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第11章『夜紅の昔話-異界への階段・弐-』
第75話
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ふらついている穂乃をソファーで横にならせてしばらく様子を見た後、飲み物を用意して隣に座る、
「…さっきの話、詳しく聞かせてくれ。いなくなったってどういうことだ?」
「帰り道、途中まで同じだから一緒に帰ってたの。美和ちゃんは寄るところがあるからって、途中で別れて…ふたりで先に帰ることにしたんだ」
お気に入りの紅茶を飲んだ後、穂乃は深呼吸をして再び話しだす。
「途中で怪しい人がいたから、別の道を通ろうとしたの。だけど、紗和ちゃんはどうして遠回りしようとしてるのって…」
「穂乃には視える不審者だったんだな」
「多分そう」
穂乃はまだ、人間がそうじゃないかぱっと見では見分けがつかないらしい。
他の人に視えなかったということは、妖ものの類だった可能性がある。
「それで、いきなりぐわーって襲われそうになって…お姉ちゃんのお守りが光ったんだ。
眩しくて目を閉じていたら、紗和ちゃんと怪しい人がいなくなってたの。どうしよう…私がちゃんと見てなかったから、紗和ちゃんが、」
「そんなことない。紗和を止めようとしたんだろ?だったら、そんなに自分を追いつめるな」
今の言葉では伝わらなかったのか、穂乃が勢いよく立ちあがる。
その衝撃で、ポケットからビーズで作ったお守りがばらばらになった状態で散乱した。
「私がお姉ちゃんみたいに強かったら、紗和ちゃんは襲われなかった…!」
「それは違う。この町では噂が広がりやすいから、誰が相手で求められないことはある。
怖かっただろ。側にいられなくてごめん」
ぽろぽろと涙を流す穂乃を抱きしめながら、言葉に想いをのせて伝えてみる。
「紗和は必ず見つける。ただ、そのためには穂乃の力も必要だ。相手のことを覚えている限りでいいから教えてくれないか?」
「…描いてもいい?」
「うん。私はその間に予備のお守りを作っておく。ちょっと強めのやつにしておくから、明日美和にも渡しておいてくれ。
帰ってきたら紗和にも渡すこと。…3人でお揃いだ」
「うん!」
少し元気になったことに安堵しつつ、少しずつ霊力を注ぎながらキーホルダー型のお守りを完成させた。
「できた。多分こんな感じだったと思う」
「ありがとう」
おどろおどろしい色に、全身が影でできているかのような黒衣。
「怨霊だな」
「怨霊って、すごく怖いものなんじゃ…」
「大丈夫。多分だけど、この人の目的は拐った人を殺すことじゃない」
「どうして分かるの?」
穂乃を事件に巻きこみたくはないが今回は仕方ない。
「殺すつもりなら多分包丁とかチェーンソーとか持ってるはずだけど、そうじゃなかったってことだよな?」
「うん」
「それなら多分、欲しいものがあるんだ」
「欲しいもの?」
「怨霊というのは、恨みだけでそうなるとは限らない。色々な感情がもつれて暴走した結果、そうなることもあるんだ」
孤独、悲哀、愛情…怨霊化の原因は様々なものが考えられる。
「紗和ちゃん、大丈夫かな…」
「絶対助け出すから心配しなくていい。もし美和が困っていたら側にいて話を聞く…それはきっと穂乃にしかできないことだ」
「私にしか、できないこと…ありがとうお姉ちゃん。頑張ってみる!」
「くれぐれも無理はしないように」
「…うん。ご飯の前にちょっとだけ宿題してくるね」
部屋に送り出したものの、妹の背中を見てぎょっとした。
赤黒い手形のようなものがついていて、黒いオーラが渦巻いている。
『先輩?どうしました?』
「一応報告しておきたいことがある」
部屋で陽向とテレビ電話を繋ぐと、少し後ろで心配そうにこちらを見つめる桜良が写っていた。
…またふたりの時間を邪魔してしまっただろうか。
『大丈夫ですか?なんだか顔が青いように見えますけど…』
穂乃から聞いた話を伝えている途中、急に体が怠くなった。
先程お守りを作るときに霊力を消費したからだろうか。
「大丈夫だよ。すぐよくなるから心配いらない」
『霊力を使ったんですね?』
「そんなところだ。けど、襲われたわけじゃないからそんなに消耗してない。話を続けるけど……」
報告するうち、穂乃の様子がおかしかった理由を尋ねていないことに気づく。
夕飯を食べた後に訊いたら教えてくれるだろうか。
