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追暮篇(おいぐらしへん)
ただ助けになりたくて
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「...痛む?」
「少しだけ」
夜、一部の怪我の包帯を少しずつ換えていく。
元々、僕のせいで負わせてしまった傷だ。
どんなに小さなことでもいいから力になりたかった。
「終わったよ」
「ありがとう。木葉は本当に手当てが上手だね」
七海は沢山ありがとうをくれるようになった。
ずっと申し訳なさそうにしていたのが嘘みたいに、ありがとうの花束をくれる。
「お礼を言うのは僕の方だよ」
「え?」
「今日だけで沢山ありがとうって言ってくれてありがとう。すごく元気をもらったよ」
「私は、当たり前のことを言っただけだから...」
他に何ができるだろう、そんなことを考えながら救急箱を片づける。
そうこうしているうちに、七海は疲れていたのか眠ってしまっていた。
...僕は早く起きることはできない。
だが、この方法ならどうだろう。
もしかすると、彼女の負担を少しは減らせるかもしれない。
「...よし」
七海を布団に寝かせ、いつもより広く感じるキッチンでひたすら具材を切り刻む。
独りだった頃はこんなふうに感じたことさえなかったのに、諸事情あってはじまったこの生活が今はこんなにも愛しい。
自分の中でどんどん大きくなっていくのを感じつつ、ただひたすらに汁物を作る。
他にも卵焼きや焼き魚、きんぴらごぼう...素朴ではあるが、なんとか完成させた。
《もしよかったら温めて食べてください。他に困ったことがあったら遠慮せずに起こしてね》
ひとくちメモにそんな言葉を残して、クレールを一気に煽る。
本当は若干渇きが酷くなってきているが、今の状況でそんなことを話せるはずがない。
いっそ寝てしまおうとそっと目を閉じる。
七海の様子は気になるものの、見に行って起こしてしまっては意味がない。
空に浮かぶ星を満喫しながら、いつの間にか眠りに落ちていた。
...翌日、まだ重い体を起こす。
本当はもう少し寝ていたかったが、それではきっと彼女はなんでも自分だけでやろうとしてしまうだろう。
「おはよう...」
キッチンに向かうと、丁度七海が食べているところだった。
彼女は僕をじっと見つめた後、ぽつりと呟く。
「...もしかしてなくても、夜作っておいてくれたんだね」
「ごめん。本当はできたてのものを食べてほしいって思ったんだけど...もしかして不味かった?」
「ううん。すごく美味しい。すごく助かったよ。...本当にありがとう」
その表情は僕が1番見たかった笑顔で、とにかくほっとした。
少しずつでいい、こうやってできることをして穏やかな時間を取り戻していこう。
そんなことを内心考えながら、いつもの席に座る。
「それじゃあ、僕も食べようかな」
「ふたりで食べるときっと美味しいよ」
その日のご飯はたしかにいつもより美味しいような気がして、とても穏やかな気持ちで過ごせた。
「少しだけ」
夜、一部の怪我の包帯を少しずつ換えていく。
元々、僕のせいで負わせてしまった傷だ。
どんなに小さなことでもいいから力になりたかった。
「終わったよ」
「ありがとう。木葉は本当に手当てが上手だね」
七海は沢山ありがとうをくれるようになった。
ずっと申し訳なさそうにしていたのが嘘みたいに、ありがとうの花束をくれる。
「お礼を言うのは僕の方だよ」
「え?」
「今日だけで沢山ありがとうって言ってくれてありがとう。すごく元気をもらったよ」
「私は、当たり前のことを言っただけだから...」
他に何ができるだろう、そんなことを考えながら救急箱を片づける。
そうこうしているうちに、七海は疲れていたのか眠ってしまっていた。
...僕は早く起きることはできない。
だが、この方法ならどうだろう。
もしかすると、彼女の負担を少しは減らせるかもしれない。
「...よし」
七海を布団に寝かせ、いつもより広く感じるキッチンでひたすら具材を切り刻む。
独りだった頃はこんなふうに感じたことさえなかったのに、諸事情あってはじまったこの生活が今はこんなにも愛しい。
自分の中でどんどん大きくなっていくのを感じつつ、ただひたすらに汁物を作る。
他にも卵焼きや焼き魚、きんぴらごぼう...素朴ではあるが、なんとか完成させた。
《もしよかったら温めて食べてください。他に困ったことがあったら遠慮せずに起こしてね》
ひとくちメモにそんな言葉を残して、クレールを一気に煽る。
本当は若干渇きが酷くなってきているが、今の状況でそんなことを話せるはずがない。
いっそ寝てしまおうとそっと目を閉じる。
七海の様子は気になるものの、見に行って起こしてしまっては意味がない。
空に浮かぶ星を満喫しながら、いつの間にか眠りに落ちていた。
...翌日、まだ重い体を起こす。
本当はもう少し寝ていたかったが、それではきっと彼女はなんでも自分だけでやろうとしてしまうだろう。
「おはよう...」
キッチンに向かうと、丁度七海が食べているところだった。
彼女は僕をじっと見つめた後、ぽつりと呟く。
「...もしかしてなくても、夜作っておいてくれたんだね」
「ごめん。本当はできたてのものを食べてほしいって思ったんだけど...もしかして不味かった?」
「ううん。すごく美味しい。すごく助かったよ。...本当にありがとう」
その表情は僕が1番見たかった笑顔で、とにかくほっとした。
少しずつでいい、こうやってできることをして穏やかな時間を取り戻していこう。
そんなことを内心考えながら、いつもの席に座る。
「それじゃあ、僕も食べようかな」
「ふたりで食べるときっと美味しいよ」
その日のご飯はたしかにいつもより美味しいような気がして、とても穏やかな気持ちで過ごせた。
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