ハーフ&ハーフ

黒蝶

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遡暮篇(のぼりぐらしへん)

閑話『独りだった神様の話』・参

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「ありがとうございます!」
はじめはその言葉が単純に嬉しかったけれど、今となっては利用されていることに対して虚無にしかなれない。
扉が閉じられたところで、部屋にあるいくつかの道具を見つめる。
そしてそのなかで1番手近な包丁を握りしめた。
その刃は確かに体を貫いたはずなのに、何故か痛みを感じない。
「...どうしてこのまま死なせてくれないの」
独りで気が狂いそうになるなか、いつかの白狐が姿を現す。
「人間は恐ろしいものですね。力のことは隠しきれなかったのですか?」
「誰かに見られていたみたい。...でももうどうでもいい」
そう、終わってしまったことだ。
しばらくすると扉が強く叩かれる。
「...ここにいて」
白狐を部屋の奥に隠し、そのまま扉を開ける。
そこに立っていたのは父親だった人間と私を蔑んだ女、それから怪我を負った子どもだった。
「美桜、早く治しなさい」
「...」
嫌に決まっている。
そんなことをしたところで一体何があるというのか。
ましてや、自分たちの行動をちっとも悪いと思っていないのに困ったときだけ治せなどと都合がよすぎる。
「早くやりなさい!」
「...どうして私に言うの?お医者様に診せれば治る」
「ふざけないで!」
殴られそうになった瞬間、いつの間にか白狐が私の前に立ちはだかっていた。
「ここはあなたがたのような乱暴者がくるところではありません。──去りなさい」
その場に突風が吹き出した瞬間、悲鳴をあげて立ち去っていく。
「...本当にあなたのことが見えていないんだね」
「普通の人間には視えませんから」
「...そう」
しばらくは落ち着いた暮らしができた。
白狐と花札をしたり、誰も掃除しにこない社の回りを箒で掃いたり...それだけでよかったのに、どうしてこんなことになってしまうのか。
「おきつね、さん...」
正しい祀られ方をしなくなった彼女は、邪悪な気配を纏ったまま暴走してしまった。
そして最終的には人間によって祓われてしまったのだ。
「これが神子の力よ!」
威張る女の姿にただ殺意を覚える。
...皆殺しにできるほどの力が自分にあることは分かっていたけれど、それよりも小さくてもいいからお墓を作りたい。
「神聖な神子の怪我を治しなさい。...あんたは神なんだから」
何も考えなければ楽かもしれない。
もうどうでもいい、どうせここからは逃げられないのだから...。
『また一緒にお稲荷さんを食べましょうね』
白狐の言葉を思い出しながら、やっと静かになったその場で呟く。
「...嘘つきは嫌い」
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