作戦は明日練ろうという話になり、この日は監査部の仕事をして過ごした。
……なんだかいつもより穂乃に避けられているような気がするのは気のせいだろうか。
「…さっきの話、詳しく聞かせてくれ。いなくなったってどういうことだ?」
「帰り道、途中まで同じだから一緒に帰ってたの。美和ちゃんは寄るところがあるからって、途中で別れて…ふたりで先に帰ることにしたんだ」
お気に入りの紅茶を飲んだ後、穂乃は深呼吸をして再び話しだす。
「途中で怪しい人がいたから、別の道を通ろうとしたの。だけど、紗和ちゃんはどうして遠回りしようとしてるのって…」
「穂乃には視える不審者だったんだな」
「多分そう」
穂乃はまだ、人間がそうじゃないかぱっと見では見分けがつかないらしい。
他の人に視えなかったということは、妖ものの類だった可能性がある。
「それで、いきなりぐわーって襲われそうになって…お姉ちゃんのお守りが光ったんだ。
眩しくて目を閉じていたら、紗和ちゃんと怪しい人がいなくなってたの。どうしよう…私がちゃんと見てなかったから、紗和ちゃんが、」
「そんなことない。紗和を止めようとしたんだろ?だったら、そんなに自分を追いつめるな」
今の言葉では伝わらなかったのか、穂乃が勢いよく立ちあがる。
その衝撃で、ポケットからビーズで作ったお守りがばらばらになった状態で散乱した。
「私がお姉ちゃんみたいに強かったら、紗和ちゃんは襲われなかった…!」
「それは違う。この町では噂が広がりやすいから、誰が相手で求められないことはある。
怖かっただろ。側にいられなくてごめん」
ぽろぽろと涙を流す穂乃を抱きしめながら、言葉に想いをのせて伝えてみる。
「紗和は必ず見つける。ただ、そのためには穂乃の力も必要だ。相手のことを覚えている限りでいいから教えてくれないか?」
「…描いてもいい?」
「うん。私はその間に予備のお守りを作っておく。ちょっと強めのやつにしておくから、明日美和にも渡しておいてくれ。
帰ってきたら紗和にも渡すこと。…3人でお揃いだ」
「うん!」
少し元気になったことに安堵しつつ、少しずつ霊力を注ぎながらキーホルダー型のお守りを完成させた。
「できた。多分こんな感じだったと思う」
「ありがとう」
おどろおどろしい色に、全身が影でできているかのような黒衣。
「怨霊だな」
「怨霊って、すごく怖いものなんじゃ…」
「大丈夫。多分だけど、この人の目的は拐った人を殺すことじゃない」
「どうして分かるの?」
穂乃を事件に巻きこみたくはないが今回は仕方ない。
「殺すつもりなら多分包丁とかチェーンソーとか持ってるはずだけど、そうじゃなかったってことだよな?」
「うん」
「それなら多分、欲しいものがあるんだ」
「欲しいもの?」
「怨霊というのは、恨みだけでそうなるとは限らない。色々な感情がもつれて暴走した結果、そうなることもあるんだ」
孤独、悲哀、愛情…怨霊化の原因は様々なものが考えられる。
「紗和ちゃん、大丈夫かな…」
「絶対助け出すから心配しなくていい。もし美和が困っていたら側にいて話を聞く…それはきっと穂乃にしかできないことだ」
「私にしか、できないこと…ありがとうお姉ちゃん。頑張ってみる!」
「くれぐれも無理はしないように」
「…うん。ご飯の前にちょっとだけ宿題してくるね」
部屋に送り出したものの、妹の背中を見てぎょっとした。
赤黒い手形のようなものがついていて、黒いオーラが渦巻いている。
『先輩?どうしました?』
「一応報告しておきたいことがある」
部屋で陽向とテレビ電話を繋ぐと、少し後ろで心配そうにこちらを見つめる桜良が写っていた。
…またふたりの時間を邪魔してしまっただろうか。
『大丈夫ですか?なんだか顔が青いように見えますけど…』
穂乃から聞いた話を伝えている途中、急に体が怠くなった。
先程お守りを作るときに霊力を消費したからだろうか。
「大丈夫だよ。すぐよくなるから心配いらない」
『霊力を使ったんですね?』
「そんなところだ。けど、襲われたわけじゃないからそんなに消耗してない。話を続けるけど……」
報告するうち、穂乃の様子がおかしかった理由を尋ねていないことに気づく。
夕飯を食べた後に訊いたら教えてくれるだろうか。
作戦は明日練ろうという話になり、この日は監査部の仕事をして過ごした。
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