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第9章『中庭の守護神と一夜草』
第63話
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「先生、知ってることがあれば教えてほしい」
翌朝、早速監査室で昨夜のことを尋ねる。
先生から返ってきた答えは予想どおりのものだった。
「そいつらが狙っているのはおまえらが探しているものだ」
「…やっぱりそうなのか」
『一夜草について調べました』
突然鞄の中から声がして調べてみると、小型ラジオが光っていた。
電波を拾いやすいようにアンテナを伸ばしながら声の主に尋ねる。
「何か分かったことはあるか?」
『盗賊団の噂とは別に、動いている人間がいるみたいです。左眼を前髪で隠しているイケメンがうろついていたと、噂が広がっています』
「なんで人間だと思った?」
『怪異関連なら、先生が知らないはずないと思ったんです』
「たしかに」
先生は少し驚いた顔をしていたが、苦笑しながら話してくれた。
「木嶋の声がラジオから聞こえてることに関してはつっこまない。
ただ、そいつが人間だってことは保証する。ここの通信制の卒業生で、視える生徒だった。
俺のことを最後まで人間じゃないと見抜けなかったし、悪い人間じゃない」
「視える人間なのか…」
もし深碧の精霊と一緒にいる人間がその人なら話は早いが、そんな偶然があるのだろうか。
これ以上先生に訊くのは申し訳なくて無言でラジオを見つめる。
『それから、一夜草の次の見頃は丁度文化祭最終日です』
「つまり、簡単な片づけを終えたら全員帰せる時間ってことか」
それと同時に大量の怪異が押し寄せるかもしれない。
「ありがとう。こんなに調べるの、時間がかかっただろ?本当にごめん」
『楽しかったので大丈夫です』
「何か困ったことがあれば言ってくれ。私にできることなら力になる」
『ありがとうございます』
それからぷつりと音がして通信が切れてしまったが、最後の一言で元気がないわけじゃないことは伝わってきた。
「失礼します」
「どうした?決算書類に不備があったとか…」
「あの、私、えっと、」
「定時制2年次の中山縁だろ?落ち着いてゆっくり話してほしい」
「あ、ありがとうございます。実は、定時制の催しものについて相談があって…」
学園生活の垣根を越えて文化祭を運営していくには、生徒会以上に繋がりがある監査部が陰で動くしかない。
去年もそうだったが、今年は参加者が増えているのか大量の資料に囲まれる日が増えている気がする。
結局作業をしている間に日が暮れてしまった。
「すみません。手伝いに来られればよかったんですけど…」
「クラスのものや放送部のラジオの用意があるんだろ?ここの作業まで担っていたら体力もたないぞ」
「先輩…」
「それに、さっきまで先生が手伝ってくれてたから割と早く終わったんだ。陽向の都合が悪くなければ、早速今から調べに行こう」
「はい!」
さっきまで作業してきたとは思えないほど元気でスキップして監査室を出た陽向は、腕がありえない方向に曲がって倒れこんだ。
「う、あ…」
「陽向!?」
悲鳴もあげられないほどの痛みだったらしく、反比例するように血飛沫があがっている。
《おマエら、美味ソウ!》
その瞬間、私の中で何かが弾ける音がした。
「──爆ぜろ」
弓がまだ使えそうにない以上、これで対処するしかない。
火炎刃は隠しておきたいところだが、そんなことを言っていられる状況ではなくなりつつある。
《弓がナイト、何もでキない…弱イ、な》
そこまでしか相手が話せなかったのには理由がある。
私にはこれ以外方法が思いつかなかった。
「別に弓がなくてもこうすればいいだけだろ」
矢に直接札を巻きつけ、相手を勢いよく殴る。
炎はきちんと扱えるので、勢いはないものの攻撃できた。
《おのれ、人間ゴトキガ…!》
相手は5人だと思っていたのに、どうやらそれ以上の仲間が隠れていたらしい。
矢を構えていると、後ろから縄と包丁が飛んできた。
「逃げるよ。口塞いでて」
瞬の言葉に頷くと、目の前に薬品のようなものがばら撒かれる。
ふたりで倒れたままの陽向を抱えて駆け抜ける。
中庭まで走ったところで、瞬が心配そうにこちらを向いた。
「ここまで逃げれば大丈夫かな?ひな君が起きるまで時間がかかりそうだけど…詩乃ちゃん、怪我はない?」
「ありがとう。瞬が来てくれなかったら大変だった」
「ここ、怪我してるよ。後で先生呼んでくるね」
いつの間にか包丁と縄を取り戻したらしく、瞬は道具の手入れをしている。
陽向はなかなか死にきれなかったのか、苦悶の表情を浮かべたまま息が止まっていた。
当日までになんとか捕まえたいところではあるが、相手の規模を掴めない限りそれは厳しい。
