ハーフ&ハーフ

黒蝶

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遡暮篇(のぼりぐらしへん)

困難に打ち勝つ

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「ごちそうさまでした」
食べ終わる頃には、七海の表情がぱっと明るくなっていた。
先程までの沈みようが嘘のように笑っている。
「...今日はちょっと休みたいけど、また読むときは一緒にいてくれる?」
「勿論だよ」
何が、とは訊かなかった。
少し分厚い1冊のノートを大事そうに抱える彼女から視線を逸らし、片づけに没頭する。
食器を並べていると1羽のカラスが肩に止まった。
「ノワール、どうかしたの?」
足にくくりつけられていたのは何かの布切れで、そこには滲んだインクで少し危機的な状況にあることが書かれていた。
《木葉

できるだけクレールを節約しろ。
どうやら現地の気象の影響をモロに受けて、生産量が半減しているらしい。
...実は俺も、なかなか手に入らなくて困っている。
お嬢さんにも悪いが、手に入れたらすぐ送るから何とか持ちこたえてくれ》
ラッシュさんの文章からは切実な思いが溢れ出していて、どう反応していいのか分からなくなる。
クレールが届かないということは、その間ずっと渇きに耐えなければならないということだ。
まさか毎日血液をもらうわけにもいかないだろう。
ただ、今の状況で七海に話してしまってもいいのだろうか。
「なんだかちょっと具合悪そうだね」
「ごめん、血圧がちょっと下がりすぎてるみたい」
低血圧気味の、偏頭痛。
七海によくおこる症状ではあるが、ゆっくり休ませるべきだと判断した。
「ベッドまで運ぶよ」
「ごめんね」
「気にしないで、ゆっくり休んでて」
「ありがとう...」
ベッドにおろし頭を撫でると、彼女は弱々しく笑った。
ただ、その姿にさえときめいてしまう。
こんなに体調を崩している彼女に迷惑をかける訳にはいかないのに、どうしても欲求が抑えられないのだ。
「...こうするしかない、よね」
ひとり自室に戻った僕は、包丁片手にひとつの答えを導き出す。
以前だってやったのだ、問題ない。
それは料理用のものではなく、自らの理性を繋ぎ止める為のもの。
「...っ」
七海の血のように甘くて美味しいわけではない。
ただ、耐えるにはこれが1番なのだ。
誰も傷つけずに、傷がつくとしたら自らの腕だけ...それでいい。
誰かを傷つけてしまうくらいなら、僕はそうして過ごしていきたいと思う。
「...救急箱、どこだっけ?」
思った以上に深く切ってしまったらしく、なかなか血が止まってくれない。
近くにあったハンカチで腕を押さえながら、そのまま部屋をぐるぐる回る。
...今だけでも、七海に知られたくない。
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