ハーフ&ハーフ

黒蝶

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隠暮篇(かくれぐらしへん)

遅起きと手紙

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次に目を開けたとき、朝陽がとても眩しかった。
そして隣にはぴったりと寄り添うようにぬくもりがあって、すやすやと寝息をたてている。
(腕、本当に痺れないのかな?)
私の頭の下にあるそれは昨夜から位置が変わっていなくて、寧ろ私は肩凝りがすっきりしているような気がした。
起きあがろうとするとと、後ろからもう一方の腕が伸びてくる。
「木葉?」
「ん...」
寝惚けているのか、そのまま抱きしめられた形になって動けなくなってしまった。
(...一応原稿は仕上がってきてるし、のんびりしても大丈夫かな)
何か別のことを考えていないと心臓が壊れてしまいそうなほど音をたてている。
結局その腕から抜け出すことはできずにそのまま目を閉じた。
「...ごめん」
「気にしないで」
結局お昼まで寝てしまった私たちは、ふたり並んでキッチンに立っている。
木葉は自分が抱きとめていたせいだとしゅんとしていたけれど、私はそうは思っていない。
特に急ぎの用事もなかったので、ただ単に居心地がよかっただけだ。...ずっとそのままでいたいと思うほどに。
「本当にごめんね」
「ううん。久しぶりにゆっくり休めたし、元気になったような気がする」
「それならいいんだけど...」
ベーコンを焼いているとばさっと羽音がして、木葉の肩の上にノワールが留まっていた。
「おはよう。ノワール、こっちの野菜なら食べていいよ」
「ノワール、お昼前から元気いっぱいだね...ん?手紙?」
木葉はノワールの足にくくりつけられていた何かを外して、ただじっと文字を目で追っているようだった。
読み終わると私に笑顔で教えてくれる。
「『あいつはまだ車椅子ではあるもののだいぶ元気になってきてはいる。
ただ、昼間に見舞いに行ける奴は限られる。もしよかったら今日はふたりが来てくれないか?』だって」
「シェリに会いに行っていいってこと?」
文体からしてラッシュさんからだということは分かる。
少しだけ気になったのは、『お昼にお見舞いに行ける人』という部分だ。
(まるで夜なら沢山いるみたいな書き方だけど、どんな人たちが行っているんだろう...)
こういうとき、未だに訊いてみてもいいのか迷ってしまう。
誰にだって秘密はあるものだし、答えたくないことだってあるはずだ。
フライパンを持ったまま考えていると、左から菜箸が伸びてくる。
「これ以上焼くと焦げちゃうよ?」
「ごめん、ちょっとぼうっとしてた」
「大丈夫?もし具合が悪いようなら今日じゃなくてもシェリに会えると思うけど...」
「ううん、体調はもう万全。休みすぎくらい休んじゃったから。
ただ、お見舞いに何を持っていったら喜んでもらえるか悩んでいただけ」
半分は本当だけれど半分は嘘だ。
木葉はしばらく私を見つめていたけれど、ふっと笑ってお皿に盛りつけはじめる。
彼はただそっかとだけ言って、そのまま運んでくれた。
「...いただきます」
「いただきます」
...きっと何かを誤魔化したと思われてしまっているだろうことに、きちんと訊かなかったことに少し後悔しながら出来立てのご飯を口に運ぶ。
ベーコンがいつもより少しだけ辛く感じた。
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