280 / 302
第30章『魔王と夜紅の決着-新たな絶望の幕開け-』
第227話
しおりを挟む
「さっきぶりだな。また飛び降りるのか?」
目玉が飛び出し、もう少女だった面影は殆どない。
《と、止まラナい…》
「少し熱いと思うが我慢してくれ」
ここで全ての技を使うわけにはいかない。
だからといって、このまま放っておけばこの少女は手遅れになる。
悩んだ末、弓より火炎刃の方が対処しやすいと判断した。
「──燃えあがれ」
噂が原因でできたと思われる傷を少しずつ焼き払っていく。
炎を使い方を間違えれば殺してしまうが、この程度なら消毒ですむだろう。
じたばた暴れていた少女は少ししておとなしくなった。
《あれ、私…そうだ、弟はどうなったの?》
「なんとか止められたよ。…あの腕はおまえのだったんだよな?」
《切り離すのは痛かったけど、私は死んでるんだから…最期くらい、いいお姉ちゃんでいたかった》
少女の心はどこまでも優しい。
今でも気にしているのは弟妹のことだろう。
「乃木原ビルの事件について調べた。おまえの一件の後、弟妹はすぐに施設に引き取られたらしい。
母親は行方不明のままだが、父親は虐待で逮捕された」
《…もう、私がいなくても大丈夫なんだね。ありがとう。最後にあなたと話せて、私がここにいた意味があったんだって実感できた。
あの男は、あなたを消したがっていたわ。あとは全てを自分のものにするとか話していたけど、正気じゃなかった…》
その体は少しずつ天に向かってのぼっていく。
《すごく寂しかったんだと思うの。お願い、あの男を止めて》
その言葉を最後に少女は消えてしまった。
あの男の噂を捻じ曲げる力があれば、たしかに全てを支配するなんてこともできないわけではないのかもしれない。
…そんなことをしても虚しいだけだろうが。
「墓参り、行ってもいいかな」
『喜んでもらえますよ。無縁仏になってるみたいでしたから』
「起きたのか。体は平気か?」
『落ちてくる人間を受け止めるのって結構痛いんですね』
陽向が苦笑する声がインカム越しに心地よく届く。
「墓がなかったのか、親が何もしなかったのか…」
『内情までは分からないですね。ただ、あの男が絡んでたのは間違いないんですよね?』
「うん。本人から聞いた。全てを支配してどうのと正気じゃない様子で話していたと」
『世界征服ですか?そんなことして何が面白いんだが』
「…自分を認めてくれる世界を造ろうとしているのかもしれないな」
あの男は私みたいに大切なものがあるわけじゃない。
家に縛られ、家から不遇な扱いを受け、怪異たちを使って愛を得ようとした人間だ。
やったことは赦されないが、認められたい気持ちは分からなくもない。
私はたまたま私自身を見てくれる母親と楽しく過ごせる妹がいたが、陽向や瞬にはそれがいなかったし桜良に至っては怖がられていると聞いている。
「八尋さんに連絡してみる。情報共有するって話しておいたからな」
『そういえばあの男、味方いるんですかね?俺たちと総力戦になったとして、本気で勝てると思ってるなら笑えます』
「味方か…いないだろうな。強いて言えば、強引に噂を捻じ曲げられた人たちか」
『絆がない仲間ってやつですね。最悪じゃないですか、百鬼夜行みたいに来られたら…自分で言っといてゾッとしました』
「そうならないことを祈ろう」
屋上で月を眺めながら話す。
しばらく沈黙が流れた後、陽向が尋ねてきた。
『…先輩が卒業しても、俺たち一緒に夜仕事続けていいですか?』
「陽向たちがいいなら。私はひとりになっても見回りをやめるつもりはない」
『それならよかった…。先輩に会えないんじゃないかと思ってたので、安心しました』
「人間相手に話すのは得意じゃないけど、大事な友人に会いに行くくらいはしても罰は当たらないだろう」
ひと段落した後の夜風はとても気持ちよくて、その場に腰を下ろして薄荷飴を口に入れる。
卒業してもみんなと離れたくない。…今だけは、そんな我儘を言ってもいいだろうか。
「逃サナい。俺の世界ヲ造ッてやル!」
…まだ全てが片づいていなかったことを知らないまま。
目玉が飛び出し、もう少女だった面影は殆どない。
《と、止まラナい…》
「少し熱いと思うが我慢してくれ」
ここで全ての技を使うわけにはいかない。
だからといって、このまま放っておけばこの少女は手遅れになる。
悩んだ末、弓より火炎刃の方が対処しやすいと判断した。
「──燃えあがれ」
噂が原因でできたと思われる傷を少しずつ焼き払っていく。
炎を使い方を間違えれば殺してしまうが、この程度なら消毒ですむだろう。
じたばた暴れていた少女は少ししておとなしくなった。
《あれ、私…そうだ、弟はどうなったの?》
「なんとか止められたよ。…あの腕はおまえのだったんだよな?」
《切り離すのは痛かったけど、私は死んでるんだから…最期くらい、いいお姉ちゃんでいたかった》
少女の心はどこまでも優しい。
今でも気にしているのは弟妹のことだろう。
「乃木原ビルの事件について調べた。おまえの一件の後、弟妹はすぐに施設に引き取られたらしい。
母親は行方不明のままだが、父親は虐待で逮捕された」
《…もう、私がいなくても大丈夫なんだね。ありがとう。最後にあなたと話せて、私がここにいた意味があったんだって実感できた。
あの男は、あなたを消したがっていたわ。あとは全てを自分のものにするとか話していたけど、正気じゃなかった…》
その体は少しずつ天に向かってのぼっていく。
《すごく寂しかったんだと思うの。お願い、あの男を止めて》
その言葉を最後に少女は消えてしまった。
あの男の噂を捻じ曲げる力があれば、たしかに全てを支配するなんてこともできないわけではないのかもしれない。
…そんなことをしても虚しいだけだろうが。
