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夜、町中にて
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「お疲れ様です」
「待って」
書店の仕事を終えたところで、後ろから突然声をかけられる。
「…?どうしたんですか、中津先輩。山岸先輩まで…」
「木葉でいいよ。もしよかったら、一緒にご飯でも食べに行かないかと思って…都合、悪いかな?」
先輩たちがいい人だということは分かっている。
…だが、今日はもう先約があるのだ。
「すみません。折角誘ってもらってありがたいんですけど、今日はどうしても用事があるんです」
「そっか…じゃあ、これ!僕の電話番号とメールアドレス。もし何かあったら言ってね」
「ありがとうございます。お疲れ様でした」
左眼は前髪で隠しているので色が違うことには気づかれていないだろう。
…もしもそれが分かったら、きっと先輩たちだって態度が変わる。
だったらいっそ、はじめから独りでいた方がいい。
『お待ちしていました』
「遅くなってごめん。それで、俺は何をすればいい?」
『…あれを見てください』
最近、帰り道で見ている光景がある。
瑠璃が指をさす方向には思っていたとおりのものが広がっていて、ああやっぱりそうだったのかと息を吐く。
「あの人、てっきり生きてる人だと思ってた」
『相変わらず見分けがつかないんですね。…八尋ならあの黒い靄が視えるのではありませんか?』
右目ではよく見えないものでも、左眼ならはっきり視えるものがある。
「あれは靄っていうより…」
瑠璃には靄に見えているのかもしれないが、俺には真っ黒な手が女性の目を覆いつくそうとしているように視える。
『…なんとかしたいのですが、私にはどうすることもできません。このまま放置しておいては大変なことになるでしょう』
「そうか…」
本来であれば関わらなくてもいいのかもしれない。
だが、そういう選択肢は最初から存在していなかった。
「一先ず声をかけてみるよ」
上手くいくかどうかなんて分からない。
それでもこのまま放っておくことはやっぱりできなくて、声をかけてみる。
「あの…こんばんは」
『こんばんは」
「そこで何をしているんですか?」
『それは、えっと…」
「夜道には気をつけてください。このあたり、街灯が少ないんです。…よし、できた」
近づいてみると話が通じる相手でよかった。
「突然すみません。腕の傷から血が出ていたので、つい気になってしまったんです。これで大丈夫でしょうか?」
『ア、ありがとうございます」
「それじゃあ、俺はこれで失礼します」
…もう少し会話スキルがあれば、結果は違っただろうか。
『相変わらず会話術ががたがたですね』
「ごめん。あんまり役に立てなくて…」
『彼女にとって、先程の動きは救いになったようですよ』
「そうだといいけど、どうかな?」
生きていようがそうじゃなかろうが、きっと傷は痛む。
だから今できることをした。…あとはまた明日以降にならないと分からない。
「待って」
書店の仕事を終えたところで、後ろから突然声をかけられる。
「…?どうしたんですか、中津先輩。山岸先輩まで…」
「木葉でいいよ。もしよかったら、一緒にご飯でも食べに行かないかと思って…都合、悪いかな?」
先輩たちがいい人だということは分かっている。
…だが、今日はもう先約があるのだ。
「すみません。折角誘ってもらってありがたいんですけど、今日はどうしても用事があるんです」
「そっか…じゃあ、これ!僕の電話番号とメールアドレス。もし何かあったら言ってね」
「ありがとうございます。お疲れ様でした」
左眼は前髪で隠しているので色が違うことには気づかれていないだろう。
…もしもそれが分かったら、きっと先輩たちだって態度が変わる。
だったらいっそ、はじめから独りでいた方がいい。
『お待ちしていました』
「遅くなってごめん。それで、俺は何をすればいい?」
『…あれを見てください』
最近、帰り道で見ている光景がある。
瑠璃が指をさす方向には思っていたとおりのものが広がっていて、ああやっぱりそうだったのかと息を吐く。
「あの人、てっきり生きてる人だと思ってた」
『相変わらず見分けがつかないんですね。…八尋ならあの黒い靄が視えるのではありませんか?』
右目ではよく見えないものでも、左眼ならはっきり視えるものがある。
「あれは靄っていうより…」
瑠璃には靄に見えているのかもしれないが、俺には真っ黒な手が女性の目を覆いつくそうとしているように視える。
『…なんとかしたいのですが、私にはどうすることもできません。このまま放置しておいては大変なことになるでしょう』
「そうか…」
本来であれば関わらなくてもいいのかもしれない。
だが、そういう選択肢は最初から存在していなかった。
「一先ず声をかけてみるよ」
上手くいくかどうかなんて分からない。
それでもこのまま放っておくことはやっぱりできなくて、声をかけてみる。
「あの…こんばんは」
『こんばんは」
「そこで何をしているんですか?」
『それは、えっと…」
「夜道には気をつけてください。このあたり、街灯が少ないんです。…よし、できた」
近づいてみると話が通じる相手でよかった。
「突然すみません。腕の傷から血が出ていたので、つい気になってしまったんです。これで大丈夫でしょうか?」
『ア、ありがとうございます」
「それじゃあ、俺はこれで失礼します」
…もう少し会話スキルがあれば、結果は違っただろうか。
『相変わらず会話術ががたがたですね』
「ごめん。あんまり役に立てなくて…」
『彼女にとって、先程の動きは救いになったようですよ』
「そうだといいけど、どうかな?」
生きていようがそうじゃなかろうが、きっと傷は痛む。
だから今できることをした。…あとはまた明日以降にならないと分からない。
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