「…私がなんとかしないと」
文化祭当日まであと2日。なんとか問題なく開催できるように最善を尽くそう。
そして、必ず深碧に一夜草を届けてみせる。
翌朝、早速監査室で昨夜のことを尋ねる。
先生から返ってきた答えは予想どおりのものだった。
「そいつらが狙っているのはおまえらが探しているものだ」
「…やっぱりそうなのか」
『一夜草について調べました』
突然鞄の中から声がして調べてみると、小型ラジオが光っていた。
電波を拾いやすいようにアンテナを伸ばしながら声の主に尋ねる。
「何か分かったことはあるか?」
『盗賊団の噂とは別に、動いている人間がいるみたいです。左眼を前髪で隠しているイケメンがうろついていたと、噂が広がっています』
「なんで人間だと思った?」
『怪異関連なら、先生が知らないはずないと思ったんです』
「たしかに」
先生は少し驚いた顔をしていたが、苦笑しながら話してくれた。
「木嶋の声がラジオから聞こえてることに関してはつっこまない。
ただ、そいつが人間だってことは保証する。ここの通信制の卒業生で、視える生徒だった。
俺のことを最後まで人間じゃないと見抜けなかったし、悪い人間じゃない」
「視える人間なのか…」
もし深碧の精霊と一緒にいる人間がその人なら話は早いが、そんな偶然があるのだろうか。
これ以上先生に訊くのは申し訳なくて無言でラジオを見つめる。
『それから、一夜草の次の見頃は丁度文化祭最終日です』
「つまり、簡単な片づけを終えたら全員帰せる時間ってことか」
それと同時に大量の怪異が押し寄せるかもしれない。
「ありがとう。こんなに調べるの、時間がかかっただろ?本当にごめん」
『楽しかったので大丈夫です』
「何か困ったことがあれば言ってくれ。私にできることなら力になる」
『ありがとうございます』
それからぷつりと音がして通信が切れてしまったが、最後の一言で元気がないわけじゃないことは伝わってきた。
「失礼します」
「どうした?決算書類に不備があったとか…」
「あの、私、えっと、」
「定時制2年次の中山縁だろ?落ち着いてゆっくり話してほしい」
「あ、ありがとうございます。実は、定時制の催しものについて相談があって…」
学園生活の垣根を越えて文化祭を運営していくには、生徒会以上に繋がりがある監査部が陰で動くしかない。
去年もそうだったが、今年は参加者が増えているのか大量の資料に囲まれる日が増えている気がする。
結局作業をしている間に日が暮れてしまった。
「すみません。手伝いに来られればよかったんですけど…」
「クラスのものや放送部のラジオの用意があるんだろ?ここの作業まで担っていたら体力もたないぞ」
「先輩…」
「それに、さっきまで先生が手伝ってくれてたから割と早く終わったんだ。陽向の都合が悪くなければ、早速今から調べに行こう」
「はい!」
さっきまで作業してきたとは思えないほど元気でスキップして監査室を出た陽向は、腕がありえない方向に曲がって倒れこんだ。
「う、あ…」
「陽向!?」
悲鳴もあげられないほどの痛みだったらしく、反比例するように血飛沫があがっている。
《おマエら、美味ソウ!》
その瞬間、私の中で何かが弾ける音がした。
「──爆ぜろ」
弓がまだ使えそうにない以上、これで対処するしかない。
火炎刃は隠しておきたいところだが、そんなことを言っていられる状況ではなくなりつつある。
《弓がナイト、何もでキない…弱イ、な》
そこまでしか相手が話せなかったのには理由がある。
私にはこれ以外方法が思いつかなかった。
「別に弓がなくてもこうすればいいだけだろ」
矢に直接札を巻きつけ、相手を勢いよく殴る。
炎はきちんと扱えるので、勢いはないものの攻撃できた。
《おのれ、人間ゴトキガ…!》
相手は5人だと思っていたのに、どうやらそれ以上の仲間が隠れていたらしい。
矢を構えていると、後ろから縄と包丁が飛んできた。
「逃げるよ。口塞いでて」
瞬の言葉に頷くと、目の前に薬品のようなものがばら撒かれる。
ふたりで倒れたままの陽向を抱えて駆け抜ける。
中庭まで走ったところで、瞬が心配そうにこちらを向いた。
「ここまで逃げれば大丈夫かな?ひな君が起きるまで時間がかかりそうだけど…詩乃ちゃん、怪我はない?」
「ありがとう。瞬が来てくれなかったら大変だった」
「ここ、怪我してるよ。後で先生呼んでくるね」
いつの間にか包丁と縄を取り戻したらしく、瞬は道具の手入れをしている。
陽向はなかなか死にきれなかったのか、苦悶の表情を浮かべたまま息が止まっていた。
当日までになんとか捕まえたいところではあるが、相手の規模を掴めない限りそれは厳しい。
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