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第17章『鮮血のバレンタイン』
第121話
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「おはよう」
「先輩、どうして鍋パに呼んでくれなかったんですか!?」
陽向は開口一番、そんなことを口にする。
「なんで知ってるんだ?」
「ちびが楽しかったってわくわくした様子で話してたからです。俺たちも行きたかった…」
「ごめん。ふたりでいるならそれを邪魔しちゃいけないと思ったんだ。恋人同士ってそういうものだろうって先生が教えてくれた」
折角問題がひと段落して休日を謳歌しているなら、それを邪魔するようなことはできない…そんな先生の言葉に同意し、連絡するのをやめた。
「みんなの気遣いは心に沁みるけど、俺たちも…いや、もしかしたら参加しなかったかも?
でも、声はかけてほしいです。寂しいじゃないですか」
「次があれば連絡するよ」
「ありがとうございます。…で、あれ何してるんですかね?」
陽向が指さした方では、瞬が雪を丸めて何かを作っているようだった。
近づいてみると、マフラーと手袋の他にこの前は着ていなかったジャンパーを羽織っている。
「詩乃ちゃんとひな君だ!おはよう」
「おはよう。何作ってるんだ?」
「雪だるまの小さいやつ。大きいのを作ったら目立つから小さいのにしなさいって先生に言われたんだ」
「流石に雪玉がひとりでに転がってたら騒ぎになるな…。まあ、それなら今度俺が一緒に作ってやるよ」
「本当?」
「毎年作ってるから慣れてるし、怪我が治りきってない先輩にやらせるわけにはいかないだろ?」
「ありがとう。ひな君ってやっぱり優しいね」
瞬は恐らく、生きているときに誰かと遊んだ経験がほとんどなかったのだろう。
もしかすると、視える人だったことを隠しきれていなかったのかもしれない。
「詩乃ちゃんもやる?」
「ん?ああ、そうさせてもらおうかな」
じっと見つめていたせいか、羨ましがっていると思われたらしい。
端の方で雪うさぎを作っていると、後ろから声をかけられた。
「あ、あの、憲兵姫!」
「どうした?何か困りごとか?」
「これ、受け取ってください!」
包装されているものが何なのか、大体予想はついている。
「ありがとう」
相手の女子生徒たちは一礼して、謎の甲高い声をあげて消えていった。
「すごい黄色い歓声でしたね」
「盛りあがってたな」
「あれはきっと、詩乃ちゃんに渡せて嬉しかったからきゃあきゃあ言ってたんだと思うよ」
「そういうものか」
去年は靴箱いっぱいにお菓子が詰まっていて戸惑ったが、今年は去年とは別の戸惑いを感じることが多くなりそうだ。
できるだけ人が来ないことを祈りながら監査室に戻ろうとしたが、今日は屋上にいることにいた。
「僕も一緒にいていい?」
「構わないけど、面白いことは何もないぞ?」
「いいんだ。詩乃ちゃんと話すのが楽しいから」
陽向は放送室に行くと話していたし、昼休みまでは監査室にいなくても大丈夫だろう。
「そうだ、いいものをあげる」
瞬から渡されたのは、明らかに手作りされたもふもふな毛並みの羊のマスコットだった。
「これ、手編みか?」
「ごめん、いらなかったら、」
「どうやって作ったのか気になっただけだよ。ありがとう。瞬は器用なんだな」
もし私がやってみても、きっと同じようには作れない。
瞬は恥ずかしかったのか、俯いたまま動かなくなってしまった。
「ごめんね。僕、ありがとうって言われ慣れてないから…嬉しくて」
「色々な面でいつも感謝してる」
言葉にするのはあまり得意な方ではないが、瞬相手にははっきり伝えた方がいいようだ。
人との話し方を少し難しく感じていると、黒い塊がドアの方から勢いよく転がってきた。
「今の時期は忙しいんじゃ…」
そこまでで言葉を止めたのは、黒猫の様子が明らかに様子がおかしかったからだ。
「何があった?」
《血だらけ…》
「猫さん!」
体が傾いたところを瞬が咄嗟に支える。
黒猫がおさまっているその手には、血がべっとりついていた。
「あ、あ…」
「…瞬、先生の位置は分かるか?」
「た、多分」
「監査室にいるから呼んできてほしい。申し訳ないけど、できるだけ急いでくれ」
「うん。頑張る」
走っていく瞬の背中を見送り、黒猫を抱えたままできるだけ手早く杖を動かす。
私にできるのは普通の猫に対する治療だけだ。
「結月、もう少しだから持ちこたえてくれ」
「先輩、どうして鍋パに呼んでくれなかったんですか!?」
陽向は開口一番、そんなことを口にする。
「なんで知ってるんだ?」
「ちびが楽しかったってわくわくした様子で話してたからです。俺たちも行きたかった…」
「ごめん。ふたりでいるならそれを邪魔しちゃいけないと思ったんだ。恋人同士ってそういうものだろうって先生が教えてくれた」
折角問題がひと段落して休日を謳歌しているなら、それを邪魔するようなことはできない…そんな先生の言葉に同意し、連絡するのをやめた。
「みんなの気遣いは心に沁みるけど、俺たちも…いや、もしかしたら参加しなかったかも?
