前に必要なものは買い揃えておこうか」
「いいの?」
「まだ時間があるし、折角ふたりでいられるんだからデートしたい。...駄目?」
「ううん、駄目じゃない。気分転換に少しだけ外の空気を吸いたいと思っていたから」
彼女の気が紛れるならいくらでもつきあおう。
それが今の僕にできる、唯一のことだから...。
もっと器用になんでもこなせればいいのに、なんて思ったのは何度目だろうか。
「木葉?」
「大丈夫だよ。行こうか」
頷いた七海の手をひいて、そのまま町を駆け出す。
──夕陽が目に滲みて、少しだけ泣きたくなった。
時計の針が12時を指す頃、そうして優しく起こされる。
「七海、おはよう」
「...おはよう」
お昼前に起こしてくれた彼女はなんだか元気がない。
「どうかしたの?何かあった?」
「ラッシュさんに起きたら連絡するように伝えてくれって言われた。
ご飯、温めなおすからその間に電話してみて」
「ありがとう...?」
答えになっていないような気もするが、一先ずラッシュさんには連絡した方がいいだろう。
もしかすると昨夜のことで何か分かったことがあるのかもしれない。
それに...シェリのことも心配だ。
「ラッシュさん、僕だけど今応対中とかじゃない?」
『おう。おまえさんに話しておきたいんだが...』
それから僕はラッシュさんの言葉を沢山聞いた。
シェリのこと、恐らくそれが悪い人間の仕業であること...。
そして、七海を側に置いて護った方がいいことも。
「それってつまり、同棲ってこと?期間はどれくらい」
電話口から聞こえた答えに思わず叫んでしまった。
「ええ!?あ、いや、僕はいいけど...」
キッチンを盗み見ると、七海はきょとんとした顔でこちらに視線を向けていた。
可愛くて撫でたくなる衝動を抑え、再び通話に意識を向ける。
「...分かった、じゃあ今夜」
「もう終わったの?」
「うん。ご飯ありがとう。いただきます」
いつもどおりを意識しながら食べていると七海に声をかけられる。
「木葉、」
「大丈夫だよ。だからそんなに不安そうな顔をしないで?」
こんなことになって1番不安を抱えているのは七海のはずだ。
それでも彼女は気丈に振る舞い、今もこうして僕の側にいてくれている。
...だったら僕にできることはただひとつ。
「七海、しばらくの間僕と一緒にここで生活してくれる?」
「迷惑じゃない...?」
「全然!寧ろ側にいてくれたら心強いな」
素直な思いをぶつけると、彼女はようやく安堵したような笑顔を見せてくれた。
犯人が何故シェリを狙ったのか、どこでそういうふうになったのか、正体を知っていてやられたのか...まだまだ分からないことは沢山ある。
それでも不安にならないのは、きっと七海が隣にいてくれるからだ。
「今夜仕事を早くあがれるから一緒に必要なものを取りに行こう。...その前に必要なものは買い揃えておこうか」
「いいの?」
「まだ時間があるし、折角ふたりでいられるんだからデートしたい。...駄目?」
「ううん、駄目じゃない。気分転換に少しだけ外の空気を吸いたいと思っていたから」
彼女の気が紛れるならいくらでもつきあおう。
それが今の僕にできる、唯一のことだから...。
もっと器用になんでもこなせればいいのに、なんて思ったのは何度目だろうか。
「木葉?」
「大丈夫だよ。行こうか」
頷いた七海の手をひいて、そのまま町を駆け出す。
──夕陽が目に滲みて、少しだけ泣きたくなった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる