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遡暮篇(のぼりぐらしへん)
閑話『独りだった神様の話』・壱
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「おお、やっと生まれたぞ!」
「可愛い子ねえ...」
そんな言葉を最後に聞いたのはいつだろう。
ある夫婦の間に、待望の子どもができた。
けれど、その子は残念ながら女の子だったのだ。
...女児は跡取りになれない。
古くさい家の、昔からよくある話だ。
「おかあさん、あそこに何かいるよ」
「あれは小さな妖精さんね。あれが視えるの?」
「うん!」
「...お母さんとの秘密にしましょう」
3つだったか、4つだったか。
そのときに私は母と約束した。
遠い記憶ではあるけれど、どうやら愛されていたらしい。
...そう、母親には。
それからそんなに経たないうちに、母は病に倒れ死んでしまった。
「おまえは今日からここの当番だ。炊事に洗濯、何でも励めよ」
滅多に帰ってこなかった父親の側には、知らない女性が立っていた。
そして、私より年上の女の子の召し遣いとして働くことになったらしい。
母親が恋しくても、どんな嫌がらせをされても、私は決して泣かなかった。
...今思うと、この頃から少しずつおかしくなっていたのかもしれない。
「おまたせしました」
「もっとお茶はいいものがあるはずでしょ!?」
「それはお客様用で、」
「いいからこの私に持ってきなさい!この子と夫の分もよ!」
「...分かりました」
無関心な父親、ほくそ笑む女、そしてその子ども。
私が大切にしていた鞠や髪飾り、ぬいぐるみが少しずつ部屋から消えていく。
誰にも相手にされず、ただ孤独な日々。
何故私は生きているのかと、1度だけ死のうとしたことがある。
...こんなときだけは止めに来る家の人間が不思議だった。
そんなとき、久しぶりに外に出ることを許された私は母とふたりでよく訪れていた場所にたどり着く。
「お母さん...」
誰も見ていないのだからと、そこでだけは涙を零す。
がさがさと音がして顔をあげると、そこには小さな狐がいた。
「白い、狐...怪我してるね」
洋服を破り、それをそのまま包帯の代わりにして巻いていく。
「ごめんなさい。消毒液は持っていないからこのくらいしかできなくて...」
「充分です。ありがとう」
まさか答えが返ってくるとは思っていなかった私は、ただ呆然とその場に立ち尽くす。
「あなたは神子ではないのね」
「みこ...?」
「いいえ、こちらの話です。助けていただいて感謝します。でも、力のことは伏せておいた方がいいでしょう」
「お母さんにも言われたことがあるの。...もう死んじゃったけど。
これは、普通の人にはできないことなんですか?」
その白狐は哀しげに話してくれた。
「他のものが退化してしまったのでしょう。...私が視えるのは、今となっては珍しいことなのです」
上手く隠してきたけれど、この会話を見た人間がいることに私たちは気づいていなかった。
「あの子は何をしているの?まさか、神子のあたしに視えないものが何かあるのかしら。
...早々に何とかしなくては」
「可愛い子ねえ...」
そんな言葉を最後に聞いたのはいつだろう。
ある夫婦の間に、待望の子どもができた。
けれど、その子は残念ながら女の子だったのだ。
...女児は跡取りになれない。
古くさい家の、昔からよくある話だ。
「おかあさん、あそこに何かいるよ」
「あれは小さな妖精さんね。あれが視えるの?」
「うん!」
「...お母さんとの秘密にしましょう」
3つだったか、4つだったか。
そのときに私は母と約束した。
遠い記憶ではあるけれど、どうやら愛されていたらしい。
...そう、母親には。
それからそんなに経たないうちに、母は病に倒れ死んでしまった。
「おまえは今日からここの当番だ。炊事に洗濯、何でも励めよ」
滅多に帰ってこなかった父親の側には、知らない女性が立っていた。
そして、私より年上の女の子の召し遣いとして働くことになったらしい。
母親が恋しくても、どんな嫌がらせをされても、私は決して泣かなかった。
...今思うと、この頃から少しずつおかしくなっていたのかもしれない。
「おまたせしました」
「もっとお茶はいいものがあるはずでしょ!?」
「それはお客様用で、」
「いいからこの私に持ってきなさい!この子と夫の分もよ!」
「...分かりました」
無関心な父親、ほくそ笑む女、そしてその子ども。
私が大切にしていた鞠や髪飾り、ぬいぐるみが少しずつ部屋から消えていく。
誰にも相手にされず、ただ孤独な日々。
何故私は生きているのかと、1度だけ死のうとしたことがある。
...こんなときだけは止めに来る家の人間が不思議だった。
そんなとき、久しぶりに外に出ることを許された私は母とふたりでよく訪れていた場所にたどり着く。
「お母さん...」
誰も見ていないのだからと、そこでだけは涙を零す。
がさがさと音がして顔をあげると、そこには小さな狐がいた。
「白い、狐...怪我してるね」
洋服を破り、それをそのまま包帯の代わりにして巻いていく。
「ごめんなさい。消毒液は持っていないからこのくらいしかできなくて...」
「充分です。ありがとう」
まさか答えが返ってくるとは思っていなかった私は、ただ呆然とその場に立ち尽くす。
「あなたは神子ではないのね」
「みこ...?」
「いいえ、こちらの話です。助けていただいて感謝します。でも、力のことは伏せておいた方がいいでしょう」
「お母さんにも言われたことがあるの。...もう死んじゃったけど。
これは、普通の人にはできないことなんですか?」
その白狐は哀しげに話してくれた。
「他のものが退化してしまったのでしょう。...私が視えるのは、今となっては珍しいことなのです」
上手く隠してきたけれど、この会話を見た人間がいることに私たちは気づいていなかった。
「あの子は何をしているの?まさか、神子のあたしに視えないものが何かあるのかしら。
...早々に何とかしなくては」
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