ハーフ&ハーフ

黒蝶

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遡暮篇(のぼりぐらしへん)

魔法の料理

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目を開けると、飛びこんできたのはお昼前の景色だった。
「ごめん、相変わらず朝は苦手で...」
「おはよう」
七海の声にはいつものような元気さが感じられない。
おはようと返すと、奥の部屋から美桜さんが少し慌てた様子で出てきた。
「私は気にしない。...それより、このままだと天気が崩れるから早めに降りた方がいい。また遊びに来て」
「あ、うん。ありがとう」
七海は準備に時間がかかるからと先に部屋を出てしまう。
僕も後に続こうとすると、美桜さんから1枚の紙を受け取った。
七海を元気にできるのは僕だからと、折り畳まれたぼろぼろのそれを預けてくれたのだ。
「七海、大丈夫?」
「うん。...ごめんね」
「謝らないで。悪いことをした訳じゃないんだから」
力なく頷く彼女はやはりいつもより暗い表情で、このままでは倒れてしまうのではと不安になる。
だからこそ、僕にできることならどんなことでもやってみよう。
七海をソファーに座らせ、そっと紙を開いてみる。
そこに記されていたのは、ある料理のレシピだった。
「...ちょっと待っててね」
材料は揃っていそうだし、なんとか再現できそうだ。
人の想い出を完璧にというわけにはいかないだろうが、きっとやってみることに意味がある。
「...できた」
まさかこんな簡単にふわふわのオムレツができるとは思わなかった。
それにデザートやスープ、サラダを添えて七海を椅子に座らせる。
「ご飯も炊きたてだから、きっと美味しいよ」
「ありがとう。...いただきます」
ほぼ無表情で咀嚼していた七海がだんだん驚いたような様子を見せはじめる。
「この味、どうして...」
「ある人に教えてもらったんだ。きっと元気になるからって」
こう話しても、彼女ならきっと相手が誰なのかすぐに察知しているだろう。
オムレツを何口か食べて、ほろりと涙を零す。
「...お母さんの、味がする。いつもご褒美にって作ってくれて、留守番できて偉いねって言ってくれたのは...なんとなく覚えてる」
「こっちのもきっと覚えがある味なんじゃないかな?」
「ドーナツ...いつも素朴なプレーンで、でもかりかりふわふわで美味しかった」
七海は一口一口噛みしめるように、ゆっくりと食事を進めていく。
自分で作ったものとは思えないほどの美味しさに、なんだか僕まで幸せな気持ちになったような気がする。
「料理って魔法だね」
「魔法...?」
「馬鹿みたいかもしれないけど、僕はそう思ってる。
色んな人を笑顔にしたり、思い出の味があったり...それぞれの人の生きてきた道を作ったものだと思うんだ」
彼女の表情は柔らかいものに変わり、そうだねと頷いてくれる。
少しでも心が軽くなればいい、そう願いながらもう一口オムレツを頬張った。
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