ハーフ&ハーフ

黒蝶

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追暮篇(おいぐらしへん)

閑話『俺たちの話』

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なんとなく気まずい空気が流れるなか、ゆっくりと車のスピードをあげていく。
「七海、眠かったら寝てて」
「ごめん、そうさせてもらうね...」
木葉にもたれかかるお嬢さんの姿に、少しだけ懐かしさがこみあげてくる。
忘れてしまったはずの感情で満たされていくのを感じていると、助手席に座った美桜に声をかけられる。
「ふたりきりにしてあげたかった」
「それは同感だな」
然り気無くボタンを押し、カーテンを閉め切る。
「こんなふうに仕切れるの、知らなかった」
「この程度しかできないのが申し訳ないがな」
「でも、ふたりはきっとお礼を言う」
ほとんど物事に反応を示さなかった人柱の少女が、感情を露にするようになっている。
大きな倉のような場所に閉じこめられていた彼女は、いつから自由になったのだろうか。
「アイリーンはもういないの?」
「...あいつは人間だからな」
「そう...」
しばらく走らせたところで、隣から向けられる視線に気づく。
「どうかしたのか?」
「...昔のことを思い出して、辛くならないの?」
「おまえには神様になってから大切な人間ができたんだったな」
「彼女は大切な友だちだった」
「...そうか」
その友人の命がある日突然奪われ、それまで持っていたものほとんど全てを失う。
それがどれ程のものか、俺はよく知っている。
だが、あいつが死んだときはそんなものではなかった。
『頼む、こいつの病を祓ってくれ』
『...なんでもくれる?』
『俺が持っているものなら』
ある家の倉にあった言い伝えどおり、そこに神はいた。
代償が必要とは知らなかったが、それでもいいと本気で覚悟だけは決めていたのだ。
『それなら、あなたの足をもらうわ』
アイリーンの為なら何だって差し出そうと決めていた俺は、その質問に頷いた。
『駄目だよ、ラッシュ...』
異国の血が半分流れているから、そんなくだらない理由で人間とほとんど繋がりを持てなかった彼女を助けたかった。
咳こむ彼女の背中をさすったとき、目の前で正座していた神は笑って淡々と告げる。
『嘘。何も取ったりしないし、ちゃんと治してあげる』
まさかそんな会話を交わした相手が隣に座っているなんて、誰か予想できただろうか。
「...ミシンは、あなたが持っているの?」
「俺だって服屋だからな。そもそも、なんでミシンのことを知ってるんだ?」
「朝になってあなたが寝ている間に、彼女が話を聞かせてくれた。
...自分にとっては唯一の人だって」
目に熱いものがこみあげてきて、俺はただそうかと呟くのがせいいっぱいだった。
アイリーンは、俺と過ごして幸せだっただろうか。
生まれ変わっても必ずふたりで恋に落ちると約束したあの瞬間を忘れたことなど1日もない。
「あのときもらえなかった代償、今もらってもいい?」
「何をすればいい?」
「私が人間だったことを、七海は知らない。木葉には気づかれてしまったけど、黙ってくれている。
だから、その...」
「言いたいことは分かった。...いつかおまえのタイミングで話してやれよ?」
小さく頷く姿を横目で見、そのまま更に車をはしらせる。
空には月が浮かんでいて、まだまだ長い夜になる予感がした。
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