「墓参り、行ってもいいかな」
『喜んでもらえますよ。無縁仏になってるみたいでしたから』
「起きたのか。体は平気か?」
『落ちてくる人間を受け止めるのって結構痛いんですね』
陽向が苦笑する声がインカム越しに心地よく届く。
「墓がなかったのか、親が何もしなかったのか…」
『内情までは分からないですね。ただ、あの男が絡んでたのは間違いないんですよね?』
「うん。本人から聞いた。全てを支配してどうのと正気じゃない様子で話していたと」
『世界征服ですか?そんなことして何が面白いんだが』
「…自分を認めてくれる世界を造ろうとしているのかもしれないな」
あの男は私みたいに大切なものがあるわけじゃない。
家に縛られ、家から不遇な扱いを受け、怪異たちを使って愛を得ようとした人間だ。
やったことは赦されないが、認められたい気持ちは分からなくもない。
私はたまたま私自身を見てくれる母親と楽しく過ごせる妹がいたが、陽向や瞬にはそれがいなかったし桜良に至っては怖がられていると聞いている。
「八尋さんに連絡してみる。情報共有するって話しておいたからな」
『そういえばあの男、味方いるんですかね?俺たちと総力戦になったとして、本気で勝てると思ってるなら笑えます』
「味方か…いないだろうな。強いて言えば、強引に噂を捻じ曲げられた人たちか」
『絆がない仲間ってやつですね。最悪じゃないですか、百鬼夜行みたいに来られたら…自分で言っといてゾッとしました』
「そうならないことを祈ろう」
屋上で月を眺めながら話す。
しばらく沈黙が流れた後、陽向が尋ねてきた。
『…先輩が卒業しても、俺たち一緒に夜仕事続けていいですか?』
「陽向たちがいいなら。私はひとりになっても見回りをやめるつもりはない」
『それならよかった…。先輩に会えないんじゃないかと思ってたので、安心しました』
「人間相手に話すのは得意じゃないけど、大事な友人に会いに行くくらいはしても罰は当たらないだろう」
ひと段落した後の夜風はとても気持ちよくて、その場に腰を下ろして薄荷飴を口に入れる。
卒業してもみんなと離れたくない。…今だけは、そんな我儘を言ってもいいだろうか。
「逃サナい。俺の世界ヲ造ッてやル!」
…まだ全てが片づいていなかったことを知らないまま。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~
馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」
入社した会社の社長に
息子と結婚するように言われて
「ま、なぶくん……」
指示された家で出迎えてくれたのは
ずっとずっと好きだった初恋相手だった。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
ちょっぴり照れ屋な新人保険師
鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno-
×
俺様なイケメン副社長
遊佐 学 -Manabu Yusa-
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
「これからよろくね、ちとせ」
ずっと人生を諦めてたちとせにとって
これは好きな人と幸せになれる
大大大チャンス到来!
「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」
この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。
「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」
自分の立場しか考えてなくて
いつだってそこに愛はないんだと
覚悟して臨んだ結婚生活
「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」
「あいつと仲良くするのはやめろ」
「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」
好きじゃないって言うくせに
いつだって、強引で、惑わせてくる。
「かわいい、ちとせ」
溺れる日はすぐそこかもしれない
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
俺様なイケメン副社長と
そんな彼がずっとすきなウブな女の子
愛が本物になる日は……
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。
だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。
蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。
実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。
貴方もヒロインのところに行くのね? [完]
風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは
アカデミーに入学すると生活が一変し
てしまった
友人となったサブリナはマデリーンと
仲良くなった男性を次々と奪っていき
そしてマデリーンに愛を告白した
バーレンまでもがサブリナと一緒に居た
マデリーンは過去に決別して
隣国へと旅立ち新しい生活を送る。
そして帰国したマデリーンは
目を引く美しい蝶になっていた
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる