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ただの亡霊
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『…私は、神様になりたかったわけでもこんな姿になりたくてなっているわけでもない。
ただよくある死に方をしただけなのに…気づいたらこうなっていた』
「よくある死に方だって言ったけど…本当は、自分が死んだとき寂しかったんじゃない?」
出会ってきた存在の中で時々いた。
…そのあたりに流れていた噂と死んだときの状況が合致し、波長が合ってそのまま噂化してしまうことが。
「…君は、元々のカミキリさんの噂がどんな噂だったか知ってる?」
『いいえ。友だちがいたわけでもないし、噂になんて興味がなかったから…。というより、話す相手がいなかったから知らないのかもしれない』
「…あるところに、孤独を抱えた少女がいた。彼女は自分というものに執着がなくて、人の為になりたいと考える心優しい人だったらしい。
綺麗な黒髪の持ち主で、それが自慢だった。だけどある日、その髪を無残に切り落とされた。…悲しんだ彼女は部屋に籠もって、そのまま病気で死んでしまった。
それからというもの、悪いことをした人間に罰を与える為に鋏を振り続けている」
『それが、カミキリさんの噂…』
「今の君は怪異と呼ばれるものになっているんだと思う。前にも見たことがあるんだ。
君はたまたま噂と同じように寂しい思いを抱えて死んだ。だから噂そのものになっちゃったんじゃないかな?」
『噂そのもの…』
しばらく沈黙が流れた後、思い切って訊いてみた。
「…これからどうしたい?」
『私は、人を傷つけたいわけじゃない。だけど、不思議とこのままでいれば寂しくないの。
ただ、誰彼構わず動くのを止められない。どうすれば人を傷つけずにいられるのか分からない…』
やはり彼女は優しい人だ。
こんなのは絶対に嫌だとか、どうして自分がそうなったのかと口にしそうなものなのに、今もまだ自分より人を傷つけないことを考えている。
「それには、流れている噂を変える必要がある。今大多数の人たちが話しているのは、【神様さえも切れる鋏で髪を切られるか食べられてしまう】というものなんだ。
それを少しずつ変えていければ、きっとさっきみたいに鋏たちが人を傷つける為に動くことはなくなると思う」
『…どうすればいいの?』
「できるだけ早く噂を広めるには、掲示板とかネットを使うのが1番な気もするけど…」
『そんなことよりいい方法があります』
『…鳥が喋った』
「その子は俺の友人なんだ。…それで、いい方法って?」
瑠璃は楽しそうに話してくれた。
『それは…内緒です』
「内緒?」
『とにかく、私がやっておきましょう。それより、あなたは本当に怪異になる覚悟があるのですか?
妖ものとも話せますし、彼のように視える人間とも交流はできますが、色々と制約があります』
「それは、噂が広まるまでの間に考えてみてもらおう。
…また来るから、よく考えておいて」
『ありがとう』
廃墟を出ると、腕がずきずき痛む。
『よどんでいたのが嘘のようです』
「彼女の考え方が変わったからかな」
『…相変わらず、あなたは自分の力に気づいていないのですね』
瑠璃が何か話していたような気がしたものの、聞き返すことができなかった。
ただ、このままいけば彼女は怪異になる。
覚悟がないなら人間として成仏する道も残されているが、果たしてどちらを選ぶだろう。
ただよくある死に方をしただけなのに…気づいたらこうなっていた』
「よくある死に方だって言ったけど…本当は、自分が死んだとき寂しかったんじゃない?」
出会ってきた存在の中で時々いた。
…そのあたりに流れていた噂と死んだときの状況が合致し、波長が合ってそのまま噂化してしまうことが。
「…君は、元々のカミキリさんの噂がどんな噂だったか知ってる?」
『いいえ。友だちがいたわけでもないし、噂になんて興味がなかったから…。というより、話す相手がいなかったから知らないのかもしれない』
「…あるところに、孤独を抱えた少女がいた。彼女は自分というものに執着がなくて、人の為になりたいと考える心優しい人だったらしい。
綺麗な黒髪の持ち主で、それが自慢だった。だけどある日、その髪を無残に切り落とされた。…悲しんだ彼女は部屋に籠もって、そのまま病気で死んでしまった。
それからというもの、悪いことをした人間に罰を与える為に鋏を振り続けている」
『それが、カミキリさんの噂…』
「今の君は怪異と呼ばれるものになっているんだと思う。前にも見たことがあるんだ。
君はたまたま噂と同じように寂しい思いを抱えて死んだ。だから噂そのものになっちゃったんじゃないかな?」
『噂そのもの…』
しばらく沈黙が流れた後、思い切って訊いてみた。
「…これからどうしたい?」
『私は、人を傷つけたいわけじゃない。だけど、不思議とこのままでいれば寂しくないの。
ただ、誰彼構わず動くのを止められない。どうすれば人を傷つけずにいられるのか分からない…』
やはり彼女は優しい人だ。
こんなのは絶対に嫌だとか、どうして自分がそうなったのかと口にしそうなものなのに、今もまだ自分より人を傷つけないことを考えている。
「それには、流れている噂を変える必要がある。今大多数の人たちが話しているのは、【神様さえも切れる鋏で髪を切られるか食べられてしまう】というものなんだ。
それを少しずつ変えていければ、きっとさっきみたいに鋏たちが人を傷つける為に動くことはなくなると思う」
『…どうすればいいの?』
「できるだけ早く噂を広めるには、掲示板とかネットを使うのが1番な気もするけど…」
『そんなことよりいい方法があります』
『…鳥が喋った』
「その子は俺の友人なんだ。…それで、いい方法って?」
瑠璃は楽しそうに話してくれた。
『それは…内緒です』
「内緒?」
『とにかく、私がやっておきましょう。それより、あなたは本当に怪異になる覚悟があるのですか?
妖ものとも話せますし、彼のように視える人間とも交流はできますが、色々と制約があります』
「それは、噂が広まるまでの間に考えてみてもらおう。
…また来るから、よく考えておいて」
『ありがとう』
廃墟を出ると、腕がずきずき痛む。
『よどんでいたのが嘘のようです』
「彼女の考え方が変わったからかな」
『…相変わらず、あなたは自分の力に気づいていないのですね』
瑠璃が何か話していたような気がしたものの、聞き返すことができなかった。
ただ、このままいけば彼女は怪異になる。
覚悟がないなら人間として成仏する道も残されているが、果たしてどちらを選ぶだろう。
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