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隠暮篇(かくれぐらしへん)
隠した不安
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「...よかった、上手くいってる」
「七海のご飯はいつも美味しいよ」
彼女があまり食事を摂っていないことは、吸血したときになんとなく分かっている。
それならせめて、こうして一緒に暮らしている間はきちんと3食食べてもらおう。
...体調を崩してしまわないか、心配で堪らないから。
「時々、調味料を入れ間違えて大変なことになる」
「そんなこともあるんだ...可愛い」
「あ、あんまり言わないで」
七海は恥ずかしそうに俯いてちまちま食べはじめてしまう。
そんな姿もまた愛しくて、思わず手が止まってしまっていた。
「あんまりじろじろ見ないで...」
「ごめん!」
急いで残りのオムライスを食べ終わり、食器くらいは洗わせてほしいと七海に伝えて1枚1枚磨いていく。
米粒ひとつ残さないところが彼女らしくて、少しだけ笑ってしまった。
「入っていい?」
「...どうぞ」
かたかたと音がするなか、僕にはどうしても訊いておかなければならないことがあった。
「七海、夜食べたいものはある?」
「なんでもいい。というか、何を作ろうか...」
「夜は僕が作るよ」
朝は起きられなくて作れないし、お昼だって七海が作ってくれた。
それなら夕食は僕がやろうとはじめから決めていたのだ。
「それじゃあ、何かお菓子を買ってこようか?」
「お菓子...!」
彼女は部類のお菓子好きで、特にチョコレートには目がない。
何を買ってこようか迷っていると、パソコンをシャットダウンして立ちあがる。
「私も行く。ふたりの方が荷物が多くなっても楽だし、きっと楽しいから。
でも、行くのはもう少し遅くなってからにしよう」
「...ごめん」
「謝らないで。私がそういう気分なだけだから」
きっと、基本的に夜にならないと動けないことを考えて言ってくれたのだろう。
昼間だって全く動けない訳ではない。
だが、夜以上に動ける時間帯が存在しないのも事実だ。
「ありがとう」
「折角一緒にいられるんだから、ふたりで助け合っていこう」
「うん!」
この会話だけで、なんだか楽しくなってくる。
しかしそれなら何故七海はパソコンを閉じて作業を止めたのだろう。
「ちょっと行き詰まっちゃって...木葉さえよければ、一緒に休んでもいい?」
「勿論だよ」
ふたりで過ごせるのは楽しい。
...こんな状況でなければきっともっと楽しかっただろう。
「何か飲み物を淹れるよ。...何がいい?」
「それじゃあ、木葉と同じもので」
「了解」
あくまでいつもどおりに振る舞っているつもりだが、これでも動揺している。
七海には言えない、ラッシュさんと電話で話した内容。
それを思い出すと少し胸が苦しくなる。
「熱いから気をつけてね」
「ありがとう」
こんな安心しきった笑顔を前にして言えるわけがない。
──これから七海が狙われることになるだろうなんて。
「七海のご飯はいつも美味しいよ」
彼女があまり食事を摂っていないことは、吸血したときになんとなく分かっている。
それならせめて、こうして一緒に暮らしている間はきちんと3食食べてもらおう。
...体調を崩してしまわないか、心配で堪らないから。
「時々、調味料を入れ間違えて大変なことになる」
「そんなこともあるんだ...可愛い」
「あ、あんまり言わないで」
七海は恥ずかしそうに俯いてちまちま食べはじめてしまう。
そんな姿もまた愛しくて、思わず手が止まってしまっていた。
「あんまりじろじろ見ないで...」
「ごめん!」
急いで残りのオムライスを食べ終わり、食器くらいは洗わせてほしいと七海に伝えて1枚1枚磨いていく。
米粒ひとつ残さないところが彼女らしくて、少しだけ笑ってしまった。
「入っていい?」
「...どうぞ」
かたかたと音がするなか、僕にはどうしても訊いておかなければならないことがあった。
「七海、夜食べたいものはある?」
「なんでもいい。というか、何を作ろうか...」
「夜は僕が作るよ」
朝は起きられなくて作れないし、お昼だって七海が作ってくれた。
それなら夕食は僕がやろうとはじめから決めていたのだ。
「それじゃあ、何かお菓子を買ってこようか?」
「お菓子...!」
彼女は部類のお菓子好きで、特にチョコレートには目がない。
何を買ってこようか迷っていると、パソコンをシャットダウンして立ちあがる。
「私も行く。ふたりの方が荷物が多くなっても楽だし、きっと楽しいから。
でも、行くのはもう少し遅くなってからにしよう」
「...ごめん」
「謝らないで。私がそういう気分なだけだから」
きっと、基本的に夜にならないと動けないことを考えて言ってくれたのだろう。
昼間だって全く動けない訳ではない。
だが、夜以上に動ける時間帯が存在しないのも事実だ。
「ありがとう」
「折角一緒にいられるんだから、ふたりで助け合っていこう」
「うん!」
この会話だけで、なんだか楽しくなってくる。
しかしそれなら何故七海はパソコンを閉じて作業を止めたのだろう。
「ちょっと行き詰まっちゃって...木葉さえよければ、一緒に休んでもいい?」
「勿論だよ」
ふたりで過ごせるのは楽しい。
...こんな状況でなければきっともっと楽しかっただろう。
「何か飲み物を淹れるよ。...何がいい?」
「それじゃあ、木葉と同じもので」
「了解」
あくまでいつもどおりに振る舞っているつもりだが、これでも動揺している。
七海には言えない、ラッシュさんと電話で話した内容。
それを思い出すと少し胸が苦しくなる。
「熱いから気をつけてね」
「ありがとう」
こんな安心しきった笑顔を前にして言えるわけがない。
──これから七海が狙われることになるだろうなんて。
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