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隠暮篇(かくれぐらしへん)
醜い思い
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「七海、ちょっとだけ部屋に、」
「ごめん、あと少しだから待って」
原稿は終わったはずなのに、それから数日何故か七海が部屋に入れてくれない。
勿論プライベート空間は大切だ。
彼女のように他人の心理に敏感な特質を持っているなら尚更そうだというのは理解している。
だが、それにしても最近は異常だ。
疲れているからと入れてもらえないことはあっても、数日続けてというのは今までなかった。
「...ご飯、用意して待ってるね」
無理に出てきてもらうわけにはいかない。
その場は仕方なく引き下がったが、やはり納得はできなかった。
気づかないうちに傷つけてしまったのか、それとも僕が普通の人間ではないからか...とにかく自信がない。
「...ノワール、僕嫌われちゃったかな?」
自分でも驚くほど弱々しい声で尋ねてみると、ただ一言かあと鳴く。
それはまるで、自分で訊いてみろと言われているようだった。
「そうだね、そうしてみるよ...」
「何の話?」
「夕飯がもうすぐできるっていう話だよ。ねえ、ノワール」
ノワールはひと鳴きすると、どこかに飛んでいってしまった。
「夕飯、全部任せっきりでごめんね」
「ううん。元々交代で作ろうって話だったんだし、早く起きられないせいでいつもお昼ご飯を作ってもらってるから...これくらいはやらせてほしいな」
それからは特に気まずいということもなく、そのままご飯を食べ進める。
ただ、七海はなんだかぼんやりしていていつもより口数が少ない。
「疲れているなら早めに寝た方がいいよ」
「違うの、そうじゃなくて...」
「...そうじゃないなら、どうしたの?」
教えてほしいと視線を向けるが、七海は戸惑うように瞳を揺らすだけだった。
「ごめんね。...話したくないなら聞かないから」
少しだけ冷めたような言い方になってしまったことを後悔する。
だがもう遅い。...僕の瞳にうつる七海は哀しそうに笑った。
傷つけてしまった、僕の言い方が悪いのに...様々な思いの中、強い衝動が現れる。
「う...」
「木葉!?」
体が重くて立っていられず、その場にしゃがみこむ。
──今すぐ血が欲しい。
「来ないで!今、近寄られたら、」
「...放っておけるわけがない」
甘い香りと柔らかい体...そこまで知覚して、漸く抱きしめられていることに気づく。
「ごめんね。木葉を不安にさせたら意味なんてないのに...」
「お願い、離れ、」
「嫌だ。...私を噛んで」
しばらくクレールで喉の渇きを誤魔化し続けていたせいか、募った想いが爆発寸前だったからかは分からない。
ただひとつだけ分かるのは...異常な渇きに負けてしまったことだけだ。
「木葉、私を...離さないで」
「そんなことを言うのは、狡いよ...」
結局離してあげられずに、もう1度噛んでしまう。
「あの、ね...もう少し...それで、ちゃんと話を...」
「分かった。...ごめんね、それまで待ってるから」
疲れきった様子だった七海は、嬉しそうな笑みを浮かべて目を閉じた。
そのぬくもりを離したくなくてそのままソファーに横になる。
...穢れた欲望まで受け止めてくれる彼女を抱きしめたまま、その日は眠りについた。
「ごめん、あと少しだから待って」
原稿は終わったはずなのに、それから数日何故か七海が部屋に入れてくれない。
勿論プライベート空間は大切だ。
彼女のように他人の心理に敏感な特質を持っているなら尚更そうだというのは理解している。
だが、それにしても最近は異常だ。
疲れているからと入れてもらえないことはあっても、数日続けてというのは今までなかった。
「...ご飯、用意して待ってるね」
無理に出てきてもらうわけにはいかない。
その場は仕方なく引き下がったが、やはり納得はできなかった。
気づかないうちに傷つけてしまったのか、それとも僕が普通の人間ではないからか...とにかく自信がない。
「...ノワール、僕嫌われちゃったかな?」
自分でも驚くほど弱々しい声で尋ねてみると、ただ一言かあと鳴く。
それはまるで、自分で訊いてみろと言われているようだった。
「そうだね、そうしてみるよ...」
「何の話?」
「夕飯がもうすぐできるっていう話だよ。ねえ、ノワール」
ノワールはひと鳴きすると、どこかに飛んでいってしまった。
「夕飯、全部任せっきりでごめんね」
「ううん。元々交代で作ろうって話だったんだし、早く起きられないせいでいつもお昼ご飯を作ってもらってるから...これくらいはやらせてほしいな」
それからは特に気まずいということもなく、そのままご飯を食べ進める。
ただ、七海はなんだかぼんやりしていていつもより口数が少ない。
「疲れているなら早めに寝た方がいいよ」
「違うの、そうじゃなくて...」
「...そうじゃないなら、どうしたの?」
教えてほしいと視線を向けるが、七海は戸惑うように瞳を揺らすだけだった。
「ごめんね。...話したくないなら聞かないから」
少しだけ冷めたような言い方になってしまったことを後悔する。
だがもう遅い。...僕の瞳にうつる七海は哀しそうに笑った。
傷つけてしまった、僕の言い方が悪いのに...様々な思いの中、強い衝動が現れる。
「う...」
「木葉!?」
体が重くて立っていられず、その場にしゃがみこむ。
──今すぐ血が欲しい。
「来ないで!今、近寄られたら、」
「...放っておけるわけがない」
甘い香りと柔らかい体...そこまで知覚して、漸く抱きしめられていることに気づく。
「ごめんね。木葉を不安にさせたら意味なんてないのに...」
「お願い、離れ、」
「嫌だ。...私を噛んで」
しばらくクレールで喉の渇きを誤魔化し続けていたせいか、募った想いが爆発寸前だったからかは分からない。
ただひとつだけ分かるのは...異常な渇きに負けてしまったことだけだ。
「木葉、私を...離さないで」
「そんなことを言うのは、狡いよ...」
結局離してあげられずに、もう1度噛んでしまう。
「あの、ね...もう少し...それで、ちゃんと話を...」
「分かった。...ごめんね、それまで待ってるから」
疲れきった様子だった七海は、嬉しそうな笑みを浮かべて目を閉じた。
そのぬくもりを離したくなくてそのままソファーに横になる。
...穢れた欲望まで受け止めてくれる彼女を抱きしめたまま、その日は眠りについた。
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