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遡暮篇(のぼりぐらしへん)
ひとりで無理なときは
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目を開けると、そこに彼の姿はなかった。
「木葉...?」
どこからか血液のにおいがする。
嫌な予感がして名前を呼んでみるけれど、返事はかえってこない。
(ただ出掛けているだけならメモがあるはず)
台所に向かおうとしたけれど、足がもつれて転んでしまう。
杖を使わないと歩くことさえできないのはやっぱり不便だと感じながら、今度はちゃんと辿り着いた。
「...いないの?」
メモ用紙はなかったけれど、木葉がいたわけでもない。
どんどん濃くなるにおいに不安を覚えながら、その元を辿ってみることにする。
「...入るよ?」
噎せかえりそうなほどにおいが染みついている場所の扉を開けると、そこにはすやすやと寝息をたてて眠る木葉の姿があった。
ただ寝ているなのかと思ったけれど、そうではないことは部屋を見ればすぐ分かる。
何度も巻き直したであろう包帯に、散らばった救急箱の中身...そして、赤く染まった包丁。
起こすのは申し訳なくて部屋を片づけていくけれど、当然私の心は晴れてくれない。
「あれ、七海?どうしたの、もしかして具合悪い?」
具合が悪いのはそっちでしょ、と叫びたいのを我慢しながら単刀直入に訊いてみる。
「どうしてこんな無茶をしたの...?」
「無茶って何のこと?」
「その怪我、自分でやったんでしょ?私のを呑めばよかったのに、」
「体調不良の恋人から血液をもらうほど、僕は節操がない訳じゃないよ」
「それじゃあどうしてクレールを使わなかったの?」
「それは...」
「お願い木葉」
狼狽えた様子の彼に縋るように声をかける。
しばらく黙りこんでいたけれど、観念したように話しはじめた。
「...クレールの元になる花があんまり採れてないらしいんだ。天候の急な変化が原因みたいだけど、なかなか流通しなくなってるんだって。
...手に入ったらすぐ連絡するってラッシュさんが教えてくれたんだ」
それでは、クレールがくるまでは自分を傷つけるつもりなのだろうか。
(そんなの駄目)
「私、もう体調大丈夫だから呑んで」
「でも、」
「ひとりでできないことでも、ふたりでならできるかもしれない。
...少なくとも、私はそう信じてる」
私のことを気遣って話さなかったのだろうけれど、できれば話してほしかった。
ひとりで苦しむ木葉の姿を思い浮かべるだけで胸がぎゅっと締めつけられる。
「苦しいことは一緒に分かち合いたい。...だから、ちゃんと話してほしい」
「七海...ごめん」
「今回は許す」
「今回はって...」
「次話してくれなかったらちょっと怒る」
「...本当にごめん」
こういうときの彼は子犬みたいで可愛らしい。
そんなことを言ったら怒られてしまいそうだから、その言葉は胸の中に仕舞っておくことにした。
「木葉...?」
どこからか血液のにおいがする。
嫌な予感がして名前を呼んでみるけれど、返事はかえってこない。
(ただ出掛けているだけならメモがあるはず)
台所に向かおうとしたけれど、足がもつれて転んでしまう。
杖を使わないと歩くことさえできないのはやっぱり不便だと感じながら、今度はちゃんと辿り着いた。
「...いないの?」
メモ用紙はなかったけれど、木葉がいたわけでもない。
どんどん濃くなるにおいに不安を覚えながら、その元を辿ってみることにする。
「...入るよ?」
噎せかえりそうなほどにおいが染みついている場所の扉を開けると、そこにはすやすやと寝息をたてて眠る木葉の姿があった。
ただ寝ているなのかと思ったけれど、そうではないことは部屋を見ればすぐ分かる。
何度も巻き直したであろう包帯に、散らばった救急箱の中身...そして、赤く染まった包丁。
起こすのは申し訳なくて部屋を片づけていくけれど、当然私の心は晴れてくれない。
「あれ、七海?どうしたの、もしかして具合悪い?」
具合が悪いのはそっちでしょ、と叫びたいのを我慢しながら単刀直入に訊いてみる。
「どうしてこんな無茶をしたの...?」
「無茶って何のこと?」
「その怪我、自分でやったんでしょ?私のを呑めばよかったのに、」
「体調不良の恋人から血液をもらうほど、僕は節操がない訳じゃないよ」
「それじゃあどうしてクレールを使わなかったの?」
「それは...」
「お願い木葉」
狼狽えた様子の彼に縋るように声をかける。
しばらく黙りこんでいたけれど、観念したように話しはじめた。
「...クレールの元になる花があんまり採れてないらしいんだ。天候の急な変化が原因みたいだけど、なかなか流通しなくなってるんだって。
...手に入ったらすぐ連絡するってラッシュさんが教えてくれたんだ」
それでは、クレールがくるまでは自分を傷つけるつもりなのだろうか。
(そんなの駄目)
「私、もう体調大丈夫だから呑んで」
「でも、」
「ひとりでできないことでも、ふたりでならできるかもしれない。
...少なくとも、私はそう信じてる」
私のことを気遣って話さなかったのだろうけれど、できれば話してほしかった。
ひとりで苦しむ木葉の姿を思い浮かべるだけで胸がぎゅっと締めつけられる。
「苦しいことは一緒に分かち合いたい。...だから、ちゃんと話してほしい」
「七海...ごめん」
「今回は許す」
「今回はって...」
「次話してくれなかったらちょっと怒る」
「...本当にごめん」
こういうときの彼は子犬みたいで可愛らしい。
そんなことを言ったら怒られてしまいそうだから、その言葉は胸の中に仕舞っておくことにした。
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