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第17章『鮮血のバレンタイン』
第122話
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起きない結月を見つめていると、先生が息を切らして入ってきた。
「状況は?」
「傷口を洗ってガーゼで覆ってるけど、結構深い傷だった。けど、毒には詳しくないから…。ごめん、私にできるのはここまでだ」
結月はずっと魘されていて、傷口から菌が入ったにしては異状だった。
「充分だ。傷口はどんな感じだった?」
「細いもので一文字に切りつけられてた。猫相手にやったなら、桐か彫刻刀の可能性が高いと思う」
「カッターナイフじゃないの?」
「カッターならもう少し浅いと思うんだ。だったら、彫るためにあるものなんじゃないかって仮定した」
切り傷なんて何度も見てきているが、他の人が負ったそれは何度見ても慣れない。
正直今も心が砕けそうだ。
「無理しなくていい」
「え?」
瞬の顔がだんだん真っ青になっていく。
グロテスクなのがあまり得意じゃないのかもしれない。
「後で結果を聞きに来るよ」
「すまないが頼む」
「…瞬、歩けるか?」
無言で頷く瞬の手を握り、そのまま真っ直ぐ空き教室へ向かう。
何事もなく辿りつければよかったのだが、そういうわけにはいかないらしい。
「ごめん瞬。少しここでかがんでてくれ」
体調が悪いときにあんなものを視れば、確実に悪化してしまうだろう。
明らかに人間ではないものがこちらに迫ってきている。
《ゲヘ、ゲヘ…》
何かを探すように辺りを見回す姿は、その一言にふさわしいものだった。
「…血だらけ」
ゲヘゲヘと言いながら、そのままはじめから何もいなかったように姿を消す。
相手まで私の声は届いていなかったことに安堵しつつ、なんとか見つからずにやり過ごせたようだ。
チャイムが鳴ると同時にラジオに向かって声をかけた。
「桜良、もし聞こえているなら返事をしてほしい」
『詩乃先輩?』
「話したいことがあるからそのまま聞いててくれ。…瞬、歩けるか?」
「う、うん」
顔色が悪いまま、よたよたと立ちあがる瞬に手を伸ばす。
いつもより弱々しく握られたのを握り返し、目的地に辿り着いた。
「詩乃ちゃん」
「どうした?」
「もし、詩乃ちゃんがいいなら…ここで少し、休んでいかない?」
その扉の先にあるのは瞬の部屋だ。
ひとりにしておくのも心配で、ふたつ返事でお邪魔させてもらうことにする。
「大丈夫。余程のことがない限り私はここにいるから」
「うん。ありがとう…」
ベッドに横になった瞬はゆっくり瞼をおろす。
寝息を立てはじめた頃、もう1度ラジオに向かって小声で話しかけた。
「結月がやられた。相手は血だらけのでかぶつ、攻撃系統やどういう相手なのかまでは分かってない」
『怪我をしたんですか?』
「うん。屋上にいたら逃げてきた」
桜良はかなり心配している様子だったが、やがてぱらぱらと頁を捲る音が聞こえはじめる。
『最近広まっている噂でそういうものはありません。ただ、もし力をつけたことによって見た目まで変わっているならなんとも言えません』
「そうか。情報収集を頼んでいいかな?」
『分かりました』
「ありがとう。何かあったらすぐ連絡してくれ」
ラジオから声が聞こえなくなったところで、耳につけていたインカムから声が流れてくる。
『流山はどうだ?』
「今は寝てる。ひとりになるのが怖いみたいだから一緒にいるけど、結月は大丈夫そうか?」
『幸い毒にやられた形跡はない。高熱が出ているのは傷を負ったことそのものが原因だろう』
「そっか。早く元気になるといいんだけど…」
少し沈黙が流れた後、先生がゆっくり話しはじめた。
『昔からグロテスクなものが苦手だった。生物の授業ばかりサボるからどうしてかと思っていたら、解剖図が出てくるからだって…。
感受性が強いんだろうな。それから、傷ついている人を見るのが苦手らしい』
「瞬らしいな」
優しいから苦手なんだろう。
色々考えていると、瞬が小さく先生を呼んだ。
「先生、場所交代しないか?多分今の瞬が1番側にいてほしいのは先生だろうから」
『そういうものか?』
「そういうものだよ」
先生にこっちに来てもらってから、監査室へ向けて杖の動きを早める。
