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隠暮篇(かくれぐらしへん)
突然のお誘い
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「もしふたりがよかったらなんだが、その...」
まさかとは思っていた。
休憩を終えた僕たちにラッシュの言葉が突き刺さる。
「僕は夜だって起きていられるけど、七海のことはちゃんと休ませてあげたい」
「不養生な生活は慣れてる。それに...木葉と一緒なら大丈夫な気がする」
優しく微笑む七海を見ていると、なんだかとても安心した。
安請け合いにならないように話を聞いたものの、特に問題はなさそうだ。
──そして今、僕たちはまだラッシュさんの店にいる。
「七海、そっちのブラウスの在庫持ってきてもらってもいい?」
「了解」
彼からの頼みは、今夜だけお店を手伝うこと。
夜は人間ではないものもやってくることが多いので、少しどたばたすることもあるのだという。
「...ノワール、辺りの様子はどう?」
彼のひと鳴きで意味は何となく理解できる。
周囲に敵意を持った人物はなし、お客がふたりやってきている...らしい。
「ラッシュさん、お客さんが来るみたいだよ」
「お、時間ぴったりだな」
今のはどういう意味なんだろう。
よく分からずに立ち尽くしていると、からんと音がする。
「いらっしゃいま...」
「七海?」
何故彼女が固まったのか。その答えは視線のすぐ先にあった。
可憐な車椅子の少女と、どこか妖艶な雰囲気を纏った女性。
「あら、どうしてふたりがこんな時間にいるの?」
「それはこっちの台詞だよ。どうしてお母さんとシェリがここに...」
ノワールの反応が妙に鈍かった理由を今更ながら理解した。
ふたりから出ているオーラで他の気配なんて感じ取れないだろうし、何よりこの人がいれば大抵のものは凍てつく空気にあてられてしまう。
「あの...何かお探しですか?」
「ラッシュは奥にいるのかしら。彼に頼んでおいたものがあるのだけれど...」
「ほら、頼まれてたものだ」
いつの間に現れたのか、彼はすぐ母に包みを手渡していた。
七海はぽかんとしていたが、しゃがんでシェリに優しく話し掛けている。
「体調はどう?」
「えっと、だいぶ、よくなった...と、思う」
そんなみんなを微笑ましく思っていると、殺気がこもった鋭い視線を感じる。
何事かと振り向くと、そこには誰もいなかった。
「木葉、どうしたの?」
「なんでもないよ」
心配そうにこちらを見つめる七海の頭をそっと撫でながら、気配がないか周囲を警戒する。
それでも視線の正体は分からず、結局そのまま接客に戻ることにした。
「...ねえ、木葉」
「どうしたの?」
「さっき厭な気配がしたような気がしたんだけど、気のせいかな」
どうやら気のせいではないようだ。
シェリに不安な思いをさせたくなかった...彼女はそう話してくれた。
「でも、今は何も感じなくて...役に立てなくてごめん」
「そんなことないよ。僕の気のせいじゃなかったってことははっきりしたし、今は感じないのは僕も同じだから。
だから...接客、引き続き頑張ろうか」
お客がやって来るのが目に入り、七海にそう話してふたりで対応をはじめる。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
「おすすめ...でしたらお客様、こちらは如何でしょうか?」
時折合図をするかのようにふたりで視線を重ねつつ、笑顔をはりつけて接客を続ける。
忙しない夜が終わる頃、渇きが限界寸前まで達するのを感じた。
もう駄目かもしれない...そう思ったとき誰にも分からないように密かに腕を掻きむしり、口元に腕を添える。
...あと少し、なんとか持ちこたえたい。
まさかとは思っていた。
休憩を終えた僕たちにラッシュの言葉が突き刺さる。
「僕は夜だって起きていられるけど、七海のことはちゃんと休ませてあげたい」
「不養生な生活は慣れてる。それに...木葉と一緒なら大丈夫な気がする」
優しく微笑む七海を見ていると、なんだかとても安心した。
安請け合いにならないように話を聞いたものの、特に問題はなさそうだ。
──そして今、僕たちはまだラッシュさんの店にいる。
「七海、そっちのブラウスの在庫持ってきてもらってもいい?」
「了解」
彼からの頼みは、今夜だけお店を手伝うこと。
夜は人間ではないものもやってくることが多いので、少しどたばたすることもあるのだという。
「...ノワール、辺りの様子はどう?」
彼のひと鳴きで意味は何となく理解できる。
周囲に敵意を持った人物はなし、お客がふたりやってきている...らしい。
「ラッシュさん、お客さんが来るみたいだよ」
「お、時間ぴったりだな」
今のはどういう意味なんだろう。
よく分からずに立ち尽くしていると、からんと音がする。
「いらっしゃいま...」
「七海?」
何故彼女が固まったのか。その答えは視線のすぐ先にあった。
可憐な車椅子の少女と、どこか妖艶な雰囲気を纏った女性。
「あら、どうしてふたりがこんな時間にいるの?」
「それはこっちの台詞だよ。どうしてお母さんとシェリがここに...」
ノワールの反応が妙に鈍かった理由を今更ながら理解した。
ふたりから出ているオーラで他の気配なんて感じ取れないだろうし、何よりこの人がいれば大抵のものは凍てつく空気にあてられてしまう。
「あの...何かお探しですか?」
「ラッシュは奥にいるのかしら。彼に頼んでおいたものがあるのだけれど...」
「ほら、頼まれてたものだ」
いつの間に現れたのか、彼はすぐ母に包みを手渡していた。
七海はぽかんとしていたが、しゃがんでシェリに優しく話し掛けている。
「体調はどう?」
「えっと、だいぶ、よくなった...と、思う」
そんなみんなを微笑ましく思っていると、殺気がこもった鋭い視線を感じる。
何事かと振り向くと、そこには誰もいなかった。
「木葉、どうしたの?」
「なんでもないよ」
心配そうにこちらを見つめる七海の頭をそっと撫でながら、気配がないか周囲を警戒する。
それでも視線の正体は分からず、結局そのまま接客に戻ることにした。
「...ねえ、木葉」
「どうしたの?」
「さっき厭な気配がしたような気がしたんだけど、気のせいかな」
どうやら気のせいではないようだ。
シェリに不安な思いをさせたくなかった...彼女はそう話してくれた。
「でも、今は何も感じなくて...役に立てなくてごめん」
「そんなことないよ。僕の気のせいじゃなかったってことははっきりしたし、今は感じないのは僕も同じだから。
だから...接客、引き続き頑張ろうか」
お客がやって来るのが目に入り、七海にそう話してふたりで対応をはじめる。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
「おすすめ...でしたらお客様、こちらは如何でしょうか?」
時折合図をするかのようにふたりで視線を重ねつつ、笑顔をはりつけて接客を続ける。
忙しない夜が終わる頃、渇きが限界寸前まで達するのを感じた。
もう駄目かもしれない...そう思ったとき誰にも分からないように密かに腕を掻きむしり、口元に腕を添える。
...あと少し、なんとか持ちこたえたい。
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