でも、声はかけてほしいです。寂しいじゃないですか」
「次があれば連絡するよ」
「ありがとうございます。…で、あれ何してるんですかね?」
陽向が指さした方では、瞬が雪を丸めて何かを作っているようだった。
近づいてみると、マフラーと手袋の他にこの前は着ていなかったジャンパーを羽織っている。
「詩乃ちゃんとひな君だ!おはよう」
「おはよう。何作ってるんだ?」
「雪だるまの小さいやつ。大きいのを作ったら目立つから小さいのにしなさいって先生に言われたんだ」
「流石に雪玉がひとりでに転がってたら騒ぎになるな…。まあ、それなら今度俺が一緒に作ってやるよ」
「本当?」
「毎年作ってるから慣れてるし、怪我が治りきってない先輩にやらせるわけにはいかないだろ?」
「ありがとう。ひな君ってやっぱり優しいね」
瞬は恐らく、生きているときに誰かと遊んだ経験がほとんどなかったのだろう。
もしかすると、視える人だったことを隠しきれていなかったのかもしれない。
「詩乃ちゃんもやる?」
「ん?ああ、そうさせてもらおうかな」
じっと見つめていたせいか、羨ましがっていると思われたらしい。
端の方で雪うさぎを作っていると、後ろから声をかけられた。
「あ、あの、憲兵姫!」
「どうした?何か困りごとか?」
「これ、受け取ってください!」
包装されているものが何なのか、大体予想はついている。
「ありがとう」
相手の女子生徒たちは一礼して、謎の甲高い声をあげて消えていった。
「すごい黄色い歓声でしたね」
「盛りあがってたな」
「あれはきっと、詩乃ちゃんに渡せて嬉しかったからきゃあきゃあ言ってたんだと思うよ」
「そういうものか」
去年は靴箱いっぱいにお菓子が詰まっていて戸惑ったが、今年は去年とは別の戸惑いを感じることが多くなりそうだ。
できるだけ人が来ないことを祈りながら監査室に戻ろうとしたが、今日は屋上にいることにいた。
「僕も一緒にいていい?」
「構わないけど、面白いことは何もないぞ?」
「いいんだ。詩乃ちゃんと話すのが楽しいから」
陽向は放送室に行くと話していたし、昼休みまでは監査室にいなくても大丈夫だろう。
「そうだ、いいものをあげる」
瞬から渡されたのは、明らかに手作りされたもふもふな毛並みの羊のマスコットだった。
「これ、手編みか?」
「ごめん、いらなかったら、」
「どうやって作ったのか気になっただけだよ。ありがとう。瞬は器用なんだな」
もし私がやってみても、きっと同じようには作れない。
瞬は恥ずかしかったのか、俯いたまま動かなくなってしまった。
「ごめんね。僕、ありがとうって言われ慣れてないから…嬉しくて」
「色々な面でいつも感謝してる」
言葉にするのはあまり得意な方ではないが、瞬相手にははっきり伝えた方がいいようだ。
人との話し方を少し難しく感じていると、黒い塊がドアの方から勢いよく転がってきた。
「今の時期は忙しいんじゃ…」
そこまでで言葉を止めたのは、黒猫の様子が明らかに様子がおかしかったからだ。
「何があった?」
《血だらけ…》
「猫さん!」
体が傾いたところを瞬が咄嗟に支える。
黒猫がおさまっているその手には、血がべっとりついていた。
「あ、あ…」
「…瞬、先生の位置は分かるか?」
「た、多分」
「監査室にいるから呼んできてほしい。申し訳ないけど、できるだけ急いでくれ」
「うん。頑張る」
走っていく瞬の背中を見送り、黒猫を抱えたままできるだけ手早く杖を動かす。
私にできるのは普通の猫に対する治療だけだ。
「結月、もう少しだから持ちこたえてくれ」
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