あの大きなものの正体や結月が狙われた理由を考えていて、ふと恋愛電話の様子が気になった。
…陽向が来たら調べに行ってみることにしよう。
「状況は?」
「傷口を洗ってガーゼで覆ってるけど、結構深い傷だった。けど、毒には詳しくないから…。ごめん、私にできるのはここまでだ」
結月はずっと魘されていて、傷口から菌が入ったにしては異状だった。
「充分だ。傷口はどんな感じだった?」
「細いもので一文字に切りつけられてた。猫相手にやったなら、桐か彫刻刀の可能性が高いと思う」
「カッターナイフじゃないの?」
「カッターならもう少し浅いと思うんだ。だったら、彫るためにあるものなんじゃないかって仮定した」
切り傷なんて何度も見てきているが、他の人が負ったそれは何度見ても慣れない。
正直今も心が砕けそうだ。
「無理しなくていい」
「え?」
瞬の顔がだんだん真っ青になっていく。
グロテスクなのがあまり得意じゃないのかもしれない。
「後で結果を聞きに来るよ」
「すまないが頼む」
「…瞬、歩けるか?」
無言で頷く瞬の手を握り、そのまま真っ直ぐ空き教室へ向かう。
何事もなく辿りつければよかったのだが、そういうわけにはいかないらしい。
「ごめん瞬。少しここでかがんでてくれ」
体調が悪いときにあんなものを視れば、確実に悪化してしまうだろう。
明らかに人間ではないものがこちらに迫ってきている。
《ゲヘ、ゲヘ…》
何かを探すように辺りを見回す姿は、その一言にふさわしいものだった。
「…血だらけ」
ゲヘゲヘと言いながら、そのままはじめから何もいなかったように姿を消す。
相手まで私の声は届いていなかったことに安堵しつつ、なんとか見つからずにやり過ごせたようだ。
チャイムが鳴ると同時にラジオに向かって声をかけた。
「桜良、もし聞こえているなら返事をしてほしい」
『詩乃先輩?』
「話したいことがあるからそのまま聞いててくれ。…瞬、歩けるか?」
「う、うん」
顔色が悪いまま、よたよたと立ちあがる瞬に手を伸ばす。
いつもより弱々しく握られたのを握り返し、目的地に辿り着いた。
「詩乃ちゃん」
「どうした?」
「もし、詩乃ちゃんがいいなら…ここで少し、休んでいかない?」
その扉の先にあるのは瞬の部屋だ。
ひとりにしておくのも心配で、ふたつ返事でお邪魔させてもらうことにする。
「大丈夫。余程のことがない限り私はここにいるから」
「うん。ありがとう…」
ベッドに横になった瞬はゆっくり瞼をおろす。
寝息を立てはじめた頃、もう1度ラジオに向かって小声で話しかけた。
「結月がやられた。相手は血だらけのでかぶつ、攻撃系統やどういう相手なのかまでは分かってない」
『怪我をしたんですか?』
「うん。屋上にいたら逃げてきた」
桜良はかなり心配している様子だったが、やがてぱらぱらと頁を捲る音が聞こえはじめる。
『最近広まっている噂でそういうものはありません。ただ、もし力をつけたことによって見た目まで変わっているならなんとも言えません』
「そうか。情報収集を頼んでいいかな?」
『分かりました』
「ありがとう。何かあったらすぐ連絡してくれ」
ラジオから声が聞こえなくなったところで、耳につけていたインカムから声が流れてくる。
『流山はどうだ?』
「今は寝てる。ひとりになるのが怖いみたいだから一緒にいるけど、結月は大丈夫そうか?」
『幸い毒にやられた形跡はない。高熱が出ているのは傷を負ったことそのものが原因だろう』
「そっか。早く元気になるといいんだけど…」
少し沈黙が流れた後、先生がゆっくり話しはじめた。
『昔からグロテスクなものが苦手だった。生物の授業ばかりサボるからどうしてかと思っていたら、解剖図が出てくるからだって…。
感受性が強いんだろうな。それから、傷ついている人を見るのが苦手らしい』
「瞬らしいな」
優しいから苦手なんだろう。
色々考えていると、瞬が小さく先生を呼んだ。
「先生、場所交代しないか?多分今の瞬が1番側にいてほしいのは先生だろうから」
『そういうものか?』
「そういうものだよ」
先生にこっちに来てもらってから、監査室へ向けて杖の動きを早める。
あの大きなものの正体や結月が狙われた理由を考えていて、ふと恋愛電話の様子が気になった。
…陽向が来たら調べに行ってみることにしよう。
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