ハーフ&ハーフ

黒蝶

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遡暮篇(のぼりぐらしへん)

シェリの話

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「わ、私...っ」
喜んでもらえるとは思っていたが、まさかここまでとは思わなかった。
まさか泣かれてしまうなんて、完全に予想外だ。
どこから取り出したのか、七海の手にはハンカチが握られている。
「私なんか、こんなこと、していただく、資格は...」
「そんなことないよ。資格とかじゃなくて、私がやりたいからやっただけだから受け取ってもらえたら嬉しい。
シェリのことをもっと知りたいの。...もしよかったら聞かせてもらえないかな?」
シェリの過去はあまりにも残酷で、あまりにも無慈悲だ。
それを多少は理解していて、それでも七海は知りたいと願っている。
僕の方を見つめるつぶらな瞳に言葉を返す。
「シェリが話したいことがあるなら話していいんだよ」
迷うような仕草を見せながらも、彼女は口を開いた。
「私、は...」
それからシェリは教えてくれた。
...彼女が辿ってきた、とんでもない歩みを。
暴力を受けて育ったことは知っていたけれど、まさかそこまで酷いとは予想していなかったのだ。
遠慮がちな性格、強すぎるほどの自責の念、常に緊張しているような表情...。
それらは間違いなく、彼女の幼少期と関係しているのだ。
ケイトさんに拾われた身であること、普段は身の回りのこととお掃除をしていること...嫌な顔ひとつせず色々な話をしてくれた。
「私は、まともに、きょ、いくを...」
「大丈夫、もう充分伝わったよ。嫌なことを思い出させてごめんね...」
まともに教育を受けてこなかったことも分かる。
マナーについて詳しくなかった理由も、ずっと監禁状態で育ったことも...。
何も言葉が出てこなくて、私はただ抱きしめることしかできなかった。
(どんな言葉を返せばいいのか分からないよ...)
それでも彼女は必死で今を生きている。
「だから、友だち...嬉しかった。私は、できないって、思って...」
「私もシェリと友だちになれてすごく嬉しいよ」
私よりも小さく華奢な背中に腕をまわして、しばらくそのままの体勢でいた。
そのとき、頬に何か温かいものが当たる。...木葉の手だ。
「シェリは七海のことを大切な友だちだって他の子たちにも紹介してる。
...ふたりとも、いい友だちを持ったね」
その言葉がすとんと胸に落ちる。
私はシェリにとって、いい友人でいられるだろうか。
ずっと仲良しでいたい...そんなことを考えながら、味の感想を聞くのも忘れて話に聞き入った。
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