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隠暮篇(かくれぐらしへん)
初めての接客
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「いらっしゃいませ」
だいぶ慣れてきた頃、あるお客様に声をかけられる。
「...ねえ、あなた人間?」
嘘を吐くのはいけないけれど、正直に答えていいのかどうかも分からない。
「えっと、その、」
「僕の恋人に何か用ですか?」
「あら、それは失礼。ラッシュが人間に心を開くのなんて随分久しいような気がしたから、ただ話を聞いてみたかっただけなの。...ごめんなさいね」
「いいえ、私の方こそすみません。どう答えたらいいのか分からなくて...」
食べられてしまうかもしれないなんて、失礼なことを考えてしまって本当に申し訳なかったと反省する。
そのお客様は洋服を沢山買っていってくれて、自分のことのように嬉しくなった。
「...人間のお客が来そうだ」
「ラッシュさん?」
「今は店長って呼んでくれ、お嬢さん」
「了解しました、店長」
少し遠くでアクセサリーを見ているシェリと目が合って笑いかけてみる。
彼女ははじめ戸惑っていたようだったけれど、優しい笑顔をかえしてくれた。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
「オーダーメイドで洋服を頼みたいのですが、大丈夫でしょうか?」
「...それは構いませんが、何故この時間に来店されたんです?」
それもそうだ。
普通の人間であるのならこの時間帯ではなくお昼の営業時間に来ればいいだけの話なのに、どうしてこんな真夜中を選んだのだろう。
(...違う)
あの人から普通の人間の気配を感じない...どうして今まで気づけなかったのだろう。
どうするのかその場で見ていると、その男性は袖を捲りはじめた。
「...!」
遠くからでもそれははっきりと見える。
悲鳴をあげそうになるのを抑えながら、もう1度視線を向けた。
ただれてしまっている腕に、傷だらけの体...あまりに突然のことで動けなくなってしまう。
「失礼しました。...成仏するためにスーツが必要ということでしょうか?」
「...お願いできませんか」
その声はか細いもので、心のそこからスーツを着たいと思っているのを理解する。
「今すぐ仕上げるので少々お待ちください。...ふたりとも、今夜はもう店じまいにするから片づけ頼めるか?」
「はい!」
「了解しました」
私は木葉と閉店の準備をしながら、ふたりの時間を楽しむ。
ごみを掃いたりモップがけをしたり、商品の在庫を確認したり...これをいつも1人でやっているラッシュさんは疲れないのだろうか。
「七海、大丈夫?」
「全然大丈夫だよ。これを片づけたら終わりだね」
「そうだね」
何とかあてられることなく無事仕事できたことにほっとひと息ついていると、そこにシェリたちがやってくる。
「私たちはそろそろ行くわ。またお話しましょうね」
「はい。...シェリもまたね」
「うん、また」
ふたりの背中を見送っていると、すぐ近くで鉄のようなにおいがすることに気づく。
(...もしかして)
「木葉、私たちも帰ろう。...我慢できそう?」
「家までならなんとか。七海には何でもお見通しだね」
「何でもというほどのものじゃないけど、我慢しているのは分かる」
ラッシュさんに片づけが終わったことと帰ることを伝えて、そのまま帰路につく。
ふらふら歩く木葉に、ただただ申し訳なさがつもっていった。
だいぶ慣れてきた頃、あるお客様に声をかけられる。
「...ねえ、あなた人間?」
嘘を吐くのはいけないけれど、正直に答えていいのかどうかも分からない。
「えっと、その、」
「僕の恋人に何か用ですか?」
「あら、それは失礼。ラッシュが人間に心を開くのなんて随分久しいような気がしたから、ただ話を聞いてみたかっただけなの。...ごめんなさいね」
「いいえ、私の方こそすみません。どう答えたらいいのか分からなくて...」
食べられてしまうかもしれないなんて、失礼なことを考えてしまって本当に申し訳なかったと反省する。
そのお客様は洋服を沢山買っていってくれて、自分のことのように嬉しくなった。
「...人間のお客が来そうだ」
「ラッシュさん?」
「今は店長って呼んでくれ、お嬢さん」
「了解しました、店長」
少し遠くでアクセサリーを見ているシェリと目が合って笑いかけてみる。
彼女ははじめ戸惑っていたようだったけれど、優しい笑顔をかえしてくれた。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
「オーダーメイドで洋服を頼みたいのですが、大丈夫でしょうか?」
「...それは構いませんが、何故この時間に来店されたんです?」
それもそうだ。
普通の人間であるのならこの時間帯ではなくお昼の営業時間に来ればいいだけの話なのに、どうしてこんな真夜中を選んだのだろう。
(...違う)
あの人から普通の人間の気配を感じない...どうして今まで気づけなかったのだろう。
どうするのかその場で見ていると、その男性は袖を捲りはじめた。
「...!」
遠くからでもそれははっきりと見える。
悲鳴をあげそうになるのを抑えながら、もう1度視線を向けた。
ただれてしまっている腕に、傷だらけの体...あまりに突然のことで動けなくなってしまう。
「失礼しました。...成仏するためにスーツが必要ということでしょうか?」
「...お願いできませんか」
その声はか細いもので、心のそこからスーツを着たいと思っているのを理解する。
「今すぐ仕上げるので少々お待ちください。...ふたりとも、今夜はもう店じまいにするから片づけ頼めるか?」
「はい!」
「了解しました」
私は木葉と閉店の準備をしながら、ふたりの時間を楽しむ。
ごみを掃いたりモップがけをしたり、商品の在庫を確認したり...これをいつも1人でやっているラッシュさんは疲れないのだろうか。
「七海、大丈夫?」
「全然大丈夫だよ。これを片づけたら終わりだね」
「そうだね」
何とかあてられることなく無事仕事できたことにほっとひと息ついていると、そこにシェリたちがやってくる。
「私たちはそろそろ行くわ。またお話しましょうね」
「はい。...シェリもまたね」
「うん、また」
ふたりの背中を見送っていると、すぐ近くで鉄のようなにおいがすることに気づく。
(...もしかして)
「木葉、私たちも帰ろう。...我慢できそう?」
「家までならなんとか。七海には何でもお見通しだね」
「何でもというほどのものじゃないけど、我慢しているのは分かる」
ラッシュさんに片づけが終わったことと帰ることを伝えて、そのまま帰路につく。
ふらふら歩く木葉に、ただただ申し訳なさがつもっていった。
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