夜紅の憲兵姫

黒蝶

文字の大きさ
76 / 302
第9章『中庭の守護神と一夜草』

第63話

しおりを挟む
「先生、知ってることがあれば教えてほしい」
翌朝、早速監査室で昨夜のことを尋ねる。
先生から返ってきた答えは予想どおりのものだった。
「そいつらが狙っているのはおまえらが探しているものだ」
「…やっぱりそうなのか」
『一夜草について調べました』
突然鞄の中から声がして調べてみると、小型ラジオが光っていた。
電波を拾いやすいようにアンテナを伸ばしながら声の主に尋ねる。
「何か分かったことはあるか?」
『盗賊団の噂とは別に、動いている人間がいるみたいです。左眼を前髪で隠しているイケメンがうろついていたと、噂が広がっています』
「なんで人間だと思った?」
『怪異関連なら、先生が知らないはずないと思ったんです』
「たしかに」
先生は少し驚いた顔をしていたが、苦笑しながら話してくれた。
「木嶋の声がラジオから聞こえてることに関してはつっこまない。
ただ、そいつが人間だってことは保証する。ここの通信制の卒業生で、視える生徒だった。
俺のことを最後まで人間じゃないと見抜けなかったし、悪い人間じゃない」
「視える人間なのか…」
もし深碧の精霊と一緒にいる人間がその人なら話は早いが、そんな偶然があるのだろうか。
これ以上先生に訊くのは申し訳なくて無言でラジオを見つめる。
『それから、一夜草の次の見頃は丁度文化祭最終日です』
「つまり、簡単な片づけを終えたら全員帰せる時間ってことか」
それと同時に大量の怪異が押し寄せるかもしれない。
「ありがとう。こんなに調べるの、時間がかかっただろ?本当にごめん」
『楽しかったので大丈夫です』
「何か困ったことがあれば言ってくれ。私にできることなら力になる」
『ありがとうございます』
それからぷつりと音がして通信が切れてしまったが、最後の一言で元気がないわけじゃないことは伝わってきた。
「失礼します」
「どうした?決算書類に不備があったとか…」
「あの、私、えっと、」
「定時制2年次の中山縁だろ?落ち着いてゆっくり話してほしい」
「あ、ありがとうございます。実は、定時制の催しものについて相談があって…」
学園生活の垣根を越えて文化祭を運営していくには、生徒会以上に繋がりがある監査部が陰で動くしかない。
去年もそうだったが、今年は参加者が増えているのか大量の資料に囲まれる日が増えている気がする。
結局作業をしている間に日が暮れてしまった。
「すみません。手伝いに来られればよかったんですけど…」
「クラスのものや放送部のラジオの用意があるんだろ?ここの作業まで担っていたら体力もたないぞ」
「先輩…」
「それに、さっきまで先生が手伝ってくれてたから割と早く終わったんだ。陽向の都合が悪くなければ、早速今から調べに行こう」
「はい!」
さっきまで作業してきたとは思えないほど元気でスキップして監査室を出た陽向は、腕がありえない方向に曲がって倒れこんだ。
「う、あ…」
「陽向!?」
悲鳴もあげられないほどの痛みだったらしく、反比例するように血飛沫があがっている。
《おマエら、美味ソウ!》
その瞬間、私の中で何かが弾ける音がした。
「──爆ぜろ」
弓がまだ使えそうにない以上、これで対処するしかない。
火炎刃は隠しておきたいところだが、そんなことを言っていられる状況ではなくなりつつある。
《弓がナイト、何もでキない…弱イ、な》
そこまでしか相手が話せなかったのには理由がある。
私にはこれ以外方法が思いつかなかった。
「別に弓がなくてもこうすればいいだけだろ」
矢に直接札を巻きつけ、相手を勢いよく殴る。
炎はきちんと扱えるので、勢いはないものの攻撃できた。
《おのれ、人間ゴトキガ…!》
相手は5人だと思っていたのに、どうやらそれ以上の仲間が隠れていたらしい。
矢を構えていると、後ろから縄と包丁が飛んできた。
「逃げるよ。口塞いでて」
瞬の言葉に頷くと、目の前に薬品のようなものがばら撒かれる。
ふたりで倒れたままの陽向を抱えて駆け抜ける。
中庭まで走ったところで、瞬が心配そうにこちらを向いた。
「ここまで逃げれば大丈夫かな?ひな君が起きるまで時間がかかりそうだけど…詩乃ちゃん、怪我はない?」
「ありがとう。瞬が来てくれなかったら大変だった」
「ここ、怪我してるよ。後で先生呼んでくるね」
いつの間にか包丁と縄を取り戻したらしく、瞬は道具の手入れをしている。
陽向はなかなか死にきれなかったのか、苦悶の表情を浮かべたまま息が止まっていた。
当日までになんとか捕まえたいところではあるが、相手の規模を掴めない限りそれは厳しい。
「…私がなんとかしないと」
文化祭当日まであと2日。なんとか問題なく開催できるように最善を尽くそう。
そして、必ず深碧に一夜草を届けてみせる。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

〜仕事も恋愛もハードモード!?〜 ON/OFF♡オフィスワーカー

i.q
恋愛
切り替えギャップ鬼上司に翻弄されちゃうオフィスラブ☆ 最悪な失恋をした主人公とONとOFFの切り替えが激しい鬼上司のオフィスラブストーリー♡ バリバリのキャリアウーマン街道一直線の爽やか属性女子【川瀬 陸】。そんな陸は突然彼氏から呼び出される。出向いた先には……彼氏と見知らぬ女が!? 酷い失恋をした陸。しかし、同じ職場の鬼課長の【榊】は失恋なんてお構いなし。傷が乾かぬうちに仕事はスーパーハードモード。その上、この鬼課長は————。 数年前に執筆して他サイトに投稿してあったお話(別タイトル。本文軽い修正あり)

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

やっかいな幼なじみは御免です!

ゆきな
恋愛
有名な3人組がいた。 アリス・マイヤーズ子爵令嬢に、マーティ・エドウィン男爵令息、それからシェイマス・パウエル伯爵令息である。 整った顔立ちに、豊かな金髪の彼らは幼なじみ。 いつも皆の注目の的だった。 ネリー・ディアス伯爵令嬢ももちろん、遠巻きに彼らを見ていた側だったのだが、ある日突然マーティとの婚約が決まってしまう。 それからアリスとシェイマスの婚約も。 家の為の政略結婚だと割り切って、適度に仲良くなればいい、と思っていたネリーだったが…… 「ねえねえ、マーティ!聞いてるー?」 マーティといると必ず割り込んでくるアリスのせいで、積もり積もっていくイライラ。 「そんなにイチャイチャしたいなら、あなた達が婚約すれば良かったじゃない!」 なんて、口には出さないけど……はあ……。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

処理中です...