20 / 163
おかめ仮面
しおりを挟む
瑠璃は何も言わず側にいてくれたけど、かたんと音がして遠慮がちに声をかけた。
『…八尋、相談事のようですよ』
「相談事?」
体を起こすと、先程神社で見かけたおかめがこちらに一礼した。
真面目なのか入れなかったのか、ベランダで立ち尽くしているように見える。
慌てて開けると、ゆっくり部屋に入った。
「さっきいた…」
『やはり視えておいででしたか。人間に関すること故、私では手出しできずお願いに参りました』
「神社の偉い護り人、みたいなものですよね?そんな立派な人にお願いされるような立場じゃ、」
『他に頼れるものがいないのです。…あなたならきっと、ワカを救ってくれるはず』
この人に感謝されているということは、余程あの神社によくした人に違いない。
…一先ず話を聞こう。
「そのワカさんっていう人は、どこにいるんですか?」
『成仏できず、いつも公園の砂場を見つめております。これを解決したのがあなた様だと、風の噂で聞きました』
そこには、《殺された被害者が探偵で、彼女の恋人が証拠を見つけて犯人確保》の文字。
「…それは、恋人さんが頑張った結果だよ。俺はただ、彼女の願いを叶えたにすぎない」
『見返りを求めないその姿勢がよろしいのでは?大抵の人間は、困ったときだけ神だの仏だのに縋り神社に来るものです。
…あなたはあの子と同じ、無欲だとお見受けしました』
「それじゃあ、ワカさんっていう人は君にとって大切な人なんだね」
おかめは頷くと、ワカさんとの話をしてくれた。
いつも歌を詠んでいたこと、独りで寂しそうに俯いていたこと、実は視える人で会う度話をしていたこと…。
おかめは哀しそうに話を続ける。
『本来であれば、私がなんとかしたい。ですが、神社の規則によりそれが叶いません。
どうか…どうかお願いします』
「分かった。絶対に、とは言えないけど約束する。必ず公園に顔を出すよ」
『ありがとうございます…!』
こんなに頭を下げられては断れない。
話が嘘とも思えない為、引き受けてみることにした。
「その公園というのは、一体どこに…」
『さつきが丘公園です。それでは、お願いいたします』
おかめは慌ただしく去っていく。
「神社付きって忙しいの?」
『割と。あの者は位が高そうでしたし、余計に忙しいのでしょうね』
「…俺、途中からため口使っちゃった」
『大丈夫です。その程度のことも寛容できない心が狭ければ、あれほどの力は与えられていないはずですから』
「そういうものなんだ…」
さつきが丘公園…その場所は、いつも海岸で星を観るときに使っていた道にあった。
「…しばらく海で星見になるかもしれない」
『海ですか?』
「あの近くに公園があっただろ?…おかめの話が間違っていないなら、あそこにいるらしいんだ」
ワカさんということは恐らく女性だと思うが、何故神社ではなくその場所に留まり続けているんだろう。
…そこはやはり、直接話を聞きに行くしかない。
『…八尋、相談事のようですよ』
「相談事?」
体を起こすと、先程神社で見かけたおかめがこちらに一礼した。
真面目なのか入れなかったのか、ベランダで立ち尽くしているように見える。
慌てて開けると、ゆっくり部屋に入った。
「さっきいた…」
『やはり視えておいででしたか。人間に関すること故、私では手出しできずお願いに参りました』
「神社の偉い護り人、みたいなものですよね?そんな立派な人にお願いされるような立場じゃ、」
『他に頼れるものがいないのです。…あなたならきっと、ワカを救ってくれるはず』
この人に感謝されているということは、余程あの神社によくした人に違いない。
…一先ず話を聞こう。
「そのワカさんっていう人は、どこにいるんですか?」
『成仏できず、いつも公園の砂場を見つめております。これを解決したのがあなた様だと、風の噂で聞きました』
そこには、《殺された被害者が探偵で、彼女の恋人が証拠を見つけて犯人確保》の文字。
「…それは、恋人さんが頑張った結果だよ。俺はただ、彼女の願いを叶えたにすぎない」
『見返りを求めないその姿勢がよろしいのでは?大抵の人間は、困ったときだけ神だの仏だのに縋り神社に来るものです。
…あなたはあの子と同じ、無欲だとお見受けしました』
「それじゃあ、ワカさんっていう人は君にとって大切な人なんだね」
おかめは頷くと、ワカさんとの話をしてくれた。
いつも歌を詠んでいたこと、独りで寂しそうに俯いていたこと、実は視える人で会う度話をしていたこと…。
おかめは哀しそうに話を続ける。
『本来であれば、私がなんとかしたい。ですが、神社の規則によりそれが叶いません。
どうか…どうかお願いします』
「分かった。絶対に、とは言えないけど約束する。必ず公園に顔を出すよ」
『ありがとうございます…!』
こんなに頭を下げられては断れない。
話が嘘とも思えない為、引き受けてみることにした。
「その公園というのは、一体どこに…」
『さつきが丘公園です。それでは、お願いいたします』
おかめは慌ただしく去っていく。
「神社付きって忙しいの?」
『割と。あの者は位が高そうでしたし、余計に忙しいのでしょうね』
「…俺、途中からため口使っちゃった」
『大丈夫です。その程度のことも寛容できない心が狭ければ、あれほどの力は与えられていないはずですから』
「そういうものなんだ…」
さつきが丘公園…その場所は、いつも海岸で星を観るときに使っていた道にあった。
「…しばらく海で星見になるかもしれない」
『海ですか?』
「あの近くに公園があっただろ?…おかめの話が間違っていないなら、あそこにいるらしいんだ」
ワカさんということは恐らく女性だと思うが、何故神社ではなくその場所に留まり続けているんだろう。
…そこはやはり、直接話を聞きに行くしかない。
0
あなたにおすすめの小説
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
後宮一の美姫と呼ばれても、わたくしの想い人は皇帝陛下じゃない
ちゃっぷ
キャラ文芸
とある役人の娘は、大変見目麗しかった。
けれど美しい娘は自分の見た目が嫌で、見た目を褒めそやす人たちは嫌いだった。
そんな彼女が好きになったのは、彼女の容姿について何も言わない人。
密かに想いを寄せ続けていたけれど、想い人に好きと伝えることができず、その内にその人は宦官となって後宮に行ってしまった。
想いを告げられなかった美しい娘は、せめてその人のそばにいたいと、皇帝の妃となって後宮に入ることを決意する。
「そなたは後宮一の美姫だな」
後宮に入ると、皇帝にそう言われた。
皇帝という人物も、結局は見た目か……どんなに見た目を褒められようとも、わたくしの想い人は皇帝陛下じゃない。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
烏の王と宵の花嫁
水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。
唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。
その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。
ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。
死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。
※初出2024年7月
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる