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第26章『災厄の再来予報』
第193話
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そこに書かれていたのは、ある妖が辿ったあまりに酷い話だった。
「これは酷いな」
『どんな話なんですか?』
「簡単に言うと、盲目の少女を突き落としたのは当時の大地主だったらしい。
それを隠すために呪いとほざいていたが、その結果彼女を大切に想っていた妖が暴走した」
許さない──その言葉には、護れなかった悔しさも混ざっていたのだろう。
「昔からやばい奴はいたってことですね」
「そういうことになるな」
いつの時代も人間は愚かな生き物だということだろう。
確認したところで何が変わるわけでもないが、こういった記事を目にする度人間という種に対する呆れと憎悪が増幅する。
「ここまで調べあげれば、多分もうFAXが送られてくることはないだろう」
『相手はどんな妖なんですか?』
「おっきい奴らしい。大蛇を引き連れた化け物だって記述があるから、もしかしたら怪異状態なのかも」
『…なら、もう1度封印した方がいい?』
「そういうことになるかな。じゃないと、無関係の人間が大量に死ぬことになるから」
ふたりが話しているように再封印するしかないだろう。
それ以外の方法で助けるなんて不可能だ。
「全然姿形も分からないけど、封印の方がいい気がする」
井戸の中に少女がいる可能性だってあるし、少なくとも成仏させるのは難しい。
もたもたして封印のバランスが崩れれば、その場にいるだけで体調を崩すような深刻な事態に陥る。
「今夜決行しますか?」
「そうだな。あまり時間を置いても状態がよくなるとは思えない」
封印が解けて完全に力を取り戻した状態の妖と戦って勝つというのは甘い気がする。
それに、悪いのは人間なのに倒すというのも違うだろう。
『私の結界で鎮めます』
「祈歌か。申し訳ないが頼む。多分引き寄せられて集まる奴もいるから、それの相手は私たちでやるよ」
「ですね。…じゃあ、夜まで休憩ってことにしましょう」
「そうだな。ふたりともありがとう」
桜良の声がまた出なくなる…そのことに申し訳なさを感じながらも、それ以外に方法がないのも事実だ。
弓の手入れをしながら夜になるのを待つ。
今日はバイトもないし、穂乃も泊まりで出かけているので家には誰もいない。
妹も友人との時間を楽しんでいるようでなによりだ。
明るく過ごせているならそれでいい。
「……できた」
矢が足りなくなるかもしれないと思っていたが、予想していたより残りの数が多い。
なんとか今夜中に片をつけられそうだと感じつつ、あの男が出てきたときのことを考える。
今の私なら倒せるだろうか。
「詩乃ちゃん」
「瞬?どうしたんだ?」
「詩乃ちゃんにこれ渡したくて…いらなかったら捨てて」
それは、手編みで作られたコースターと鍋つかみだった。
そういえばもうクリスマスの時期だ。
瞬なりに考えて用意してくれていたのだろう。
「ありがとう。大切に使わせてもらうよ」
瞬はまだ病み上がりだし、先生は仕事が忙しくて多分ちゃんと休めていない。
今回の件は黙って進めることにしよう。
「詩乃ちゃん、ご飯食べないの?」
「食べるよ」
おにぎりと少しのおかずが入った軽食を広げ、無言で一気に食べきった。
「先生のところにいなくていいのか?」
「なんだか忙しそうだから、行ってもじゃまになりそうで…」
「先生なら喜んでくれそうだけどな」
二言三言交わして、瞬は部屋に戻っていった。
『先輩』
「どうした?」
『井戸の底から災いが溢れるらしいって噂が広がっています』
どうして視えない人間というのは面白おかしく噂を広めてしまうのだろう。
「まずいな。これ以上力をつけられたら確実に封印が解ける」
紅を塗り、勢いよく立ちあがる。
もう少し待ちたいところだったが仕方ない。
「予定よりだいぶ早いが、夜仕事をはじめよう」
『了解です!現地集合ってことで』
『頑張ります』
「できるだけ抑えてみるよ。上手くいくかは分からないけど、何もしないよりマシだ」
