ハーフ&ハーフ

黒蝶

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追暮篇(おいぐらしへん)

閑話『独りだった神様の話』・肆

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──あれからどのくらい経ったのだろう。
「...ごほごほ」
寂れた祠に汚れた装束。
そして、都合のいいときだけ呼び出す人間たち。
私が人間だった頃の記憶はほとんど残っていない。
「あの...大丈夫ですか?」
その目の前の少女には、私の姿が見えているようだった。
長らく人と話していなかった私にとって、彼女は女神のような存在だった。
いつも笑顔でいたけれど、怪我が多い子だったのを今でも覚えている。
「手当ては終わり。怪我をしないように気をつけて」
「ありがとうございます」
相当な力がなければ入れないはずなのに、彼女は普通に社を訪ねてくるようになった。
「そうだ、今日も作ってみたんです。一緒に食べませんか?」
彼女はいつも、お稲荷さんを持ってきてくれる。
それに、いつからか自分でやるようになっていた社の掃除も買って出てくれた。
「私、このお屋敷から出たことがないんです。だから...美桜さんは初めての友人です」
「初めての、友人...私もかもしれない」
あやかしものに小鳥たち、色々な存在と話をしてきたけれど人間の友人は生まれて初めてだったように思う。
屋敷から出られない私には、そんな存在もできずに一生を終えるのだと思っていたのに...それがこんなにも簡単で、こんなにも楽しいことだとは知らなかった。
時代は変わっているはずなのに、彼女はいつも私の遊びに合わせてくれている。
「あなたが好きなものをやってみたい」
「そうですね...これ、でしょうか」
それは、少し固そうなカードだった。
「本当は4,5人でやるのがいいみたいだけど、ふたりでもできないわけではないんです。よければやってみませんか?」
「やりたい。でも、これはどこで手に入れたの?」
「密輸ルートからです」
インターネットというとても便利なものを教えてくれて、それのなかにある通販という機能を使ったのだと悪戯っ子のように彼女は教えてくれた。
「負けない」
「花札では負けっぱなしだったから、これは頑張ります」
ふたりで暗くなるまで勝負して、また明日と約束をする。
ただお稲荷さんを食べながら話せているだけでも充分なのに、こんなにぬくもりをもらってもいいのだろうか。
そんなある日、とんでもないことが彼女を襲うことになる。
「おまえはこの家から出ていけ、疫病神!」
「...っ」
彼女は泣いていた。
なのに私と目が合った瞬間、心配をかけないように笑ったのだ。
その体はひとりで暮らすにはまだ幼く、余り屋敷から出られないということは世間についても疎いはず...。
こんな場所に縛られている場合じゃない。
そう思っていると、何故か体が動いていた。
「大丈夫、私も行くから」
「そんなことが、できるんですか?」
「できる。私は神様で、あなたの友人だから」
最初は私の力が欲しいのだと思っていたのに、いつの間にかいつも私の方が支えられていた。
最低限の道具と装束だけを持って、そのまま後をついていく。
こうしてあの家には神なんてものはいなくなったのだけれど、力ある者を失ったあの場所はどうなるだろうか。
...これから彼女の側にいる私には、関係のないことだけれど。
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