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断暮篇(たちぐらしへん)
断鋏(たちばさみ)
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目の前で何がおこっているのか、一瞬理解できていなかった。
いきなり皹が入りはじめたビジネスホテルに、何かを必死で抑えようとしながらも怒りの表情のままでいる恋人、呆気にとられている神子の力がほしい人たち...。
「木、葉...」
「ごめんね。できれば使いたくなんてなかったけど、ちょっと無理そう」
木葉は私に笑いかけた後、勢いをつけて拳をおろす。
その部分には、さっきまでなかった穴がぽっかり空いていた。
(これが、木葉が言ってた事件がおこったときに暴走した力...)
「な、なんですかこれは」
「答える義理はない。それに、おまえたちは往生際が悪いね。
...この力で捻り潰そうかな」
「ば、化け物!」
その一言を聞いた瞬間、私は腕に渾身の力をこめて思いきり殴り飛ばした。
傷口が開いたはずなのに痛みを感じない。
「...化け物はどっち?母にあんな仕打ちをしたあなたたちに私の何が分かるの?
神子の力があると知った途端に近づいてくるなんて、そんな卑怯なことがあっていいと本気で思っているの?」
この家の人間は、誰も私という個人を見ていない...それが分かっただけで充分だ。
「こ、このようなものと共にいるなど、」
「私にとってはあなたたちの方が化け物に見える。それから...これ、何か知ってる?」
鞄から取り出した鋏を見た途端、目の前の人間たちの顔色が一気に悪くなる。
「あの家では色々言われている鋏だったみたいだけど、使うのは今日が初めてなの。
...失敗したらごめんなさい」
美桜さんから預かっていた切り札...できれば使わずに終わらせられるのがよかったけれど、そうも言ってはいられない。
空に向かって鋏を振りかざし、がんじがらめになっている糸を切った。
「...『縁斬』」
「なんだ、何を切った!?」
そうか、普通の人たちにはあの糸が見えないんだ。
あれだけ絡まっているものが視えないのは少し羨ましい。
「...あなたたちの私への執着と、あなたたちに僅かに残っていた術を使う為の力」
「なん、だと...」
最早彼等のことなんて気にならない。
それよりも、今はなんとかして木葉を止めたいと考えた。
「木葉、私は平気だから...」
「お願い、離れて。このままじゃ、七海のことも傷つけちゃうよ...」
「ありがとう、木葉。でもそれはできない。私は、木葉が大好きだから」
本当は流れる涙を拭いたかった。
手を伸ばせば届く距離にいたはずなのに、ぽたぽたと赤い雫が零れていく。
(結構痛いな...)
今にも泣き出しそうな表情で木葉が支えてくれる。
「ごめんね。でも、力、ちゃんと止まって...」
「七海...!」
ミシミシと音をたてていた壁には皹が入った状態で止まっている。
本来であれば崩れてしまっていたかもしれないものが原型を留めていた。
──木葉を助けられたから、それでいい。
視界が霞んで、どんどん赤と黒に染まっていく。
大切な人が泣いている声が聞こえたような気がした。
いきなり皹が入りはじめたビジネスホテルに、何かを必死で抑えようとしながらも怒りの表情のままでいる恋人、呆気にとられている神子の力がほしい人たち...。
「木、葉...」
「ごめんね。できれば使いたくなんてなかったけど、ちょっと無理そう」
木葉は私に笑いかけた後、勢いをつけて拳をおろす。
その部分には、さっきまでなかった穴がぽっかり空いていた。
(これが、木葉が言ってた事件がおこったときに暴走した力...)
「な、なんですかこれは」
「答える義理はない。それに、おまえたちは往生際が悪いね。
...この力で捻り潰そうかな」
「ば、化け物!」
その一言を聞いた瞬間、私は腕に渾身の力をこめて思いきり殴り飛ばした。
傷口が開いたはずなのに痛みを感じない。
「...化け物はどっち?母にあんな仕打ちをしたあなたたちに私の何が分かるの?
神子の力があると知った途端に近づいてくるなんて、そんな卑怯なことがあっていいと本気で思っているの?」
この家の人間は、誰も私という個人を見ていない...それが分かっただけで充分だ。
「こ、このようなものと共にいるなど、」
「私にとってはあなたたちの方が化け物に見える。それから...これ、何か知ってる?」
鞄から取り出した鋏を見た途端、目の前の人間たちの顔色が一気に悪くなる。
「あの家では色々言われている鋏だったみたいだけど、使うのは今日が初めてなの。
...失敗したらごめんなさい」
美桜さんから預かっていた切り札...できれば使わずに終わらせられるのがよかったけれど、そうも言ってはいられない。
空に向かって鋏を振りかざし、がんじがらめになっている糸を切った。
「...『縁斬』」
「なんだ、何を切った!?」
そうか、普通の人たちにはあの糸が見えないんだ。
あれだけ絡まっているものが視えないのは少し羨ましい。
「...あなたたちの私への執着と、あなたたちに僅かに残っていた術を使う為の力」
「なん、だと...」
最早彼等のことなんて気にならない。
それよりも、今はなんとかして木葉を止めたいと考えた。
「木葉、私は平気だから...」
「お願い、離れて。このままじゃ、七海のことも傷つけちゃうよ...」
「ありがとう、木葉。でもそれはできない。私は、木葉が大好きだから」
本当は流れる涙を拭いたかった。
手を伸ばせば届く距離にいたはずなのに、ぽたぽたと赤い雫が零れていく。
(結構痛いな...)
今にも泣き出しそうな表情で木葉が支えてくれる。
「ごめんね。でも、力、ちゃんと止まって...」
「七海...!」
ミシミシと音をたてていた壁には皹が入った状態で止まっている。
本来であれば崩れてしまっていたかもしれないものが原型を留めていた。
──木葉を助けられたから、それでいい。
視界が霞んで、どんどん赤と黒に染まっていく。
大切な人が泣いている声が聞こえたような気がした。
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