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追暮篇(おいぐらしへん)
懐かしい香り
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「七海は砂糖たっぷりがいい?」
「私、もう砂糖を入れなくてもちゃんと飲めるようになったよ...」
ティースプーンにこんもりと盛られた白い粉を見て、思わず笑ってしまう。
「七海は蜂蜜を入れたのも好きだよね?それも美桜さんが作ってくれたものなの?」
「風邪を引いたとき、ジンジャーエールに蜂蜜を混ぜて出してもらったことがあったから...」
美桜さんはどこか遠くへ思いを馳せたようにふっと柔らかい笑みを浮かべる。
「小さい七海は、とにかく甘いものが好きだった。...水飴が好きでよく作ってたのは覚えてる」
「確かに」
よくねだって困らせていたのはなんとなく覚えている。
それでも美桜さんはとても優しくしてくれて、文句ひとつ言わずに、私の我儘にも付き合ってくれた。
『美桜さん、そのボールはどうやって遊ぶの?』
『...一緒にやってみる?』
紙風船に鞠、お神楽や剣舞...そして、その合間をぬって色々なものを食べさせてもらえたのはすごく嬉しかった。
「小さい七海か、想像しただけで可愛い...」
「荷物の中にアルバムがあるから、今度一緒に見る?」
「ふたりとも、恥ずかしいから...」
木葉も美桜さんも笑っていて、やっぱり幸せだなと感じる。
「因みに今日もべっこう飴を作っておいた。...食べる?」
「僕ももらっていいの?」
「勿論。みんなで食べた方が美味しいから」
私が泣いて困らせたときやお神楽や剣舞が上達したとき、美桜さんからは必ずこの甘い香りがした。
「いただきます」
「美桜さん、ありがとう」
「私が作ったもの、あんまり美味しくないかもしれないけど...」
「僕、半分はちゃんと人間だから甘いもの好きなんだ。普通のヴァンパイアもそうだけど、基本的に何でも食べられるよ」
「それならよかった」
母が帰ってこられない日もずっと側にいてくれて、昔遊びで楽しませてくれたのを今なら鮮明に思い出せる。
辛いことの中に楽しいことは埋もれてしまう...昔誰かからそんな言葉を聞いたような気がするけれど、今ならそれも理解できているのかもしれない。
「あれから色々あったけど、頑張れたのはここでの思い出があるおかげ。
...ありがとう、美桜さん」
「お礼は言われ慣れていない。...彼女にも、今のあなたを見せたかった」
殺されてしまった母のことを言っているのだと、訊かなくてもすぐに分かる。
木葉も察してくれたようで、頬を緩めて美桜さんを真っ直ぐ見つめた。
「どんな反応をしたと思う?」
「...多分笑ってた。彼女はそういう人だったから」
懐かしい甘いにおいに、今は亡き母の姿を思い浮かべる。
朧気ではあるけれど、もしこの場にいたら確かに笑ってくれるような気がした。
「今夜は泊まっていけばいい。荷物は終わったし、夕食の支度をする」
「それ、僕にも手伝わせて」
「私もやる。3人でやればあっという間だよ」
「...なかなか賑やかになりそう」
私たちは今、同じような表情をしているだろう。
夜空の色にも負けないくらいに眩しく輝く、三日月のような灯りの笑顔を──。
「私、もう砂糖を入れなくてもちゃんと飲めるようになったよ...」
ティースプーンにこんもりと盛られた白い粉を見て、思わず笑ってしまう。
「七海は蜂蜜を入れたのも好きだよね?それも美桜さんが作ってくれたものなの?」
「風邪を引いたとき、ジンジャーエールに蜂蜜を混ぜて出してもらったことがあったから...」
美桜さんはどこか遠くへ思いを馳せたようにふっと柔らかい笑みを浮かべる。
「小さい七海は、とにかく甘いものが好きだった。...水飴が好きでよく作ってたのは覚えてる」
「確かに」
よくねだって困らせていたのはなんとなく覚えている。
それでも美桜さんはとても優しくしてくれて、文句ひとつ言わずに、私の我儘にも付き合ってくれた。
『美桜さん、そのボールはどうやって遊ぶの?』
『...一緒にやってみる?』
紙風船に鞠、お神楽や剣舞...そして、その合間をぬって色々なものを食べさせてもらえたのはすごく嬉しかった。
「小さい七海か、想像しただけで可愛い...」
「荷物の中にアルバムがあるから、今度一緒に見る?」
「ふたりとも、恥ずかしいから...」
木葉も美桜さんも笑っていて、やっぱり幸せだなと感じる。
「因みに今日もべっこう飴を作っておいた。...食べる?」
「僕ももらっていいの?」
「勿論。みんなで食べた方が美味しいから」
私が泣いて困らせたときやお神楽や剣舞が上達したとき、美桜さんからは必ずこの甘い香りがした。
「いただきます」
「美桜さん、ありがとう」
「私が作ったもの、あんまり美味しくないかもしれないけど...」
「僕、半分はちゃんと人間だから甘いもの好きなんだ。普通のヴァンパイアもそうだけど、基本的に何でも食べられるよ」
「それならよかった」
母が帰ってこられない日もずっと側にいてくれて、昔遊びで楽しませてくれたのを今なら鮮明に思い出せる。
辛いことの中に楽しいことは埋もれてしまう...昔誰かからそんな言葉を聞いたような気がするけれど、今ならそれも理解できているのかもしれない。
「あれから色々あったけど、頑張れたのはここでの思い出があるおかげ。
...ありがとう、美桜さん」
「お礼は言われ慣れていない。...彼女にも、今のあなたを見せたかった」
殺されてしまった母のことを言っているのだと、訊かなくてもすぐに分かる。
木葉も察してくれたようで、頬を緩めて美桜さんを真っ直ぐ見つめた。
「どんな反応をしたと思う?」
「...多分笑ってた。彼女はそういう人だったから」
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朧気ではあるけれど、もしこの場にいたら確かに笑ってくれるような気がした。
「今夜は泊まっていけばいい。荷物は終わったし、夕食の支度をする」
「それ、僕にも手伝わせて」
「私もやる。3人でやればあっという間だよ」
「...なかなか賑やかになりそう」
私たちは今、同じような表情をしているだろう。
夜空の色にも負けないくらいに眩しく輝く、三日月のような灯りの笑顔を──。
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