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隠暮篇(かくれぐらしへん)
御守りの力
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「...っ」
「ごめん、滲みるよね」
七海の傷はまだ深いまま、なかなか塞がることがない。
薬を塗ったりガーゼを替える度、やっぱり申し訳なく感じる。
「ちょっとだけ出掛けてくるね。...誰か来ても絶対に出ないように」
「分かった。いってらっしゃい」
知り合いなら合鍵を持っている。
それなら、中から開けなくても入ってこられるはずだ。
やはりあの視線を七海も感じ取っていたらしいので、もしものときのことを考えてしばらくは買い物も控えてほしいとお願いした。
それに、ただでさえ僕のせいで無理をさせているのだ。
...体があまり強い方ではない七海にはあまり外に出てほしくない。
「ノワール、もし何かあったらすぐに知らせに来て。申し訳ないけどよろしくね」
ばさっと羽音がして、それが肯定の意味だとすぐに理解した。
「こんにちは...」
「おう、来たか。クレールを少し多めに仕入れておいた。それで...大丈夫なのか?」
七海は大丈夫なのかという意味も、きっと僕が眠そうだから大丈夫なのかという意味も含めての言葉なのだろう。
「ちょっと眠いけど大丈夫だよ。七海も元気そうだから、きっと大丈夫」
「それならよかった。疲れきってるんじゃないかと思ったけど、もしよかったらまた今度遊びにきてくれ」
「手伝いならお手柔らかに...」
そのとき、また鋭い視線を感じた。
「...木葉?」
「ラッシュさん、この前からずっと変な視線を感じるんだけど...誰かから恨まれてる?」
冗談半分本気半分でそんなことを訊いてみる。
すると、みるみるうちにラッシュさんの表情が曇っていく。
「それは多分、俺に対してじゃないな。...俺の責任ではあるが、人間ってやつは色々だな」
「どういうこと?」
「恐らくだが、あの視線は...」
その話を聞き終わった瞬間、いてもたってもいられなくなって七海のところへひたすら走る。
どうして気づけなかったのだろう。
いつも視線を感じるときは近くに彼女がいたのに、すぐに狙いを見抜けなかったのか...後悔ばかりが募っていく。
そのとき、目の前で鉄骨がばらばらと崩れていくのが目に入る。
その下では、ふたりの子どもが無邪気に遊んでいた。
「危ない!」
咄嗟にふたりを突き飛ばしてなんとか助ける。
よかった、ぎりぎり間に合った。
安心しきった僕は、そこで気を抜いてしまったのだ。
「お兄さん!」
ふたりは必死にてを伸ばしてくれたけれど、多分間に合わない。
もう駄目かもしれない...そう思った瞬間、左手首が光を放つ。
それは、昨日結んだばかりの七海からの贈り物だった。
「あれ、僕...」
どうやらかすり傷程度ですんだらしい。
周りの喧騒に、子どもたちの保護者の声、そして鉄骨を束ねていた業者からの謝罪...様々な声が遠くに聞こえるほどの疑問を持った。
...あの瞬間、どうして僕の体は宙に浮いたまま少しだけ前に進んだんだろうかと。
映画のように突き飛ばした勢いで転んだままの体勢で、しかも短時間での移動なんてどう頑張っても僕にはできない。
周りに大丈夫だからと伝えて、そのまま帰路につく。
──紐がちぎれたミサンガを、無意識のうちに左手で握りしめたまま。
「ごめん、滲みるよね」
七海の傷はまだ深いまま、なかなか塞がることがない。
薬を塗ったりガーゼを替える度、やっぱり申し訳なく感じる。
「ちょっとだけ出掛けてくるね。...誰か来ても絶対に出ないように」
「分かった。いってらっしゃい」
知り合いなら合鍵を持っている。
それなら、中から開けなくても入ってこられるはずだ。
やはりあの視線を七海も感じ取っていたらしいので、もしものときのことを考えてしばらくは買い物も控えてほしいとお願いした。
それに、ただでさえ僕のせいで無理をさせているのだ。
...体があまり強い方ではない七海にはあまり外に出てほしくない。
「ノワール、もし何かあったらすぐに知らせに来て。申し訳ないけどよろしくね」
ばさっと羽音がして、それが肯定の意味だとすぐに理解した。
「こんにちは...」
「おう、来たか。クレールを少し多めに仕入れておいた。それで...大丈夫なのか?」
七海は大丈夫なのかという意味も、きっと僕が眠そうだから大丈夫なのかという意味も含めての言葉なのだろう。
「ちょっと眠いけど大丈夫だよ。七海も元気そうだから、きっと大丈夫」
「それならよかった。疲れきってるんじゃないかと思ったけど、もしよかったらまた今度遊びにきてくれ」
「手伝いならお手柔らかに...」
そのとき、また鋭い視線を感じた。
「...木葉?」
「ラッシュさん、この前からずっと変な視線を感じるんだけど...誰かから恨まれてる?」
冗談半分本気半分でそんなことを訊いてみる。
すると、みるみるうちにラッシュさんの表情が曇っていく。
「それは多分、俺に対してじゃないな。...俺の責任ではあるが、人間ってやつは色々だな」
「どういうこと?」
「恐らくだが、あの視線は...」
その話を聞き終わった瞬間、いてもたってもいられなくなって七海のところへひたすら走る。
どうして気づけなかったのだろう。
いつも視線を感じるときは近くに彼女がいたのに、すぐに狙いを見抜けなかったのか...後悔ばかりが募っていく。
そのとき、目の前で鉄骨がばらばらと崩れていくのが目に入る。
その下では、ふたりの子どもが無邪気に遊んでいた。
「危ない!」
咄嗟にふたりを突き飛ばしてなんとか助ける。
よかった、ぎりぎり間に合った。
安心しきった僕は、そこで気を抜いてしまったのだ。
「お兄さん!」
ふたりは必死にてを伸ばしてくれたけれど、多分間に合わない。
もう駄目かもしれない...そう思った瞬間、左手首が光を放つ。
それは、昨日結んだばかりの七海からの贈り物だった。
「あれ、僕...」
どうやらかすり傷程度ですんだらしい。
周りの喧騒に、子どもたちの保護者の声、そして鉄骨を束ねていた業者からの謝罪...様々な声が遠くに聞こえるほどの疑問を持った。
...あの瞬間、どうして僕の体は宙に浮いたまま少しだけ前に進んだんだろうかと。
映画のように突き飛ばした勢いで転んだままの体勢で、しかも短時間での移動なんてどう頑張っても僕にはできない。
周りに大丈夫だからと伝えて、そのまま帰路につく。
──紐がちぎれたミサンガを、無意識のうちに左手で握りしめたまま。
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