ハーフ&ハーフ

黒蝶

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追暮篇(おいぐらしへん)

どうしても伝えたい気持ち

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「...ごめん、かっこ悪くて」
「ううん。素直な気持ちが聞けて嬉しかった。でも...何もできなくてごめん」
七海はいつもどこかで自分を責めている。
今回のことだって何も間違ったことはしていないのに、傷だらけの彼女は自分の姿を見ては溜め息を吐いていた。
だからこそ、今はっきりと言葉にしなければならないことがある。
「色々なことが突然で混乱してるけど、ひとつだけはっきりしてることがあるよ」
「はっきりしてること?」
あまりの無力さに泣いてしまった後、僕はそれだけは伝えようと心に決めていた。
彼女の優しい心まで抱きしめたくてそっと頬に手を伸ばす。
「...七海はどんな姿になっても七海だから、僕は絶対に嫌いになんてならないよ」
七海はいつかの僕に、どんな姿になっても好きだという気持ちは変わらないと言ってくれた。
それは僕だって同じだ。
たとえ父親を殺したのが人間であったとしても、彼女への想いは絶対に変わらない。
そもそも彼女とは無関係の人間の話で、それが嫌いになる理由になることなどあり得ない話だ。
「木葉はやっぱり、優しいね」
「そんなことないよ。七海はいつも僕に優しくしてくれるし、本当に親切だから...」
照れくさくなってくるような会話をしながら、そういえばと話を切り出す。
「あのときの舞ってどんなものだったの?」
「あれは、攻撃的なものから護る為のもので...」
七海によると、小さい頃に美桜さんから習ったものらしい。
ここ数年はきちんと練習していたとはいえないと話していたが、あのときの威力は凄まじかった。
「それなのに、あんなにすごいものを繰り出せたの?」
「すごい...?」
やはり彼女は無自覚なようだ。
そのことに内心苦笑しながら、もう1度抱きしめなおす。
「木葉?」
「家のことは僕がやるから心配しないで」
「でも、」
「しばらく安静にしないといけないんだから、働きすぎた分たまには休んで」
彼女は重傷だ。
3階の窓から飛び降りて僕を追いかけてきたり、そのあと銃で撃たれたり...。
それ以前に舞った時点で体力はかなり持っていられてしまっているはずなのに、その疲れを感じさせないように振る舞っているのは見ただけで分かる。
「話、最後まで聞いてくれてありがとう。少し眠った方がいいよ」
「それじゃあ、木葉も隣にいてくれる?」
「...勿論」
一緒に寝てと言わないところが七海らしい。
夜は目が冴えて、それだけはどうしても叶えてあげられそうにないのだ。
「おやすみ」
「...おやすみなさい」
その夜、星空のしたで七海はぐっすり眠っていた。
自分がいつどうやって眠ったのかは覚えていないが、とても幸せな気分だったのは間違いない。
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