ハーフ&ハーフ

黒蝶

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追暮篇(おいぐらしへん)

赦してほしい我儘

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「木葉、今日はお仕事が休みなんじゃ、」
「...ごめん。何も聞かずに一緒に来てくれる?」
今夜僕は、ある作戦を実行する。
七海には何も話せない。
巻きこんでしまうのが怖いというのが半分、平穏な生活を楽しんでほしいというのが半分だ。
「...危ないことはしない?」
「無理はしないから心配しないで」
笑顔はひきつらなかったか、自然な立ち振る舞いができたか...様々なことが気になってしまう。
「準備できた?」
「い、一応は...」
「それじゃあ行こうか」
ラッシュさんのお店に連絡を入れ、そのままいつものようにバスに乗る。
他愛のない話をして誤魔化しながら、なんとか辿り着くことができた。
「ラッシュさんのお店...?」
「注文しておいたものができるはずだから、ついでに来たんだ」
「おう、ふたりとも来たか」
ラッシュさんはいつもどおりに振る舞ってくれたが、その視線は僕にだけ分かるように鋭くなっていた。
本当なら美桜さんのところに七海を預けた方がよかったのかもしれない。
だが、もしようやく安寧を得た美桜さんが人間に見つかればただでは済まないだろう。
「...!」
「ラッシュさん、奥の部屋を借りてもいいですか?」
「ああ、勿論だ」
最近クレールの本数を減らしていたからか、欲求が限界まで高まってしまった。
歯を食い縛ったものの、残念なことに七海にはお見通しのようだ。
「木葉」
「ごめん、限界みたい...」
痛くないように、ただいつもよりも深く牙を刺す。
「は...」
「痛いよね...すぐ終わらせるから」
その一点に集中して貪るように吸血を繰り返す。
くたりと力が抜けたところで牙を抜き、近くに用意されていた簡易ベッドに七海を寝かせる。
「木、葉...」
「大丈夫だから、そのままゆっくり休んでて」
噛み痕が残らないように気をつけつつ、その箇所にそっと口づける。
そして笑顔を向け、七海が眠るのを待つ。
疲れていたのか、穏やかな寝息が聞こえてくるまでに時間はかからなかった。
「...七海。何があっても僕はちゃんと君の隣に帰ってくるから。
だから...今はごめんね」
それだけ告げ、独り扉を開ける。
背を向けた途端に苦い思いがこみあげてきたが、それを何とか抑えラッシュさんのところに走った。
「...本当にひとりで行くのか」
「僕、ちゃんと強くなったから大丈夫だよ。だからね、ラッシュさん...」
そのまま勢いよく頭を下げる。
「七海のこと、お願いします」
「...何かあったらすぐに連絡しろ」
「ありがとう」
僕は今夜、敵地に向かう。
七海を狙う理由...それをシェリを襲った一味に訊きに行かなくてはならない。
空には巨大な雲がはびこっていて、月が覆い隠されてしまっていた。
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