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追暮篇(おいぐらしへん)
閑話『俺たちの話』・弐
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「...もう少し、あなたの話を聞きたい」
「寝なくても平気なのか?」
今は神とはいえ、元は人間だ。
人柱から神になりそのまま生き続けている存在なんて、今隣に座っている奴以外に知らない。
大半は失敗してしまう、呪いも同然の儀式...詳しいことまでは分からないが、それがどれだけ残酷なものだったかを想像することはできる。
「あのあと、あいつはまあまあ生きた。...本当なら1ヶ月持たないと言われていた体が10年持ったんだからな」
「そう。悪いことをしたのかと思っていたけど、幸せだったなら安心した。
それに、私のことは約束どおり誰にも話さないでいてくれたんでしょう?」
『助けてもらったのに、何もしないのは申し訳ないです。私にできることはありませんか?』
アイリーンがそんな言葉を告げたときは正直動揺した。
下手をすれば一生相手に縛られるかもしれない状況で、真剣にそんなことを話す彼女は強かったのだろう。
『それなら、私の存在は他言無用。それだけ守って』
『分かりました』
『俺も誓って話したりしない』
他の人間が聞けば、そんな些細な約束でと言われてしまうかもしれない。
だが、神は疲れきっていた。
ほとんど廃墟も同然の、社とは呼べない姿。
そんな場所で力を使い続ければどうなるのか...少し考えればすぐ分かることだった。
「あのときの約束、守ってくれてありがとう」
「おまえ、そんなことまで分かるのか?」
「...一応は」
「すごいな」
「こんなのでも神だから」
こうして話しているとただの女性にしか見えないのが不思議だ。
大抵近寄りがたい雰囲気を纏っているものだとばかり思っていたが、こいつにはそれがない。
やはり、人柱から神になったからということなのだろうか。
「アイリーンはどうなったの?」
「...そんなに聞きたいか?」
「教えてほしい。私が病を祓うのを失敗していたのかもしれないし、あの人は優しかったから」
「あいつは死んだ。...殺されたんだ」
『今日はラッシュの誕生日だね』
『そんなものよく覚えてたな』
アイリーンとふたり、決して裕福とはいえないが貧困でもない生活。
ふたりでオーダーメイドの服を作り、それを売ったり靴磨きをしたり...そうやって幸せに暮らせていたように思う。
その日は雪が降っていて、俺はどうしても今夜届けてほしいという客のところへ配達に行かなければならなかった。
『すぐ帰ってくるけど、ちゃんと戸締まりしておけよ?鍵は持って出るから心配するな』
『分かった。いってらっしゃい、気をつけてね』
それが最期の会話になると、誰が予想できたものか。
「...そうしてあなたが帰ったら、彼女は死んでいた?」
「いや。まだ息があったが、それからすぐ手が届かないところまで逝った」
『...約束よ』
『約束するから、まだ行かないでくれ!』
その声虚しく、結局救うことはできなかった。
「警察が捜査をろくに行わず、折角捕まえた犯人は無罪放免になったんだ。まともに取り合わなかった理由は、相手が権力者だったから。
...馬鹿馬鹿しいだろ?命が失われた事実より、自らの保身を取ったんだ」
家財や衣服、その他諸々は荒らされていて...今も目を閉じれば思い出す。
いつも仕事で使っていた小道具たちが散らばっていて、手元に残ったのは大破したミシンと1枚の絵だけだった。
「俺の話ばかりじゃ割りに合わない。あそこからどうやって出たのかだけでいいから教えてくれ」
「...分かった」
まだまだ道のりは遠い。
明けない夜はあるのだと、灰暗い思考が頭を過るのを止められない。
ハンドルを握りなおしてみたものの、苦い記憶はやはり消えてはくれなかった。
「寝なくても平気なのか?」
今は神とはいえ、元は人間だ。
人柱から神になりそのまま生き続けている存在なんて、今隣に座っている奴以外に知らない。
大半は失敗してしまう、呪いも同然の儀式...詳しいことまでは分からないが、それがどれだけ残酷なものだったかを想像することはできる。
「あのあと、あいつはまあまあ生きた。...本当なら1ヶ月持たないと言われていた体が10年持ったんだからな」
「そう。悪いことをしたのかと思っていたけど、幸せだったなら安心した。
それに、私のことは約束どおり誰にも話さないでいてくれたんでしょう?」
『助けてもらったのに、何もしないのは申し訳ないです。私にできることはありませんか?』
アイリーンがそんな言葉を告げたときは正直動揺した。
下手をすれば一生相手に縛られるかもしれない状況で、真剣にそんなことを話す彼女は強かったのだろう。
『それなら、私の存在は他言無用。それだけ守って』
『分かりました』
『俺も誓って話したりしない』
他の人間が聞けば、そんな些細な約束でと言われてしまうかもしれない。
だが、神は疲れきっていた。
ほとんど廃墟も同然の、社とは呼べない姿。
そんな場所で力を使い続ければどうなるのか...少し考えればすぐ分かることだった。
「あのときの約束、守ってくれてありがとう」
「おまえ、そんなことまで分かるのか?」
「...一応は」
「すごいな」
「こんなのでも神だから」
こうして話しているとただの女性にしか見えないのが不思議だ。
大抵近寄りがたい雰囲気を纏っているものだとばかり思っていたが、こいつにはそれがない。
やはり、人柱から神になったからということなのだろうか。
「アイリーンはどうなったの?」
「...そんなに聞きたいか?」
「教えてほしい。私が病を祓うのを失敗していたのかもしれないし、あの人は優しかったから」
「あいつは死んだ。...殺されたんだ」
『今日はラッシュの誕生日だね』
『そんなものよく覚えてたな』
アイリーンとふたり、決して裕福とはいえないが貧困でもない生活。
ふたりでオーダーメイドの服を作り、それを売ったり靴磨きをしたり...そうやって幸せに暮らせていたように思う。
その日は雪が降っていて、俺はどうしても今夜届けてほしいという客のところへ配達に行かなければならなかった。
『すぐ帰ってくるけど、ちゃんと戸締まりしておけよ?鍵は持って出るから心配するな』
『分かった。いってらっしゃい、気をつけてね』
それが最期の会話になると、誰が予想できたものか。
「...そうしてあなたが帰ったら、彼女は死んでいた?」
「いや。まだ息があったが、それからすぐ手が届かないところまで逝った」
『...約束よ』
『約束するから、まだ行かないでくれ!』
その声虚しく、結局救うことはできなかった。
「警察が捜査をろくに行わず、折角捕まえた犯人は無罪放免になったんだ。まともに取り合わなかった理由は、相手が権力者だったから。
...馬鹿馬鹿しいだろ?命が失われた事実より、自らの保身を取ったんだ」
家財や衣服、その他諸々は荒らされていて...今も目を閉じれば思い出す。
いつも仕事で使っていた小道具たちが散らばっていて、手元に残ったのは大破したミシンと1枚の絵だけだった。
「俺の話ばかりじゃ割りに合わない。あそこからどうやって出たのかだけでいいから教えてくれ」
「...分かった」
まだまだ道のりは遠い。
明けない夜はあるのだと、灰暗い思考が頭を過るのを止められない。
ハンドルを握りなおしてみたものの、苦い記憶はやはり消えてはくれなかった。
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