小走りで現場に向かうと、もうすでに中から泥水のようなものが溢れようとしていた。
「これは酷いな」
『どんな話なんですか?』
「簡単に言うと、盲目の少女を突き落としたのは当時の大地主だったらしい。
それを隠すために呪いとほざいていたが、その結果彼女を大切に想っていた妖が暴走した」
許さない──その言葉には、護れなかった悔しさも混ざっていたのだろう。
「昔からやばい奴はいたってことですね」
「そういうことになるな」
いつの時代も人間は愚かな生き物だということだろう。
確認したところで何が変わるわけでもないが、こういった記事を目にする度人間という種に対する呆れと憎悪が増幅する。
「ここまで調べあげれば、多分もうFAXが送られてくることはないだろう」
『相手はどんな妖なんですか?』
「おっきい奴らしい。大蛇を引き連れた化け物だって記述があるから、もしかしたら怪異状態なのかも」
『…なら、もう1度封印した方がいい?』
「そういうことになるかな。じゃないと、無関係の人間が大量に死ぬことになるから」
ふたりが話しているように再封印するしかないだろう。
それ以外の方法で助けるなんて不可能だ。
「全然姿形も分からないけど、封印の方がいい気がする」
井戸の中に少女がいる可能性だってあるし、少なくとも成仏させるのは難しい。
もたもたして封印のバランスが崩れれば、その場にいるだけで体調を崩すような深刻な事態に陥る。
「今夜決行しますか?」
「そうだな。あまり時間を置いても状態がよくなるとは思えない」
封印が解けて完全に力を取り戻した状態の妖と戦って勝つというのは甘い気がする。
それに、悪いのは人間なのに倒すというのも違うだろう。
『私の結界で鎮めます』
「祈歌か。申し訳ないが頼む。多分引き寄せられて集まる奴もいるから、それの相手は私たちでやるよ」
「ですね。…じゃあ、夜まで休憩ってことにしましょう」
「そうだな。ふたりともありがとう」
桜良の声がまた出なくなる…そのことに申し訳なさを感じながらも、それ以外に方法がないのも事実だ。
弓の手入れをしながら夜になるのを待つ。
今日はバイトもないし、穂乃も泊まりで出かけているので家には誰もいない。
妹も友人との時間を楽しんでいるようでなによりだ。
明るく過ごせているならそれでいい。
「……できた」
矢が足りなくなるかもしれないと思っていたが、予想していたより残りの数が多い。
なんとか今夜中に片をつけられそうだと感じつつ、あの男が出てきたときのことを考える。
今の私なら倒せるだろうか。
「詩乃ちゃん」
「瞬?どうしたんだ?」
「詩乃ちゃんにこれ渡したくて…いらなかったら捨てて」
それは、手編みで作られたコースターと鍋つかみだった。
そういえばもうクリスマスの時期だ。
瞬なりに考えて用意してくれていたのだろう。
「ありがとう。大切に使わせてもらうよ」
瞬はまだ病み上がりだし、先生は仕事が忙しくて多分ちゃんと休めていない。
今回の件は黙って進めることにしよう。
「詩乃ちゃん、ご飯食べないの?」
「食べるよ」
おにぎりと少しのおかずが入った軽食を広げ、無言で一気に食べきった。
「先生のところにいなくていいのか?」
「なんだか忙しそうだから、行ってもじゃまになりそうで…」
「先生なら喜んでくれそうだけどな」
二言三言交わして、瞬は部屋に戻っていった。
『先輩』
「どうした?」
『井戸の底から災いが溢れるらしいって噂が広がっています』
どうして視えない人間というのは面白おかしく噂を広めてしまうのだろう。
「まずいな。これ以上力をつけられたら確実に封印が解ける」
紅を塗り、勢いよく立ちあがる。
もう少し待ちたいところだったが仕方ない。
「予定よりだいぶ早いが、夜仕事をはじめよう」
『了解です!現地集合ってことで』
『頑張ります』
「できるだけ抑えてみるよ。上手くいくかは分からないけど、何もしないよりマシだ」
小走りで現場に向かうと、もうすでに中から泥水のようなものが溢れようとしていた。
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