109 / 258
隠暮篇(かくれぐらしへん)
綺麗なもの
しおりを挟む
目を開けると、目の前には整った寝顔があった。
「...!」
あまりの驚きで声を出してしまいそうになるけれど、できるだけ冷静になれるように努める。
(こんなに近くで寝顔を見たの、初めてかもしれない...)
後でちゃんと話をする...そう言ったのは私なのに、結局寝てしまっていたらしい。
顔を洗ったときにふと鏡に写る自分の姿を目にする。
首のあたりにあるそれをどう誤魔化そうかと思わず息が零れた。
手っ取り早く済ませられるのは絆創膏で隠すことだけれど、そうすると木葉が自分を責めてしまわないか不安になる。
(でも、ここだけファンデーションっていうのもおかしいよね...)
出掛けるとき以外はほとんど化粧をしない私にとって、今日だけメイクをすることの方が変だと感じた。
結局首のあたりに少し大きめの絆創膏をはって、冷蔵庫の食材とにらめっこする。
「...うん、決めた」
ホットケーキミックスを片手に、他の材料を入れて無言で準備をする。
いつもより起きるのが遅かったこともあって、時間がかかるものは作れそうになかった。
(...うん、こっちもいい感じに出来上がってる)
最近はそれを作るのに苦戦して、なかなか木葉と話す時間を作れなかったのだ。
その事を少し反省しながら、昼食とそれらのラッピングを仕上げる。
「...できた」
「何ができたの...?」
「木葉、いつから起きてたの?」
「ついさっき...」
本人は無自覚のようだけれど、時々気配を消して背後から近づかれるのは少し驚いてしまう。
「今日はホットケーキ?美味しそう...」
「メープルシロップとバター用意するね」
「ありがとう」
木葉は何故かそわそわしていて、私はそんな彼をじっと見つめてしまう。
何に慌てているのか、あるいは何か不安なことがあるのか...分からないことだらけだ。
「木葉、何かあるなら話して」
「別に大したことじゃないよ」
「...それは、大したことじゃないけど何か気になることがあるってことでしょ?」
木葉は口ごもっていたけれど、ゆっくりと話しはじめた。
「昨日はごめん。勢いよく噛んじゃったし、痛かったんじゃないかって思って...。
怪我もさせちゃったみたいだし、それに、最近ずっと避けられてるような気がしてたからどうしたのかなって」
俯く姿と本心に心が突き動かされて、思わず抱きしめる。
...私の態度が不安にさせてしまった。
それなら、それを消すのはきっと私の役目だ。
「ごめんね。最近作っていたものがあって...」
「作っていたもの?」
私は不格好なミサンガを手渡した。
「最近おかしな視線を感じたし、シェリを襲った犯人も見つかっていないから何かお守りになるものを作りたかったんだ。
...護ってもらってばかりいる気がして、それが嫌だった」
「七海...」
木葉だって素直で綺麗な心をぶつけてくれたのだから、私だってその気持ちを返したい。
これだけで何かできるとは思わないけれど、何もしないでいることなんてできなかった。
「ありがとう!早速身につけるね」
「不安にさせてごめん」
「ううん。七海が困っている訳じゃないならよかった」
木葉の心は本当に綺麗だ。
甘い蜂蜜と、バターが溶けるにおい。
それを感じながら、1度だけキスをした。
「...!」
あまりの驚きで声を出してしまいそうになるけれど、できるだけ冷静になれるように努める。
(こんなに近くで寝顔を見たの、初めてかもしれない...)
後でちゃんと話をする...そう言ったのは私なのに、結局寝てしまっていたらしい。
顔を洗ったときにふと鏡に写る自分の姿を目にする。
首のあたりにあるそれをどう誤魔化そうかと思わず息が零れた。
手っ取り早く済ませられるのは絆創膏で隠すことだけれど、そうすると木葉が自分を責めてしまわないか不安になる。
(でも、ここだけファンデーションっていうのもおかしいよね...)
出掛けるとき以外はほとんど化粧をしない私にとって、今日だけメイクをすることの方が変だと感じた。
結局首のあたりに少し大きめの絆創膏をはって、冷蔵庫の食材とにらめっこする。
「...うん、決めた」
ホットケーキミックスを片手に、他の材料を入れて無言で準備をする。
いつもより起きるのが遅かったこともあって、時間がかかるものは作れそうになかった。
(...うん、こっちもいい感じに出来上がってる)
最近はそれを作るのに苦戦して、なかなか木葉と話す時間を作れなかったのだ。
その事を少し反省しながら、昼食とそれらのラッピングを仕上げる。
「...できた」
「何ができたの...?」
「木葉、いつから起きてたの?」
「ついさっき...」
本人は無自覚のようだけれど、時々気配を消して背後から近づかれるのは少し驚いてしまう。
「今日はホットケーキ?美味しそう...」
「メープルシロップとバター用意するね」
「ありがとう」
木葉は何故かそわそわしていて、私はそんな彼をじっと見つめてしまう。
何に慌てているのか、あるいは何か不安なことがあるのか...分からないことだらけだ。
「木葉、何かあるなら話して」
「別に大したことじゃないよ」
「...それは、大したことじゃないけど何か気になることがあるってことでしょ?」
木葉は口ごもっていたけれど、ゆっくりと話しはじめた。
「昨日はごめん。勢いよく噛んじゃったし、痛かったんじゃないかって思って...。
怪我もさせちゃったみたいだし、それに、最近ずっと避けられてるような気がしてたからどうしたのかなって」
俯く姿と本心に心が突き動かされて、思わず抱きしめる。
...私の態度が不安にさせてしまった。
それなら、それを消すのはきっと私の役目だ。
「ごめんね。最近作っていたものがあって...」
「作っていたもの?」
私は不格好なミサンガを手渡した。
「最近おかしな視線を感じたし、シェリを襲った犯人も見つかっていないから何かお守りになるものを作りたかったんだ。
...護ってもらってばかりいる気がして、それが嫌だった」
「七海...」
木葉だって素直で綺麗な心をぶつけてくれたのだから、私だってその気持ちを返したい。
これだけで何かできるとは思わないけれど、何もしないでいることなんてできなかった。
「ありがとう!早速身につけるね」
「不安にさせてごめん」
「ううん。七海が困っている訳じゃないならよかった」
木葉の心は本当に綺麗だ。
甘い蜂蜜と、バターが溶けるにおい。
それを感じながら、1度だけキスをした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる